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TV画面に映った俺の夢〜男子チア物語第10話〜

苦しい浪人生活もあっという間に夏が終わり、秋が来ていた。


毎年のように地元の仲間たちと見に行っていた蒲郡花火も今年は見られなかった。 


浪人期間は、平日に授業を受け、土日は基本授業はなかったため、自習室で午前9時から教室が閉まる午後9時まで自主勉強に励むという生活だった。


2012年9月29日、土曜日。

いつものように朝、予備校の自習室に入ろうとすると、扉にあった張り紙に気がついた。


ー今日29日は、自習室の利用可能時間は午後5時までです。よろしくお願いしますー


「えぇぇ!なんでー!!!マジかよ。仕方ない。今日は夜、家で勉強するかー。とりあえず夕方まで集中しよう!」

いつもより時間が短かったためか、より集中出来た気がした。


黙々と自主勉強に打ち込み、教室が閉まる午後5時に予備校を出た。


夕方、まだ日が出ている時間に帰るのは久しぶりだ。


夕暮れ時の帰りの電車も悪くない。



窓越しに沈む夕日を見つめボーッとしながら、電車に揺られた。

「ただいまー!」


「おかえり!もう少ししたらご飯できるよ!」

キッチンから母の声が返ってきた。


普段は、夜予備校仲間と自習の休憩がてら夜ご飯を予備校付近で食べていたため、家族揃って食卓を囲むのも久しぶりだ。

「おっ!今日は俺の好きなタコ飯じゃん。いただきまーす!」


父、母、妹と何気ない会話をしながら流れるテレビを横目に箸を進めた。


日本テレビの「世界1のSHOW TIME」という番組が放送されていた。


(ホームページより引用)

おのおの特技を持つ者が、己の技を披露し、それに対していくら程の価値があるのか、審査員を務める芸能人たちによって金額が設定される番組だった。


「続いては、華麗なアクロバットで観客を魅了させる、早稲田男子チアリーディングチームSHOCKERSのみなさんです!それでは、どうぞ!」

テレビから聞こえた司会者の声に、耳を疑った。


「ん?SHOCKERS!?」


驚きのあまり思わず、声を上げてしまった。


「どうしたの?知ってるの?誰か知り合いでもいるの?」

そう俺に語りかける母の声すら、俺の耳には届いていなかった。


俺は席を外し、テレビの前で釘付けになった。


「す、す、すげぇ。すげぇよ」


俺の心の中の声が、完全に外に漏れていた。


人が宙を舞う。

空中で開脚をしたり、くるりと1回転したり、ひねり技を加えたり。


地上では、数名のメンバーがタンブリングと呼ばれる、バク転やバク宙などを連発している。



SHOCKERSのパフォーマンスに、会場で審査員を務めていた芸能人たちも驚愕していた。


俺も完全に心を奪われていた。


「やっぱりすげえ。俺もやりてえ。そして、俺の憧れの存在は、いつまでも憧れだ」



結果、SHOCKERSのパフォーマンスは、高評価された。

本当にめちゃくちゃ感動した。


虜になりすぎて、食事の途中だったことすら忘れていた。


食卓に戻り、再び食事を始めた。


「なになに?どうしたの?知り合い?」


そう言う母に対して、俺は「いやいや、ちょっとね。それより、ご飯おかわりちょうだい!」とはぐらかした。


母は不思議そうに首を傾げながら、炊飯器から茶碗にご飯をよそった。

俺は確信した。


初めて心を奪われた日から、約1年。


追いかけてきたことは、間違ってなかったと思う。

一度も「やっぱり、やめよう」と思ったことはなかった。


「絶対やりたい、やるんだ!」


無我夢中で走り抜けてきた。


男子チアのためなら、今の勉強だって苦じゃないだろ。

そう、再び言い聞かせた。


俺は今、何のために本気で頑張っているのか、再確認できた。

見ることが出来たのは、たまたま帰りが早かった、今日という偶然のおかげでもある。


普段と同じ生活をしていたら、目にすることはなかった。

これも運命だ。


男子チアが、俺を呼んでいる。


「やってやる!絶対、受かってやる!!!」


一層、気合の入った俺は、心の中で雄叫びを上げ、ギュッと拳を強く握った。


つづく
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第10話の登場人物 整理

ケイタ(俺)=筆者であり、主人公。愛知県・蒲郡市出身。豊橋東高校卒業。

マサト(父)=真面目で、固く、昔から厳しかった。読書家で勉強熱心。

サヨミ(母)=社交的で、勉強も遊びも大事にしなさい派。常々、友達は大切にしなさいと言う。好きな言葉は「かわいい子には旅をさせよ」

ユウカ(妹)=3つ歳の離れた妹。俺が高校3年の際は中学3年。

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