男子チアとの出会い〜男子チア物語第1話〜
2011年9月。高校3年の秋。
それは、高校からのいつもの帰り道だった。
柔らかな日差しをガラス越しに浴びながら、俺(ケイタ)は電車内で窓の外を眺めていた。
夏までハンドボール部に所属。東三河予選を勝ち抜き、夢の愛知県大会に出場したものの、1回戦で敗北。ボロボロ涙を流しながら引退し、本格的に受験勉強をスタートさせていた時期だった。
部活に明け暮れていた毎日から、どこか物足りなさを感じていた。
「志望校なぁ〜。どうしよう)」
大学進学を考えていたものの、行きたい先が明確に決まらずにいた。
ガタンゴトンガタンゴトン...
いつもと変わらぬ風景を見ながらぼんやりとしていた。
急に声をかけられた。
「おー!ケイタ!久しぶりやん!偶然だな!」
地元の友人が、途中、駅から乗り込んできた。
よくあることだ。
「おう!久しぶり」
友人は向かいの席に腰掛けた。
そのまま話は自然と大学のことになった。
「ケイタはどこの大学に行きたいの?」
「それが決まってないんだよね」
「そーなんだ。おれは東京の大学行ってみたいかも!まだぼんやりだけど!」
「なんで?」
「なんか、東京って、1回住んでみたくない?ちょっとした憧れからだよ!」
友人はそう言って、微笑んだ。
そして、話を続けた。
「そういえば、さっき仲良い先輩から連絡きてさ!早稲田に入学した先輩なんだけど、ダンスサークルに入ったらしく、YouTubeに上がってる動画をみんなに広めてと言ってたから、ケイタももしよかったら見てよ!今URL、メールしといた」
「サンキュー」
「じゃあ、俺は今日、友達と予定あるから、この駅で降りるわ!またな!」
友人は先に下車。その後は1人で最寄り駅まで、電車に揺られることになった。
「ダンスかぁ。自分とは遠い世界だ。あまり興味は湧かない...。でも見るだけ、見てみようかな」
何気なく、友人から送られたURLをクリックしてみた。
動画サイトYouTubeへ飛び、映像が映し出される。
友人の先輩がどれかは分からないが、30人ほどの男女で構成されたメンバーたちの統一感あるダンス。
生き生きとした大学生たち。
これが、大学生かー。
「大学生って、楽しそうだな」
ちょっぴり、羨ましくもあった。
気付いたら最寄り駅まであと1駅だ。
画面を閉じようと、親指を動かしたその瞬間。
関連する動画...に、
「早稲田大学男子チアリーディングチームSHOCKERS 早稲田祭演技」の文字を見つけた。
「なんだろうこれ。男子チア?」
純粋に興味本位から、気付いたらクリックしていた。
音楽に合わせて、"男たちだけ"のチアリーディングのパフォーマンスが始まった。
(YouTubeより引用)
演技が終わると、自分の目には涙がたまっていた。
衝撃の3分3秒だった。
とにかく気づいたら、のめり込んでいる自分がいて、翻弄されていた。
いろんなヘアスタイル、髪色をした、汚い言葉を使うなら「チャラそうな集団」が、最高のスマイルと、技で会場を沸かす。
宙に人が舞い、人の上に人が立ちピラミッドのような人間タワーが完成した。
大歓声と拍手が沸き起こる。
そして、演技後の仲間たちの涙。
みんなが抱き合っている。
(YouTubeより引用)
どうやら、俺が見たこの映像は、最上学年の引退演技。
同期だけでの演技で、この学園祭を機に、引退する仲間たちの最後の晴れ舞台だったようだ。
胸に雷が落ちたようだった。
感動した...。
このわずか3分3秒で、俺の心は突き動かされた。
今までにない、"感覚"だった。
胸が震え上がる?なんだろう、このドキドキ感。
...って気付いたら、いつの間にか最寄り駅に到着していた。
危うく降り損ねるところだった。
でもそんなことは、どうでもいいと思っていた。
興奮が冷めない。
自然と、俺の気持ちは進んでいた。
「決めた!俺、大学で男子チアをやる!」
映像に映った彼らの裏側を知りたくなった。
彼らの涙で感じた。
ここに至るまで、苦楽をともにしてきた仲間たちといろんなドラマを経験してきたはず。
俺も知りたい。
ワクワク、ドキドキする。
夢が見つかった。
「俺は大学で男子チアがしたい!」
頭の中は、その日から、男子チアでいっぱいになった。
つづく
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第1話の登場人物 整理
ケイタ(俺)=筆者であり、主人公。愛知県・蒲郡市出身。豊橋東高校卒業。
地元の友人=高校は異なるため、高校の最寄り駅は違うが、地元の最寄り駅同じ。まれに行き帰りの電車が同じになることがあった