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イケアの功罪|暮らしの底上げと、本物を見失う危うさ。
『ものづくり+まちづくり』を実践する名古屋市中村区・新大門商店街のソイロの松本啓太です。
2024年6月、いつも通りにアップサイクル&DIYショップを営業していると、似たような依頼がチラホラやってきました。DIYショップは持ち込み材料の加工を受け付けていますが、その持ち込みの殆どが「イケア」の家具や部品でした。
松本『同じようにイケアの家具を持ち込まれる方が多いのですが、なぜイケアで購入されたのですか?』
ユーザー『イケアの家具は、表面が仕上がっているので、直ぐに使えます。ホームセンターなどでDIYするのは結構大変です。クローゼットなど人に見せるところではないし、値段も安いのでとても気に入っています。』
・・・賢い!
昨今の消費者の皆さんは、本当に良く考えてらっしゃる。
家具製作をする身としても実感がありますが、仕上げにかかる時間はかなりのもの=コストが掛かります。
また、別のユーザーさんは
ユーザー『見た目も、デザインも凄く気に入っているので、長さをカットして自宅の別の場所で使いたい』
松本『カットしますと、芯材が見えてきますので、表面と色が違ってきますが大丈夫ですか?』
ユーザー『え、そうなんですか? あ、でも隠れるから大丈夫です。』
こんな受け答えも良くあります。
日本全国でコストが上がる昨今、内装業もご多聞に漏れず、価格は高騰中。この施主がDIYをハイブリットで行う選択肢は今後、大いに拡大するのだろうな、と思っています。この点については、また別の機会に掘り下げたいと思います。
前振りはこんなところにして、ここからが本題です。
皆さんご存じ、世界最大手・向かうところ敵なしのイケアは、北欧スウェーデン発のブランドで、物質的な豊かさを世界中に届けるべく力強く推進してきました。製品デザインは、意匠や使い勝手だけではなく、梱包や配送をも考慮にいれているし、倉庫内でのお買い物体験も、店舗オペレーションの効率を最大化するための側面もあります。むしろ、そちらがメインと言っても良いくらいです。お馴染みのフラットパックもイケアを中心に量産家具では当たり前になっています。
世界中にデザイン性の高い家具を届け、時にはその国の生活水準を向上させてきた「功績」は皆が賛同できるとも言えます。世界を豊かにするというミッションは、達成しているのでしょう。
これが世界最大手=世界中で支持されている証です。
ところが、別の側面も浮上しています。
このイケアが”生活のスタンダード”である世代は、何が本物なのか、全く見分けがつかないようです。プリントされた木目柄の樹脂シートを見て「木」だと思っているし、触感や質感もあまり関係がない。と言うか違いが感じ取れない。
また別の例ですが『色んな木の種類がありますが、どんな違いがありますか?』と質問を受けたりもします。一通り説明をし、実物を見てもどうも大した差を感じていない様子。木は、木でしかなく、それ以上でもそれ以下でもないらしい。
もちろん、それがダメな訳ではありません。しかし、本物か偽物か、全て理解したうえでの選択なら納得ができます。でも、本物が分からないまま「これで間違いない」と思ってしまっている状況は余りに寂しいなと感じるわけです。
造花も近年は本当に良くできていて、本物と見間違う事も増えています。
でも、近づいて、触れて、香りを確認すれば、人工物か自然物かは感じ取れるはずです。それが、住宅や店舗の材料など生活に関わるものになると、完全に分からない状態になりつつあります。それは『造花って、水もやらず、枯れないし、見た目にもわからないから、この「花」の方が良いよね。』と言っているようなモノです。生花と造花の違いを知っていて、それでも尚、造花を選べているなら良いのですが。。。
作り手側=今回のイケアは、そうした事も全て理解したうえで、企業ミッションに従い、企業活動を続けています。しかし、上記で言及したような状況を拡大していっています。勿論、それは結果論でしかありませんけれど。
生活がある程度、豊かに底上げがされた一方で、全体の感性は低下している状況が訪れてきています。それは一般生活者だけでなく、建築に携わる人も例外ではありません。全く的外れな材料を選ぶデザイナーや設計士も少なからずいます。今、私たちが生きているのは、そういう時代なのだと思います。