Keita's talk その216 Otus 1.4/55 というレンズ
このレンズを一言で表現するなら「最高峰」。ありきたりですが、やっぱりそうなんです(笑)。そんなに簡単に使えるわけでもないので紹介されてもと言われそうですが、その全てが素晴らしく楽しいレンズ。
とりあえず買えば使えるというわけでもないのも最高峰と呼びたくなる大きな理由。
先ずはピント合わせから悩む。合っているはずなのに微妙にずれた感じになる。ちょっと前ピン?後ピン?そんな理屈で考えても答えは出ない。
1年ぐらい使っていると、自分なりのポイントがわかって、ファインダー越しにピントがあった瞬間にピント位置が輝くのがわかるようになる。これが結構嬉しい瞬間。
マニュアルフォーカスだからでしょ。その答えは半分正しくて、半分微妙。マニュアルフォーカスが原因なら、フルサイズミラーレスでEVF拡大を使えば問題は解決のはず。
一眼レフを使っているので、検証はしていないですが、それでも初めのうちは悩むと思う。そんなちょっと悪くいえばクセがあるのがこのレンズの一番の魅力。
ピント位置は単純にシャープなだけでなくぬめりのような味があるのがポイント
ボケは空気感だけでは終わらない深みがある
次元の違うボケがピント位置を難しくしているのだというのが、これまで使ってきた感想。本当にピントが外れた瞬間から背景に溶け込んでいくようにボケるので、それを含めてピント位置を決めないとピントがあっている印象が弱くなる。
と、ボケの話を書くと絞りは開放?確かにそれも一つのやり方ですが、ボクはF2.5を基準にしている。
これはフィルム時代からの基準で、ピント位置のシャープさが引き立ちボケ味が損なわれない魔法の絞り値。特に50mmや55mmの標準レンズではその効果が高いので街で使うなら一押し。今回の写真も全て絞りF2.5の絞り優先モード+露出補正。
少し離れた距離でも背景に溶け込むようなボケの柔らかさはそのまま
当然、同じ絞り値でもピントを合わせる被写体までの距離やボカしたい被写体とピントを合わせた被写体の距離の差でもボケの印象は変わる。
上の写真のようにピントを合わせる被写体の距離が離れるにしたがって背景に溶け込むようなボケは得づらくなる。絞りを開放にしてもこの距離ではそれほど印象は変わらない。
言い方を変えると、ボケはピントの外れた状態なので、ピントを合わせた場所とボカしたい場所の距離の差が大きい方がより大きなボケを得られる。確かに絞りを開けることでより柔らかいボケが得やすくなるが、ピント位置がハッキリしなければ表現としては本末転倒になる。
昔の35mmフィルム時代であればピント合わせの限界もあるのである程度仕方ないが、デジタルの基準で考えるとしっかり合わせて感じさせたい。
「決定的瞬間」日本ではそんな紹介をされる偉大な写真家のオリジナルプリントも近づいてみると結構ピントが甘い写真が多い。同じ写真を鑑賞距離で見るとばっちりピントがあっているように見えるからすごい。
これはフィルム時代の話で、デジタルではきっちり追い込んでいる方がスッキリする。
光が弱い条件でも陰影表現が豊かなのでモノクロ向き(笑)
ピントが良くて、ボケが良くて、深みもあるのがモノクロ好きにはたまらない特徴。ただ、そこの深みは撮影時に狙って調整で仕上げる必要がある。光を選んで、露出を決めて、調整で追い込む。
ちなみに調整で明瞭度をあげてカリカリに見せるのはこのレンズには勿体無いと個人的には思う。全てのバランスが決まると他のレンズでは感じたことのない深みを得ることができる。
その深さは黒の中の黒という表現では終わらずどこまでも締まり続けて潰れずに深くなっていく感じ。
ピント・ボケ・深みの三拍子が何気ない世界に緊張感と安らぎをもたらしてくれる
このレンズの評価によく言われるカメラで撮影したデータそのままの撮って出しはありえない。そんなことをしたらこのレンズを磨き上げてくれた職人さんたちに申し訳ない。
おそらくこのレンズを仕上げるためには、考えられないほどの鍛錬と苦労の結果得られた確かな技術があるはず。そこまで築きあげられたものを評価するなら評価する側も自分なりのしっかりとした答えを持つべきだと思う。
生意気?確かにちょっと生意気な意見ですよね。このレンズと付き合っているとなんかそんなことを考えるようになる(笑)。
最後はなぜか鉄(笑)
レンズを1本選びなさい。そんな質問があったら間違いなくこの子を選ぶ。まだまだ、教えてもらうとこがたくさんあるレンズで、類い稀な技術力が日本を支えた時代の匂いを感じるのも選びたくなる大きな理由。
では、また次回。
レンズ:Otus 1.4/55 カメラ:Canon EOS 5D Mark Ⅲ
オリジナル Keita's talk その216 Otus 1.4/55 というレンズ 2017年6月9日