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最大の挫折...夢散る〜男子チア物語第13話〜


2013年2月下旬。


約2週間の長旅を終えた俺は、自宅に久しぶりに帰ってきた。

「ただいまー!」



玄関のドアを開けた瞬間、母が待ってましたと言わんばかりの表情で出迎えてくれた。


そして、嬉しそうな表情で俺に語りかけた。


「やったじゃん。やったね」


俺はてっきり早稲田の合格通知がすでに家に届いたのかと思って、満面の笑みで返事した。


「え!?なにが?早稲田からの合格通知、もう届いてる!?」


母は首を横に振ったが、笑顔で答えた。


「学習院、立教、明治、合格してるよ!おめでとう。本当によかった!頑張った甲斐があったね。本当にお疲れ様」


母のそんな優しい言葉に、反抗するかのように俺は声を荒げた。


「早稲田は?早稲田はきてないの?ねえ!ねえ!どうでもいいよ!そんなの。早稲田はまだ?」


「うん、早稲田はまだきてない」


俺にとっては全く嬉しくなかった。


欲しいのは早稲田大学の合格通知。


他の合格なんて、正直どうでもよかった。


早稲田の合格通知は、まだこの後届く可能性は大いにあった。


俺はそれを祈りながら待つしかなかった。


合格発表の日にWeb上で確認することも出来たが、去年の出来事がトラウマになっていた。


合格ならば、3月5日までに自宅に郵送で合格通知が届くことになっていた。

それを信じて、ただ、待とう。


仲間たちからもらったお守りを握りしめ、願った。




3月1日、2日、3日、4日...。


日は経過しても望む物は来ない。


そしてついに3月5日。


俺は玄関外にあるポスト前でずっと待っていた。


だが、日が暮れても、願っていた合格通知は届くことはなかった。


早稲田に落ちた。


この事実を受け入れることが出来なかった。


その夜、両親から1年間お疲れ様という言葉と、進路について学習院、立教、明治、どこへ行くのか相談を持ちかけられた。


両親から「この3つの大学でお前はどれに行きたい?何がしたいんだ?何に魅力を感じている?」と質問攻めにあったが、下を向きながら即答した。


「明治でいいんじゃない?」

明治と答えた深い理由はない。


とりあえず3つの大学の中なら1番、響きが良い気がしたし、俺の好きなジャニーズの山下智久さんなど多くの芸能人の母校でもあったから。


というより、そんな会話はさっさと終わらせたかった。


早稲田に行けない俺にとっては、もうこの先の進路はどうでもいい。


大事なことなのに、そのくらい投げやりになっていた。


なんとなく明治、と答えた俺の意見に父は賛同した。

「そうだな。明治はいい大学だ。人気だし、この大学でたくさんのことが学べるだろう。春から頑張れよ!」


「あ、うん」


適当に返事をし、俺はすぐに自分の部屋にこもった。


「はあ〜あ!なんなんだよ!なんでこんなにも、こんなにも尽くしたのになんで叶わないんだよ!」



受験に対して、この1年に対しての後悔はない。


ただ、どうして報われなかったのか理解が出来なかった。


自分は不幸な男だと思った。


早稲田に行くために浪人をしたのに、早稲田に行けなかった。


この事実を、みんなが知ったらどう思うのか。


あいつはやっぱり頭悪かったんだ、とか。

1年間遊んでたのか?とか。


散々言われても仕方ない。


「情けないし、恥ずかしい。友達に報告できねぇよ」


俺の思考はどんどんマイナスになっていた。


沈んだ気持ちのまま、無意識に早稲田大学男子チアリーディングチームSHOCKERSのホームページを開いている自分がいた。


「早稲田の男子で構成されたチームって...。俺春から明治だけど、明治でも入れさせてくれねえかな?もしかしたら、俺の熱意が届けばいれさせてくれたりしないかな?」



眠りに着く前に俺はベッドで横たわりながら、ホームページの問い合わせ先にメールを送った。



SHOCKERSに入るために浪人をし、本気で頑張ってきた熱意、愛を長文に込めて送信した。



そしてそのまま、気付いたら俺は眠りについていた。


翌朝、昼頃に目を覚ました。


メールが1件届いていた。


「お問い合わせ頂いた件に関して」-。


SHOCKERSからだ。



ドキドキしながら、メールを開いた。



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(写真は実際のメール)



もしかしたら、の可能性を期待していた俺にはダメージは大きかった。


「やっぱりダメかぁ。俺の男子チアの夢は終わったんだ。もう仕方ない。諦めよう。明治大学で何か見つけよう。サッカーとかハンドボールのサークルがあるだろう。それにでも入ろう」




この日から、俺の中で頭の片隅にずっとあった男子チアを切り離した。


そして俺は無理矢理、もう「出てこないように」と必死に忘れようとした。


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第13話の登場人物 整理

ケイタ(俺)=筆者であり、主人公。愛知県・蒲郡市出身。豊橋東高校卒業。

マサト(父)=真面目で、固く、昔から厳しかった。読書家で勉強熱心。

サヨミ(母)=社交的で、勉強も遊びも大事にしなさい派。常々、友達は大切にしなさいと言う。好きな言葉は「かわいい子には旅をさせよ」

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