マチづくりとモノづくりの意外な共通点。新店舗と既存店≒新商品と定番品。

『ものづくり+まちづくり』を実践する名古屋市中村区・新大門商店街のソイロ松本啓太です。

このところ、街の「新規開業店」についてよく考えています。基本はシャッター街になっている商店街で、新規にお店がオープンする事は地域に大きな驚きを与えます。『え、こんな街に新しいお店が出来たの?』と言う、ちょっとした自虐を含みつつ、新規事業者への距離感を測るかのような行動が見られます。これは街の人に限らず、事業者が連なる商店街側も同じ感覚です。インパクトの大きさを理解しているが故に、商店街活性化や町おこしになると『新しいお店を誘致しよう!』とか『新しいイベントをやろう!』なんて声が大きくなります。

日本人は昔から新しいものが大好き。事業者も利用者も新しいものを求めるのですから、お互いにハッピーなのだと思います。ですが、何となくこの流れにしっくりとこない期間が1年くらいありました。なぜなのか、ようやくその正体が自分でも理解ができました。その理解の手助けは前職メーカー勤務時代の「新商品と定番品」の関係だったのです。

新商品と定番品の役割分担

新商品は、時間をかけて開発し、鳴り物入りでリリースする事で、社内外や業界に与える影響を最大化しようとします。発売と同時に、注目を集め、売上と利益も最大化すべくありとあらゆる手を尽くします。対照的に、定番品は企業の看板商品であったり、長年のファンづくりに役立ってきた会社の屋台骨的な存在です。これがなくして今日の会社の姿はありませんので、とても大切な役割があり、その上で新商品と言うインパクトが企業にとって良いフックになると考えています。

ところが、新商品依存になっている企業もチラホラ見かけます。これは何かと言うと、新商品の紹介のしやすさや導入のしやすさなど、ちょっとした努力で相手にインパクトを与えられることから「毎年毎年、新商品を投入し続けること」が起こります。ある意味で新商品の”消費”であり、商品開発を絶えず欠かさず作る事になります。新商品至上主義、とでも言うべき商品開発の無限ループに陥ります。挙句の果てには「新商品がないから、売上が落ちた」などと言う社内議論にも発展していきます。

先ほど述べたように、本質的・理想的には定番品があってこその新商品であり、新商品だらけの表面的な話題作りを行うだけでは、本来解決したい社会課題や企業ミッションなどには遠く及ばない状態になります。

ここで定番品について参考になる記事があります。
みなさんご存じ、カルビー社のポテトチップスです。

 お菓子の定番で、リニューアルを繰り返してきたのがカルビーの「ポテトチップス」だ。シェア7割と市場を制しているが、湖池屋という個性的なライバルもいる。不断の努力で味を変えて対抗している。
 「うすしお味」「コンソメパンチ」「のりしお」といった基幹商品は3年先を見据えながら味やパッケージの見直しを繰り返す。うすしお味の場合、1975年の発売以来、14回の変更を実施している。担当する御澤健一氏は「定番品はもともと変えられるポイントが少ないが、うすしおはとりわけ変更できることが限られる。そのなかでおいしくつくるために、繊細な取り組みをしている」と話す。

定番は進化し続ける カルビー、うすしお味は14回変更:日経ビジネス電子版 (nikkei.com)

日本国民なら全員が一度は口にしていると言っても過言ではない、超ド定番なお菓子。一見分からないようなレベルで味も調整され、パッケージも刷新を繰り返す行為は、定番を定番品として、企業としてしっかりと磨き上げてロングセラーを意図して作っていると言えます。お菓子業界は、特に定番品が沢山ある一方で、美味しいけど直ぐに無くなる新商品の方が圧倒的に多いのです。コンビニの棚を見れば一目瞭然です。他にも、カップラーメンなんかも同じ構造です。

新商品=新店舗、定番品=既存店と読み替える。

では、先ほどの商店街の新店舗と既存店の関係に当てはめてみます。
「新商品を新店舗」、「定番品を既存店」と置き換えて、定番品と新商品の役割分担を読んでみてください。

・・・いかがでしょうか?

かなり違和感なく、言い換えができます。

既存店がこれまで(良くも悪くも)その街で商いを続けてきた結果が今日に繋がっています。そのうえで新店舗が加わる事で新しいフックが生まれます。勿論、たまにお化けみたいな新店舗が生まれる事もあります。それは新商品でも同じく、スマッシュヒットを生む新商品みたいなものです。

もしも、地域が新店舗ばかりを乱発するようなことになったら?定番品を盤石なものに町として捉えていかないとしたら?やはり、その構造はいびつであると言えます。

あえて、新店依存と言います。

新店舗が生まれないと、地域が盛り上がらない。そんな状況は考えたくもありません。
むしろ、地域が新店舗を意図して開発できるのではなく、誰か事業者がいないと新店舗は生まれません。その誰かに全てを背負わせるのはあまりにもリスクが高い。むしろ、ほとんどギャンブルです。
だって、何の実績もない新規事業者に依存するわけですから。中には実績を積んだ方が出店することもありますし、その方の成功確率は高いかもしれませんが、まだ何の実績もありませんし、その地域で何十年も続いてきた老舗の歴史には勝てません。どんな理由であれ、その場で続けてこられた実績は否定もできません。繁盛店でなかったとしても、何かしら安定しているからこそ、魅力があるからこそ、廃業せずに今日まで続けてこられた証に違いありません。

確かに、家賃も無く趣味みたいに続けているお店の弊害パターンもあります。同時に、このままで良いのか?と思いながら一歩踏み出す事を躊躇しながら、変化しようとしている老舗店もあります。この辺りの見極めをしつつ、どんな老舗店が町にとっての定番品に成りえるのか、そんな視点も持ちながらそうした”前向きな老舗店”を街を下支えしてくれる定番の店になるように関わっていきたいと思っています。

やや定番品=既存店に寄った論調になっていますが、新店舗、既存店どちらが大事と言う話ではありません。どちらにも役割があって、その役割などをしっかりと認識したうえで、「じゃあ、今回は新店舗の開業を全面的にサポートしよう。』とか、そう言う役割分担や議論の整理が街としてできていますか?と言う事です。

そうでないと、新店舗派 VS 老舗店派みたいな対立構造にもなりかねない。

そうした危うさが新店舗信仰に潜んでいると思います。あなたの街はいかがでしょうか?新店の大切さと同じくらい、既存店の成功を意図して街で狙っていけると良いと思います。


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