決断!俺の進路〜男子チア物語第7話〜
自宅に着くと、時刻はすでに午後3時をまわっていた。
玄関から音を立てないようにドアを開き、そーっと家へ。
家にいた母親にバレないようにこっそりと自分の部屋に逃げるかのように入った。
「よし、気付かれてないな」
1人で合否を確かめることにした。
「受かれば、天国。落ちれば、地獄だ」
夢の男子チアへの結果はいかに。
心臓がバクバクする音が、聞こえる。
ゆっくりとパソコンのマウスを動かした。
結果は...
「不合格」
あっけなく散った。
数時間前まで仲間たちと笑顔でいた自分が、まるで別人のようになった。
さすがに表情は、隠しきれない。
そのくらい、気持ちは落ちていた。
ただそれでも、自分の中では選択肢は決まっていた。というより俺の中で答えは1つしかなかった。
その夜、家族で食卓を囲んだ際に、自ら口を開いた。
「受験、全滅しました。ごめんなさい」
父と母が口を開こうとした瞬間、俺は続けて言った。
「そ、それと...お願いがあります。それでも早稲田に行きたい。だから浪人させてください」
父、母に向かって深く頭を下げた。
妹は驚いた表情でその姿を見ていた。
父が、すかさず反応した。
「浪人?!お前が浪人?!それって予備校に通うってことか?」
「はい。お願いです。予備校に通わせてください」
「それって、今まで以上に勉強に打ち込むってことだぞ。お前、毎日勉強するってことだぞ!耐えられるのか?俺は、お前が耐えられるとは思えない」
俺は言い返した。
「耐えます。耐えます。どうしても早稲田に行きたいから。俺は、本気です。本気で頑張ろうと思ってます」
俺は真剣なまなざしで強く、激しく訴えた。
思いは伝わったようだ。
「なら、約束だ。浪人を許してやる。だが、1年だけだ。いいか?1年だけだぞ。2年目はない。この1年にかけてみろ!」
「ありがとう...」
実は父も浪人経験があった。
高校3年の受験時に、持病から体調を崩し万全の状態で受験に臨むことができなかった。
そこで納得がいかず、1年の浪人生活を経て、慶應義塾大学へ進学した過去があった。
1年間机と向き合い、勉強し続けることの苦労を知っている。
だからこそ、父は自分でも苦しかったあの経験が、ましてや自分とタイプが真逆の俺に出来るのかと、不安があったのだろう。
だが父は俺の目を見て、本気だと感じ取ってくれた。
「やるなら本気でやれよ!予備校は、名古屋の河合塾に行け!レベルの高いところで、高いライバルに刺激を受けろ!」
地元から電車で20分の豊橋にも河合塾はあったが、電車で1時間かけて、名古屋の河合塾に通うことが決まった。
名古屋の河合塾は、愛知で最大規模であり「早慶exコース」というクラスがあった。
本気で早稲田、慶應を目指す生徒に特化したスペシャルなクラスだ。
毎年何人もの生徒がここから早慶に進学している。
俺はこのクラスを選択した。
同じく豊橋や蒲郡から通う俺より頭の良い他の高校の仲間たちが4人いて、この4人と毎日名古屋へと通う生活が始まった。
リベンジさせてもらえることに感謝しながらも、沈む気持ちをなかなか切り替えられずにいた、その夜は眠れなかった。
何度もうなされて、起きた。
「全然、寝れねぇ...どうしてだ...」
これから始まる勉強地獄という苦しい1年に怯えてる自分が、そこにはいた。
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第7話の登場人物 整理
ケイタ(俺)=筆者であり、主人公。愛知県・蒲郡市出身。豊橋東高校卒業。
マサト(父)=真面目で、固く、昔から厳しかった。読書家で勉強熱心。
サヨミ(母)=社交的で、勉強も遊びも大事にしなさい派。常々、友達は大切にしなさいと言う。好きな言葉は「かわいい子には旅をさせよ」
ユウカ(妹)=3つ歳の離れた妹。俺が高校3年の際は中学3年。