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勝負の大学入試!〜男子チア物語第4話〜

 
季節は秋から冬になっていた。

「学ランを着るのもあと少しかー。ちょっと寂しさもあるなぁ」


2011年12月。

さすがにセンター試験まで1ヶ月前ということもあり、クラス内はピリピリとした緊張感が漂った。



自習の時間も多くとられた。

進学先、あるいは就職先が決まっている連中が、騒ぎ出すとそれをにらみつける生徒もいた。

「うるせーなー。決まってるやつらはいいよな」-

みんなが心に抱いてる声が、聞こえる気がする。

どちらかといえば、俺もにらみつける側の人間だった。

2012年1月。

センター試験の日を迎えた。

俺にとっては、早稲田大学の入試の"予行練習"として臨んだ。

場慣れしてきたためか、そこまで緊張することはなかった。


多少のことでは震えて本来の力が発揮できない、なんてことは俺にはなかった。

むしろ緊張感を楽しみ、逆に力が出るタイプなのかもしれない。


このまま早稲田の本試験でもこの精神状態でいければいいのだが。

2012年2月。

早稲田大学の3学部を受験することを決めて、ついに勝負の時を迎えた。

「じゃ、行ってきます!」


母と祖父、祖母が駅まで見送りをしてくれた。

「頑張ってこりんね!」

「うん。ありがとう。行ってくる」

俺は、胸を張って本試験に向けて東京へと出発した。


豊橋から新幹線ひかりにのって約1時間くらい経った時だった。


途中、窓の向こうに綺麗な富士山が見えた。



「でっけーなー!富士山って。綺麗だなぁ!!!よっしゃ!頑張ろう!」


富士山までもが背中を押してくれ、味方してくれている気がした。

電車の中でも英語の単語帳を広げ、ひたすら暗記に取り組んだ。

「あれ?もう東京か。新幹線速えぇー!」


2時間の電車旅はあっという間で、東京へ着いた。


「うわっ。すっげぇ人だ。人が多いなぁ...」


至る所に、人、人、人。

平日の昼間なのに人が溢れかえっていた。


乗り換えの電車に乗る際も、5分おきくらいの感覚で次から次へと電車がやってくる。

地元の駅には、30分に1本しか電車が来ないため、これには衝撃だった。

修学旅行と家族旅行で東京へ行ったことはあるものの、約1週間、東京に滞在するのは初めてだ。

東京に来たということに、少しソワソワしていた。

だが、圧倒されてはいけない。

冷静に自分を保とうと試みた。


宿泊場所は、新宿・歌舞伎町周辺のホテル。

新宿は、どこに行くのにも便利だと思いとったものの、来てみたらビックリ。完全に夜の街だ。

「父から『歌舞伎町は気をつけるように。夜は出歩かないこと』と言われたから、気をつけよう...」

とはいえ、夕方あたりからその近辺には、イケてるお兄ちゃんたちが、わんさか溢れかえった。

「こ、れ、が東京かぁ...」


圧倒されてしまった。

田舎から出てきた俺が、"東京"を実感した瞬間でもあった。


夜はコンビニで買ったご飯をホテルで食べた。
父の言う通り、夜は出歩かず、翌日の早稲田大学入試に備えた。


朝になった。体調はバッチリだ。


「今日から本当に始まるんだな」

変な緊張はない。


電車を乗り継ぎ、夢のキャンパスへと足を踏み入れた。

「これが、早稲田大学か...!!!」

初めて踏み入れた地。


僕は試験会場の教室へ向かう前に、どうしても見ておきたい場所があった。

「こ、ここか。ここが、大隈講堂前なんだ」

そう。初めて見た映像に映し出された男子チアS HOCKERSが、学園祭で演技していた場所だ。


もちろん学園祭の際に用意されていたステージは設置されていないが、俺の頭の中で完成された立派なステージがそこに組み立てられていた。


(YouTubeより引用)


「ここで絶対、演技するんだ!夢の場所だ。よっしゃ!」


めちゃくちゃ気合が入った。

見ておいてよかった。

「よし。じゃあ、会場へ向かおう」


そして試験会場である教室で、ついに入試が始まった。

国語、日本史、英語の3教科。

心地よい精神状態で試験に臨めた。


終えた手応えは、可もなく不可もなく。


めちゃくちゃ出来たという実感も、めちゃくちゃ出来なかったという実感もなかった。

正直どうなのかわからない。

その後、行われた他の2学部の試験も同様だ。

「やれることはやった。今は吉報を待つしかない」


東京から愛知への帰路。



1週間前、行きに見えた美しく荘厳な富士山は、曇り空の影響で見られなかった。


「ただいまー!」


俺が自宅の玄関のドアを開けると、母、父、妹ユウカが待っていた。


母が「おかえり!頑張ったね!東京どうだった?今日は焼肉でも食べに行こうか!」と明るく話しかけてくれた。

 

「うん!いこう!食べたい!」


焼肉屋へ向かう車の中での会話は、東京についてで盛り上がった。

父が「東京はどうだった?歌舞伎町は驚いただろう?」と言えば、母は「有名人に会ったりした?」。妹
は「いいなー。私も行ってみたーい」と笑っていた。


気を使ってか、誰も試験の出来栄えについて触れることはなく、その日は終わった。

「受かっていてくれ!!!頼む!」


毎日のように眠る時には、祈り続けた。


夢の男子チアLIFEをイメージしながら、今は合格発表の日を待つことしか出来なかった。

つづく
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第4話の登場人物 整理

ケイタ(俺)=筆者であり、主人公。愛知県・蒲郡市出身。豊橋東高校卒業。

マサト(父)=真面目で、固く、昔から厳しかった。読書家で勉強熱心。

サヨミ(母)=社交的で、勉強も遊びも大事にしなさい派。常々、友達は大切にしなさいと言う。好きな言葉は「かわいい子には旅をさせよ」

ユウカ(妹)=3つ歳の離れた妹。俺が高校3年の際は中学3年。

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