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【キス・ミー・パティシエ】楽曲分析レポート〜TikTok今週の1曲
こんにちは、山本です!
今回は「キス・ミー・パティシエ / CANDY TUNE」についてのレポートになります。
※記事内で登場する数字は全て執筆時現在(2025年2月)のものです。
執筆:スイ・山本慶太朗(株式会社ハイトリンク)
アイドルソングHitを狙うなら『必修の一曲』
早速ですが、今回は本レポートシリーズの中でもかなり面白い回となっています。
なぜなら本楽曲はアイドル曲の一つですが、その中で素晴らしい要素からわずかに惜しい要素まで様々に含まれており、確かに一定のヒットは生んでいるのですが、リリースから約6ヶ月経った今UGCが約3万と爆発的に伸びてはいないのが現状です。
(TikTokでのUGCがで始めた時期で言うならさらに昔の約2年前)
参考までに、2024年大きなインパクトを残した「かわいいだけじゃだめですか?/ CUTIE STREET」はリリースから2ヶ月足らずでUGC15万を叩き出していることを考えると、この曲ももっとバズっても良さそう…と思われるのではないでしょうか。
※UGCとはUser Generated Content の略で、特定の楽曲を使って不特定多数のユーザーが投稿した動画の数を指します。
ちなみに楽曲使用数(UGC数)はこちらの方法で確認できます。
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↓↓

つまり、この楽曲を分析することで「バズる要素・バズらない要素」…
総じて昨今のアイドルソングヒットに必要な要素を過去の事例も交えながら網羅的に学ぶことができ、「過去ヒット曲を参考に曲作ってみたけど思ったよりヒットしなかった…」という本レポートシリーズをお読みの方が次にぶつかりそうな壁を突破するヒントも、このレポートを通して全てお伝えできる必修回となっております。
後半のセクションでは「弊社が実際にヒット曲を作るなら?」という想定でリアルな思考の流れや実際の作曲アイディアまで全てお見せしていますので、最後までお付き合いいただければ幸いです。
【超重要】バズの分岐点を解き明かせ
まずいつものシリーズと同様に、どこを起点にバズが始まり、そのバズがどのようなきっかけでどんな場所に広がっていったのかを分析していきましょう。
今回であれば、その過程でUGCが爆発的には伸びなかった分岐点がどこかにあるはずです。
それを紐解くべく、今回も【イノベーター理論】を用いて分析をしております。
イノベーター理論とはサービス等の市場での普及率を示すマーケティング理論の一つになります。
※詳しくは以下のサイトを参照ください。
今回もそれに倣い拡大経路の順を以下の3つに区分してリサーチいたしました。
それぞれの区切りは本家リリースから投稿までの期間で判断します。
ざっくり以下の通りの認識で今回は分析します。
(1) イノベーター (一番最初に広まったきっかけ)
→今回はリリース以降、最初に明らかなバズを生み出したUGC
(2) アーリーイノベーター (初期段階で拡散されたきっかけ)
→ 今回は(1)以降、約45日以内で投稿されたもの
(3) アーリーマジョリティ (早期段階でさらに拡散されたきっかけ)
→今回は(1)以降、約45日以降で投稿されたもの
(1)イノベーター
今回のイノベーターはファンの方がアイドルのライブ映像を撮影したいわゆる「推し動画」になります。
一番最初 (2024/6/23)に投稿された動画の再生数はなんと870万回を記録しています。
@canryutune 🌹:「...お前昨日福岡いたよな!?」 8/7リリースの1stシングル「キス・ミー・パティシエ」のリリイベにて。 @立花琴未 @CANDY TUNE #立花琴未 #きゃんちゅー #CANDYTUNE #推しカメラ #アイドル #運営さん大好き #キスミーパティシエ #キスパティ
♬ キス・ミー・パティシエ - 愛してね ver. - CANDY TUNE
2024年にヒットしたアイドル曲は本家がイノベーターになることが多かったですが、今回はこのような形でイノベーターが出現した少し珍しい事例です。
こういった動画がUPされるのはシンプルにファンの愛ゆえではありますが、なぜそれが伸びるのか?という理由については以下が弊社の見解になります。
【なぜファン目線のアイドル動画が伸びた?】
結論「既視感のあるコンテンツ」はショート動画バズのセンターピンだからです。
まずそもそもSNSで伸びるコンテンツの一例として、子供の頃漫画で見た既視感のあるアツい展開はバズります。
例えば敵だった奴がもっと強い敵が現れて味方になるとか、転校生の美少女と朝街角でぶつかるとか、そういうものですね。
例えば暴露系配信者の「コレコレ」さんなどは「弱者を守るために巨悪を討つダークヒーロー」なのでこれは人気アニメ「コードギアス」と共通するものがありますし、かつて国内登録者最多を誇った人気DJグループ「レペゼン地球」も借金を重ねに重ね結局返せずに解散していく姿は人気漫画「カイジ」を彷彿とさせます。
つまりそういうアツいストーリーにユーザーは「既視感」を覚え反応するということです。
この動画もそれと似た現象が起きていて「クラス1の美少女と目があってこの瞬間だけは二人の時間が流れた...」のようなな恋愛漫画の王道を没入感高く体験できる。
故に伸びたと踏んでいます。
ーーーーー
さて、その上で肝心なのはここからどう広がっていくのか?
(2)アーリーアダプター
本家&推し動画
@userm83072gi5d エトセトLOVEYOUが流れるはずが キス・ミー・パティシエが流れる ビックリするメンバーが可愛い この動画は6人ですが、普段は宮野静ちゃんという歌姫がいて7人で活動しています。 #超NATSUZOME2024 #きゃんちゅー #アイドル #運営さん大好き #fyp #キスミーパティシエ @CANDY TUNE
♬ オリジナル楽曲 - ゆーじ - ゆーじ
@kotomi_5chan タワレコ先着特典予約してくれましたか?💿♥️#立花琴未 #キスパティ #おすすめ
♬ キス・ミー・パティシエ - 愛してね ver. - CANDY TUNE
ここは当然の如く本家が取り上げ、ファンの映像も引き続き散見され、どれも数十万再生とそれなりに伸びています。
しかし重要なのはここからで、2024年アイドルヒット曲の流れであればイノベーターが現れた時点で他にどこかしらの界隈が流行を先取りし始めるはずですが、今回はどうでしょうか?
可愛いをこよなく愛するクリエイター複数
一生友子 77万再生
@yunahinakolove 思わせぶりとか絶対許さないからね💢💢#一生友子
♬ キス・ミー・パティシエ - 愛してね ver. - CANDY TUNE
アイドルクリエイター : 春瀬もも 130万再生
@161omom__ @春瀬もも なんと昨日の続編ですっ!!推しにしちゃおっか?⸜♡⸝#演じてみた
♬ キス・ミー・パティシエ - 愛してね ver. - CANDY TUNE
このような形で界隈での普及は見られず、単発で可愛い!と反応したクリエイターが取り上げる程度でした。
この時点で少しいつもと異なる現象が起きていますね。
もう少し見ていきましょう。
(3)アーリーマジョリティ
同事務所アイドルグループ
@cutie_street 思わせぶりとか絶対許さないからね #CUTIESTREET #きゅーすと #アイドル #KAWAII #fyp #キスミーパティシエ
♬ キス・ミー・パティシエ - 愛してね ver. - CANDY TUNE
本家
@kotomi_5chan 目線を合わせるのも緊張するくらい大好きな天音ちゃんと🥺 天音ちゃん背伸びしてる🤦🏻♀️♥️ @月足天音- ̗̀🌙 ̖́-FRUITS ZIPPER
♬ キス・ミー・パティシエ - 愛してね ver. - CANDY TUNE
同事務所アイドルグループの個人アカウント
@m_ayano26 愛してねっ ❕❕❕ ୨୧ 💞 #CANDYTUNE さん #キスミーパティシエ #CUTIESTREET #きゅーすと
♬ キス・ミー・パティシエ - 愛してね ver. - CANDY TUNE
ついにここでCUTIE STREETなどTikTok内でインフルエンス力のあるグループが取り上げはじめ、ミリオン超えの動画を連発します。
ここは同じ事務所なので協力した形でしょう。
あとは相変わらず推し動画が伸びている中で、
ここまで来れば、流石にどこかしらの界隈が反応しそうなものですがどうでしょうか?
↓↓↓
雑多界隈 (結婚式の映像)
@mihi1020 念願の!!!結婚式再入場でキスミーパティシエ🍩 絶対これ使いたいと思って、 運良くCDリリースあって本当にタイミングがめっちゃよかった 歌可愛すぎてテンション爆上がりした🫶🏻#キスミーパティシエ #きゃんちゅー #キャンディーチューン
♬ キス・ミー・パティシエ - 愛してね ver. - CANDY TUNE
地雷系女子
TOPTikToker
@natsuki.0804 @🦄💙MINAMI💙🦄
♬ キス・ミー・パティシエ - 愛してね ver. - CANDY TUNE
中にはTopTikTokerの反応も見られるものの、相変わらず単発での普及、界隈を渡ってのUGC拡大は見られませんでした。
結局ここまで界隈と呼べる規模でUGCしたのは
・推し動画
・本家&同事務所アイドルグループ
のみ。
つまり特定のファンにとって強く刺さる (そこだけで多くUGCされる) 要素はあったが、他のクリエイターが使いたくなる要素は作れていなかった。
これが本楽曲がUGC3万で止まってしまっている理由だということがわかります。
ではその「他のクリエイターが使いたくなる要素」とは何なのでしょうか?
バズの命運を握るコアとは?
結論からお伝えすると…
・哲学の明確さ
・UGCしたくなるキャッチーな要素 (既存曲との差別化)
ここが若干不足していたというのが見解になります。
それを解説するために、前セクションの拡大経路を振り返りたいのですが、
前セクションの分岐点で着目すべきは「流行敏感女子界隈」です。
過去にこのレポートシリーズで紹介した2曲はいずれもイノベーターが現れた後に「流行敏感女子界隈」がアーリーアダプターとなって大きくUGCを広げている傾向にありました。
(振り返りたい方はこちらをご覧ください)
そんな彼女ら「流行敏感女子界隈」が積極的にUGCをする理由は、彼女らには「いち早くバズりたい!」という欲求があり、トレンドになりそうな曲にはすぐ食いつくからです。
しかし今回は本家やその周りのアイドル、その他一部の動画が伸びたにも関わらず彼女らにUGCされることはなく、それ故にその先の界隈にも広がらず止まってしまっています。
それを踏まえると今回すべき分析は「なぜ流行敏感女子界隈がこの曲を使わなかったのか?」と言えますので、先ほどの結論について1つずつ解説していきたいと思います。
①哲学の明確さ
そもそもTikTokでヒットする楽曲の特徴として、特に2024年を参考にするなら「1曲につき"1哲学"を持っている」という点が一つ挙げられます。
例えば
・「はいよろこんで / こっちのけんと」
= 昨今の経済的な困窮、辛い環境もあるがSOSを出して良い、その中で楽しく生きるというギリギリダンスは「社会的抑圧への反抗」
・「元彼女のみなさまへ / コレサワ」
= 具体的な恋愛による女子が強く共感できるコンセプト、それを動画として使ったときの「自己肯定感UP」
@koresawa_519 @mia🎀 ちゃんが振り付けしてくれたの踊ってみた🫶みんなも踊ってねー! #コレサワ#元彼女のみなさまへ #newmusic
♬ Dear ex-girlfriends (1 Chorus Ver.) - Koresawa
・「おともだち - いつもありがとうver. / edhiii boi」
= 単純に”おともだち”という「平和」が文脈となり、コラボなどUGCとの相性も良いため伸びた
@localcampione dc:@YUKI🍓【ローカルカンピオーネ】 毎日おれらのチャレンジを踊ってくれるみんな!もうおともだちになれたよな❤️🔥死ぬまでおともだちに囲まれてカメラにハイチーズしてたいぜ✌🏼✌🏼 #おともだち #edhiiiboi #ローカルカンピオーネ #localcampione
♬ Friends - Itsumoarigatou Version - edhiii boi
これはアイドル曲に関しても同様で
・「最上級にかわいいの!/ 超ときめき♡宣伝部」
= 逆境に立ち向かう乙女の姿が共感や勇気を与え、「自己肯定感UP」になる
@tokisen_official [🎥] 最上級にかわいいの!🫶✨ キラキラ衣装ver. #最上級にかわいいの企画 #最上級にかわいいの #超とき宣 #失恋 #失恋ソング #kawaii #idol #tokisen #fyp #fypシ #추천
♬ 最上級にかわいいの! - 超ときめき♡宣伝部
・「かわいいだけじゃだめですか?/ CUTIE STREET」
= かわいい”だけ”でも良くない?という「自己承認」、自分をもっと簡単に認めて良いという寄り添いの哲学
@cutie_street カウンドダウンTV このあと出演します‼️‼️ かわいいだけじゃだめですか? #CUTIESTREET #きゅーすと #KAWAII #アイドル #fyp
♬ かわいいだけじゃだめですか? - 1サビ - CUTIE STREET
などなど、簡単に言えばその曲が持つ「コンセプト」がハッキリしています。
コンセプトがハッキリしていることによってクリエイターが共感し、「これ私に合った曲だ!」と思いUGCに至るわけです。
では「キス・ミー・パティシエ」はどうか?
「愛してね 思わせぶりとか 絶対許さないからね」
「ぎゅってして」
「可愛いあの子は恋してるかもしれないけど」
「愛してる 愛してる 愛してる」
端的に言うなら「視聴者への愛情表現・アピール」というのがしっくり来ると思いますが、これはどちらかと言えば可愛いを表現するための「切り口」であって、「哲学」とは少し異なるというのが弊社の見解です。
その人の感情が動くような (主に共感できる) 社会的なメッセージが込められているのが「哲学」だとするなら、本楽曲は訴求が若干ストレートすぎて、他楽曲に比べると埋もれてしまった可能性が考えられます。
また先ほど紹介した楽曲リストの哲学はどれもクリエイター・視聴者双方が共感できる内容だったのに対し、今回の「視聴者へのアピール」というのはクリエイターから見ればわかりやすいコンセプトでも、視聴者からすると少し一方通行なようにも感じられます。
故に双方に共感できる哲学の曲に比べれば、視聴者の感情 (=エンゲージメント) を獲得しにくく、再生数も伸びにくい (=UGCも伸びづらい)。
このような状態になっているのではないかと推測します。
なので「なぜ流行敏感女子界隈がこの曲を使わなかったのか?」という問いに対して、
・哲学の訴求が少しシンプルすぎた (時代に沿ったトレンド感、目新しさがない)
・視聴者目線では若干共感しにくいコンセプトだった
= 流行敏感女子が次に流行るとか可愛いとか思い辛かった
というのが結論になります。
流行敏感の流行とは、新しいムーブメントのことなので、そういう意味ではこの曲に新しいムーブメントが含まれていないと言えるかもしれません。
【補足】 今のショート市場は体験や没入感が重要だというお話
先ほどの新しいムーブメント、という話とつながりますが、例えば2020年など少し前であれば以下のようなコンテンツでも普通にバズっていました。
・とりあえず可愛い
・とりあえずハピネスを感じる
しかし、昨今は動画全体のクオリティが上がってるので、もっとショートとして体験を最適化していく動画や音楽にならないと伸びづらいというのが弊社の見解です。
その最適化というのをあえて言語化するなら「体験・没入感・感情移入」のようなイメージが挙げられるかと思います。
さて、「何がバズるために必要なのか?」というテーマに話を戻します。
②UGCしたくなるキャッチーな要素 (=既存曲との差別化)
もう一つの要素として例えば「かわいいだけじゃだめですか?」は曲中にUGCを楽しくできそうな要素が含まれていました。
以下の2点などがそれに当たります。
・「右左正面」などの映像指示
・歌舞伎の振り付け
上記はパッと曲を聴いた時に「楽しく・可愛く動画を撮れそうなイメージ」が湧くためシンプルにTikTokというフィールドの上ではウケが良いです。
また「右・左・正面 キュン死させちゃう!」などのリズミカルなテンポに感覚的な訴求 (理路整然とした文章ではない) が詰まった音楽というのは、比較的”今っぽい”印象を受けるため視聴者ウケも良いです。
例) POP IN 2 / B小町
@oshinoko_anime_official 【推しの子】B小町が POP IN 2踊ってみた🌟 #推しの子 #oshinoko
♬ POP IN 2_推しの子公式 - TVアニメ【推しの子】公式
例) Bling-Bang-Bang-Born / Creepy Nuts
@mashle_official 【BBBBダンス】石川界人(ランス・クラウン) | Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」 #BBBBdance #踊ってみた #creepynuts #マッシュル #mashle #mashlemagicandmuscles
♬ Bling-Bang-Bang-Born - Creepy Nuts
ここら辺の細かい音楽的な要素においても、上記を超えるクオリティを出すのが難しかったということが言えると思います。
UGCを作ろうとインフルエンサーが思うと言う事は、
脳内で撮りたい絵をイメージできて、かつそれがファンに受け入れられている未来を想像できた、と言う事です。
絵の想像力を掻き立てられない楽曲はUGCが増えにくい傾向があります。
主にこの2点が本楽曲のUGCが一定で伸び悩んでいる理由だと考えていますが、あとは単純にこれだけのヒット曲を先に出されてしまったという意味で、よほど違ったインパクトを与えなければ反応されにくい状況だったという「運」の部分も絡んでいるでしょう。
哲学やUGCされたい要素に関しても何らかのきっかけでドカンと伸びれば、それが今流行ってるものとして受け入れられる可能性は十分にありますので、
例えば影響力がある女性が取り上げたり海外特大バズが起きたりすれば伸びる可能性もあります。
そういう意味では楽曲ヒットに「運」が大きく絡んでいるのは事実ですが、その「運」が落ちてきた時にモノにできるように、コントロール可能な要素はしっかり言語化しようというのが弊社の取り組みでもあるわけです。
【+α】 一体どこが「運」だったのか?
先ほど既に少し触れましたが、UGCの伸びに対してどこまでが「運」なのかについてもう少し補足しておきたいと思います。
前提として弊社ではUGCの伸びに関して以下の3点が重要であると考えています。
楽曲の要素 ex) メロディ、歌詞、構成、編曲、声質、音質、テンポ
施策の要素. ex) 動画の面白さ、アカウントの影響力、コラボ先の選定…
その他の要素 ex) 同時期に別の類似ヒット曲が出てしまった…
このうち「その他の要素」がいわゆる「運」だと弊社では考えており、今回であれば…
・先に同ジャンルでビッグヒットが生まれてしまった
→ これは「かわいいだけじゃだめですか?/ CUTIE STREET」のことですが、先ほども触れたように、もしこのヒットが先に出ていなければおそらくUGC数はある程度増えたはずです。なぜならインフルエンサーの多くは一定の周期で動画を上げていてそのネタを探しているので、他に優先的な曲がなければこの楽曲が使われていた可能性は十分にあったからです。そしてその中に影響力のあるクリエイターが含まれていれば、全く違う結果になった可能性はあります。
・芸能人など大御所が取り上げてくれる、などのラッキーは起きなかった
→ これも「かわいいだけじゃだめですか?/ CUTIE STREET」の例ですが、この時は割と初期の段階で「あのちゃん」や「森香澄」といった超人気芸能人に取り上げられる現象が起きていて、これはUGCの拡大に大きく貢献しました。
そんな彼女らが曲を使用した理由は「あざといキャラと楽曲の哲学にシンパシーを感じたから」だと推測していますが、正直これも運要素が強いと思っています。もちろん強い共感を呼ぶ哲学を考える、という意味では完全な運とは言えませんが、それがごく一部の有名人にピンポイントで刺さって起用されるかどうかというのは、そう簡単に狙えるものではありません。そういう意味では「キス・ミー・パティシエ」も愛情アピール哲学に共感する超大物アイドルや有名人が一人でも現れてくれさえすれば、伸びが変わる可能性だってあったわけです。(というか今後起こるかもしれません)
これらの要素は「運」だったと言えるでしょう。
そして弊社ではこの「運」を含めたUGCの伸びに関して以下の公式を作っています。
【楽曲の要素】×【試作の要素】+【その他の要素 (運) 】
=TikTokUGC数増加の可能性
✅計算方法
楽曲の要素【80点満点】
施策の要素【1点満点】
その他の要素【-20点〜+20点】
=100点満点
これに関しては、先日リリースした【TikTok音楽攻略の教科書】で詳しく登場しますが、端的に言えば「TikTokウケしそうな楽曲が大前提にあり、そのコンセプトを活かす施策が乗り、その他の要素(運) 次第で上振れも下振れもする」というイメージになります。
公式について詳しくはこちらをご覧ください。
今回はその楽曲部分で惜しい点もありつつ、運による上振れもなかったため現状の数字になっている、というような考え方ですね。
ですから、この曲にはまだまだ今後伸びる可能性があります。
結局最後何がバズるかはどんなに計算しても博打なんです。
僕らマーケターができる事は博打の範囲を狭めることだけで、ゼロにはできないのですから。
どうすればバズることができたのか?(作曲アイディア実践)
さて、ここまで解説した上で「じゃあどうすればバズれたの?」と気になっている方も多いのではないでしょうか?
これに対して「弊社であればこうする」というやり方を実際の思考の流れをそのまま解説しながら、簡単にですがこんな感じの曲という提案をするところまでお見せしたいと思います。
大それた改善案の提案、などと言うつもりはありません。今後伸びる可能性もある曲です。あくまで例え話だと割り切ってお楽しみください。
ーーーー
まずここまでの解説で、
・クリエイター、視聴者双方が共感できる哲学
・それを表現、UGCする際のキャッチーな要素
この2つが相乗効果を生むことはご理解いただけたかと思います。
では最初に大元となる哲学から考えていきましょう。
①哲学の考案
早速ですが、「キス・ミー・パティシエ」の視聴者への愛というコンセプトを活かしつつ、よりバズらせる工夫を施したアイディアとして、今回は仮に
「友達になってほしい」という哲学にしようと思います。
いきなりの結論になってしまいましたので、解説していきます。
まずこの哲学の参考元は
「おともだち - いつもありがとうver. / edhiii boi」
です。
@localcampione dc:@YUKI🍓【ローカルカンピオーネ】 毎日おれらのチャレンジを踊ってくれるみんな!もうおともだちになれたよな❤️🔥死ぬまでおともだちに囲まれてカメラにハイチーズしてたいぜ✌🏼✌🏼 #おともだち #edhiiiboi #ローカルカンピオーネ #localcampione
♬ Friends - Itsumoarigatou Version - edhiii boi
この楽曲は”おともだち”という「平和」が文脈となり、コラボなどUGCとの相性も良いため伸びたのですが、これがアイドルとも相性が良さそうだっため採用しました。
具体的には…
・おともだち文脈×アイドルは可愛い訴求がより強まる
・可愛い女の子同士でコラボする姿が容易に想像できる
・視聴者目線でも可愛い女の子同士がキャッキャしているのは微笑ましい
・本家グループで複数パターンのカップリングができ、イノベーターとして強い
など様々な強みがあります。
さらに参考元はシンプルな「おともだち」だったものを
「友達になってほしい」というお願い型にすることで…
・初コラボのお誘いなど、クリエイター的にも新たな交友関係を築きやすい文脈ができる
・ファン目線でもただ微笑ましくお友達コラボを眺めているだけでなく、自分と推しが友達になるという感情移入や親近感を演出できる
というように、このアレンジも加えたことでかなりアイドルとシナジーが高い哲学になっていると思います。
結局のところ重要なのは「どう新しい価値にするか」
どう視聴者に「新しいモノだね!」と思わせるかですので、
他ジャンルでヒットしている切り口を転用する、というのもシンプルですが十分に有効な手法です。
また、裏の根拠として他にも…
・「チーム友達 / 千葉雄喜」のヒット
→「チーム友達」というフレーズで2024年前半にヒットし印象に残っている方も多いと思いますが、この曲は仲間との結びつきや絆を全面に押し出した内容で、余計なしがらみ、上下関係・ハラスメントなどの厄介なストレスを一気に晴らしてくれるようなカタルシスが生じています。このヒットは「小難しいこと抜きにしてみんな仲良くしたいと思っている」大衆の心理を象徴しており、「関係を築く気軽さ」のような意味で共通点を感じられます。
@hoodiefamfam 俺たち何?え?#チーム友達 【Dc:@KING OF SWAG @KELOHirai/平位蛙 】#千葉雄喜 #teamtomodachi #hoodiefamdancechallenge
♬ オリジナル楽曲 - KELOHirai/平位蛙 - KELO
・可愛い女の子に交友関係を迫られる理想的シチュエーション
→ これはさっきの友達視点より、アイドルに「友達になってよ!」と言ってもらえる視聴者目線になりますが、昔からひょんなことから可愛いあの子に話しかけられて…!?のような展開はお決まりで人気高いですよね。昨今だと「黒岩メダカに私の可愛いが通じない」など、他にもパッと何個も出てこないですがこういった類の作品はずっと人気な印象です。
今回も、可愛い女の子が好意を持って話しかけてくるという擬似体験ができる曲、という意味では通ずるものがありそうです。
他にもエッセンス的にですが、あの有名作品「ぼっち・ざ・ろっく!」もベースは「現実でインキャの私、実はネットではギターヒーローなんだ」というみんながつい一度は妄想しそうな境遇も然りですが、純粋に「インキャの私でも現実で輝きたいんだ」といった要素もあり、これは抽象化すれば「制限 / 逆張り精神からの解放」のような意味合いがあるのではないかと思います。
それを考えれば「もっと色んな人とオープンに接したい」とか「俺/私だって可愛いあの子と仲良くしたい」とか、そういう純粋な気持ちもエッセンスとして心に響きそうだなと個人的には思います。
・映像的に没入感のあるショートがトレンド
→ これは楽曲の哲学というより、楽曲「友達になってよ!」× 可愛い女の子が話しかけてくるという映像を想定した時の話ですが、直近では「友達がかわちぃ」や「ブルーシー」など撮影者の視点を自身に置き換えて「カメラの中の空間を擬似体験し、堪能できるコンテンツ」はよく伸びています。
友達がかわちぃ = 激カワ陽キャ1軍女子の一員として青春を謳歌しているという体験ができる
ブルーシー = 親友2人組の微笑ましい日常をそばで見ることができ、尊い
@seabluesm 親友に15倍デカいアイスの実、作って食べさせてみたww
♬ オリジナル楽曲 - ブルーシー - ブルーシー
そして今回我々が作るのは「可愛い女の子がこちらに寄ってきて"友達になってよ!"とお願いしてくる光景」
楽曲単体でなく、映像込みで伸びる要素が抑えられているのではないでしょうか。
このような感じで、ある程度過去のヒット曲や事例として近しいものを参考にしつつも、そこで生まれた着想に対し「そういえば世間ではこんなのが流行っている」「別の領域ならこういうのも流行っている」「じゃあここの要素押さえれば需要もあって新しいもの作れるんじゃないの?」のような総合的な思考からアイディアが生まれるわけです。
もちろんそれが行けるかどうかは、リサーチ・経験によって磨かれる感覚、そして最後は蓋を開けてみなければ分からない世界ではありますが、一つの参考になれば幸いです。
②哲学を表現する音楽を実際に作っていく
分析、構想の部分はこれで良いですが、結局重要なのはちゃんと形にすること。
・どんな歌詞にする?
・どんなメロディにする?
・どんな振付にする?
などなど色々な要素が絡みますが、今回はその一部を本レポートシリーズで紹介してきた知見を使いながら実際に作っていきたいと思います。
試しに今回は「歌詞」を作ってみます。
考え方として、この「友達になってほしい」という哲学をTikTokで受け入れられる形で伝える必要があるため、ここもオリジナルではなく過去のヒット曲を参考にして以下の要素を組み込んでみたいと思います。
・冒頭フック = カクテルパーティー効果 (呼びかけで反応させるなど)
・維持率の担保 = 複数オチ構造 (先が気になる展開)
・今っぽさ = 感覚的訴求の歌詞
・UGCしたくなる感情 = 振り付けしやすそうなキャッチーなフレーズ
これらを組み込みつつ、作ってみたのが以下です。
ねえ!友達になってよ!
(Be my friend)
1・目が合って
(Be my friend)
2・感じるSympathy
3 × 4 = 12 すらすっ飛ばしてほら
もう We are friends! (ピース!)
一応なんとなくのメロディラインはこちらです↓
全体としては「友達になってほしい・友達を作りたい」というコンセプトがあり、実際にそう思ってから友達になるまでのストーリーを描いた曲になります。
一応意図を解説すると、
・ねえ!
= カクテルパーティー効果 (シカ色デイズなどで使われた冒頭の呼びかけフック)
・友達になってよ!
= 哲学をわかりやすく伝える
(クリエイター目線でもそうだし、視聴者目線でも可愛い女の子がお願いしてくるという点で興味の引きとして一石二鳥)
・1・目が合って
= 複数オチ構造。1がきたら2は何だ!?という若干のストーリー性。また掛け声的な感じで可愛い振付がしやすそうなのも良い。
・2・感じるSympathy
= コンセプトに沿ったストーリーを展開していく
・3 × 4 = 12 すらすっ飛ばしてほら
= 最後まで真面目な文章で進めるのではなく、感覚的に崩すことで今っぽさやキャッチーさを演出。「細かいこと抜きにして友達で良いじゃん!」という平和感を強調する描写にもなっている。
・もう We are friends! (ピース!)
= 友達になれた!という気持ちの良い終わり方 + ピースの決めポーズ促し
という意図があり、ここまで来ると
「アイドルや可愛い子同士のコラボ」
「女の子クリエイターと視聴者の良好な関係性」
「気軽にもっと仲良くしていいじゃん!という幸せなメッセージ」
などUGCが広がるイメージができるのではないでしょうか?
とはいえこれは全部理詰めで作ったというよりは、前提としての理論把握 50%、閃き・感覚 50%のような感じなので、自分でも二度同じ着想はできないし、当たるかどうかも実際にやってみないとわからないです。
しかしこのようにして生み出すヒットには誰にも負けない視座と再現性が詰まっていると思いますし、そのための研究を我々はしています。
あとは補足として、
・「ねえ!友達になってよ!」の部分はなあぜなあぜ?から着想を得て、手招きしながら女の子が駆け寄ってくる始まり方にする
・コンセプトは「友達」だが、一人で気軽にできる振付にする
(全く別ジャンルの曲だが、我姓名などは、先に広まったUGCが複数人前提だったせいで撮影の敷居が高まり思ったより広がらなかった)
のように、ある程度過去ヒット曲の良いところ・惜しいところを言語化できていれば、それをエッセンスとして取り入れつつ、作詞だけでなく全般通してオリジナリティのあるものを作ることは可能です。
ここからボーカルのディレクションだったり編曲だったりやることは色々あるので今回はここまでとしますが、言語化をし、再現性を高め、それを自身のコンテンツに活かす一つのヒントになれば幸いです。
ーーーーー
「キス・ミー・パティシエ / CANDY TUNE」の分析は以上となります!
ちなみに再度宣伝で恐縮ですが、今回楽曲ヒットの再現性を出す集大成とも言えるnoteをリリースしました。
こちらは有料ですが、書籍1冊分くらいの値段で先ほど解説した過去のヒット曲の共通項やどうすれば2025年以降ヒットを生み出せるのかを全て言語化し完全網羅版noteです。
今回の記事を読んで自身でヒット作を生み出したいと思った方にはドンピシャの内容だと思いますので、ぜひチェックしていただければ幸いです!