地獄の浪人生活始まる〜男子チア物語第9話〜
2012年4月。
周囲は華の大学生活スタート。
俺は地獄の浪人生活がスタートした。
高校の仲間たちは、髪の毛を染め、新たな友人が出来始めているころだ。
TwitterにFacebook...。
様々なSNSで頻繁な投稿が目立った。
「大学生って、突然自由を手にしたようで、なんかいいなあー!」
予備校に通うために特に服装にもこだわることなく、毎日変わらない日常を過ごす俺と違って、"大学生"になった友人たちは、毎日見た目を気にし、サークル活動に、グループでの旅行など、まさに大学生活を謳歌していた。
そんな姿が、めちゃくちゃ羨ましく映った。
悔しさからか俺は、あえてTwitterやFacebookなどのSNSを始めず、全て仲間の情報をシャットアウトした。
浪人中、自分から友人へあまりLINEすることはなかった。というか、出来なかった。
今の自分が恥ずかしく、自信が持てなかった。
毎朝の最寄り駅のホームでは、たまに地元の友人や高校の友人を見かけることがあった。
俺は下を向いて、なるべく目を合わさず極力気付かれないようにしていた。
毎日名古屋の河合塾に仲間4人と通い、朝から晩まで勉強し帰りの電車に乗る。
毎日、毎日が、その繰り返しだった。
唯一、自分の息抜きといえば、早稲田男子チアリーディングチームSHOCKERSの演技動画をYouTubeで見ることだった。
これがあるから、今の俺は耐えられている。
全ては男子チアのためー。
不安は毎日消えなかった。
「いつ、終わるんだろうか」
先の見えないトンネルにおびえていた。
これをやれば、100%合格できるという保証なんてない。
だから、怖くて仕方がなかった。
そんな不安な日々を送っていたが、あっという間に夏が過ぎていた。
国語、英語、日本史の3教科に特化した授業を受け、自習に励み、実力は着実についていた。
1年前には全国模試でE判定だった実力もB、C判定あたりまで上り詰めた。
だがそれでも壁は高い。
合格出来る確率で言えば60〜70%くらいか。
試験の日は着実に近づいてきていた。
この時、俺は自信のない自分をこの世から消したかのように、ひっそりと過ごしてきたが地元や高校の友人の周りでは自分のことはすでに広まっていた。
自分の口から部活の仲間や親しい友人には浪人前に、もちろん現状と進路を伝えたが、それはわずか数人だった。
「ケイタは早稲田を目指して浪人しているらしい!」
俺にとっては恥ずかしくて自分の口から決してみんなには言えない、そんなことが噂などで回りに回っていた。
「浪人して、また早稲田に行けなかった、なんてなったら大変なことになる...」
自分のプライドもあり、そんな恥ずかしい事は出来なかった。
「だから何としても受からないと」
男子チアのためにも。
だが、もう一つ絶対落ちることが出来ない理由があった。
浪人生になってから受講する夏季講座や冬季講座。
チューターから配布された申し込み用紙には、多額の受講料金が記されていた。
「こんなに、高いんだ...」
正直、金額には驚いた。
高校を卒業し19歳だった俺には、さすがにこのお金の高さが分かった。
自分1人にこの1年でこれだけのお金をかけてしまっている。
両親には、本当に申し訳なさを感じた。
「早稲田に合格することこそが、恩返しになるはずだ」
絶対に合格しないといけない。
使命感にも駆られていた。
だがその気持ちは一方で、自分に過剰なプレッシャーを知らずしてかけていた。
1年前とは背負っている重荷が違う。
「失敗は出来ない、絶対に出来ない!」
毎朝の洗顔、顔を上げて鏡越しに見る俺の顔は、みるみるおびえるような表情になっていた。
つづく
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第9話の登場人物 整理
ケイタ(俺)=筆者であり、主人公。愛知県・蒲郡市出身。豊橋東高校卒業。
マサト(父)=真面目で、固く、昔から厳しかった。読書家で勉強熱心。
サヨミ(母)=社交的で、勉強も遊びも大事にしなさい派。常々、友達は大切にしなさいと言う。好きな言葉は「かわいい子には旅をさせよ」
チューター=予備校の各クラスにいる、学校の担任の先生のような人
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