1人目のプレーヤー〜男子チア物語第19話〜
2013年4月下旬。
ANCHORS(アンカーズ)とチーム名が決まって、数日が経過した。
これから始まるANCHORSの物語にワクワクしている俺がいた。
だが一方で、メンバー集めには依然として苦戦中。
俺とサヤカの2人だけだった。
大学生活には慣れ始め、いつもクラスメートのカズキと授業を受けては、昼休みにラーメン巡りに都内に繰り出し、再び授業を受け帰宅するという日々。
俺は東京ドームシティでカメラマンのアルバイトも始めることにした。
カズキとは毎日のように一緒にいたことから、互いに自然と信頼を寄せるようになっていた。
これまで歩んできた人生を2人で語り合ったり、相手のことを理解し始めていた。
俺は学生時代部活動や行事が大好きで熱中していたことを伝えた。
一方でカズキは学校で副会長を務め、被災地へボランティア活動をしにいくなど、俺にはない経験をしていた。
そんな話をしている時に度々、カズキが口にしていたのは「俺はそんなに運動が得意な方ではないんだ〜」というセリフ。
バレーボール部に所属していたこともあり、運動が嫌いだというわけではないが、根っからのスポーツマンというタイプではないことを感じた。
ゴールデンウィークを終えた2013年5月。
俺は、カズキと吉祥寺にある井の頭公園に遊びに出掛けた。
経営学部の新歓コンパが行われた懐かしの場所だ。
いざ、行ってみると公園内には動物園もあり、とても広かった。
純粋に楽しかった。
同時に、カズキとの関係もまた一段と深くなった気がする。
心の友になれた感じがした。
満喫した後は、帰りに吉祥寺駅前のラーメン屋に入った。
2人でラーメンをすすりながら、俺が唐突に口を開いた。
「カズキ、あのさ!俺と一緒に男子チアやらない?」
俺の中でずっと考えていたわけではない。
俺の性格上よくあることだが今、感じたことを口にしてしまった。
ラーメンをすすりながら、カズキがメンバーになった未来を考えたら、ワクワクした。
気がついたら、言葉にして相手に伝えてしまっていた。
カズキは驚き、すすっていたラーメンを吹き出しそうになった。
「え?ガチ?え?本気で言ってる?」
カズキは俺の夢を知っていた。
入学した当初に打ち明け、ずっと応援してくれていた。
気がついたらいつも俺は男子チアの話をしていた気がする。
それだけ強い俺の思いを知っていた。
「本気だよ!俺、カズキとこの先一緒に男子チアチームを作り上げていくことを想像したらワクワクしてさ。まだプレーヤーは俺だけ。マネージャーが1人。つまりカズキがメンバーになったら俺にとって最初のプレーヤー仲間だ!」
ラーメンの麺を半分残しながら、俺は気が付いたら身ぶり手振りで熱弁した。
とにかく、カズキがメンバーになってくれたらうれしい。
そんな思いが湧き立って抑えられなかった。
カズキは俺の熱弁を、しっかりと聞いてくれた。
そして、「ちょっと考えさせてほしい」と真剣に検討してくれることになった。
「ありがとう、カズキ!」
俺はニコッと笑い残りの麺を食べ切った。
2013年5月中旬。
俺がカズキをメンバーに誘ってから1週間が経過した。
カズキといつものように授業終わりに、ラーメンをすすっていた。
ラーメンを食べ終わったカズキが真剣なまなざしで、俺を見つめた。
「ケイタ、俺、男子チアやってみようと思う。殻に閉じこもっている自分を変えたくて。なんかワクワクする。大学で何か熱中できるものがあってもいいなって」
カズキの目はメラメラと燃えていた。
めちゃくちゃうれしかった。
カズキは俺以外で、初めてのプレーヤーとなった。
「カズキ、これからもっともっとよろしくな。必ず成功させよう!」
「おう!やったろうぜ!」
俺はカズキと固い握手を交わし、立ち上がった。
これからもっともっといろんな仲間たちが増えていくんだろうな。
そして、必ずあの学園祭ステージに立つんだ。
俺の頭の中には、1年後の演技している絵が浮かんでいた。
根拠のない自信もあった。
「イメージ出来ることは必ず実現できる!」
俺は心の中でつぶやき、カズキを見て白い歯を見せた。
つづく
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第19話の登場人物 整理
ケイタ(俺)=筆者であり、主人公。愛知県・蒲郡市出身。豊橋東高校卒業。
カズキ=ケイタが大学に入ってから心を許した初めての友人。クラスメート。