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Keita's talk その415 レンズの包容力


 大きく重いレンズというのは確かに描写力が高く何かと楽しめる。

 しかし、持ち歩くのに不便を感じるというかその値段が高額になる。

 コンパクトで描写が力があるように見えるレンズは最初は楽しいがだんだん飽きる。


 最近はレンズ設計がかなり高度になっているので、コンパクトなレンズでも描写力が高いレンズが多い。しかし、それは条件が限られる。そこであるように見えるという表現になる。


 敢えて小さくではなくコンパクトとしたのは最低限のサイズがないと描写が担保できないから。例えばパンケーキレンズと呼ばれる小さなレンズは、一見、描写力が高いレンズもあるが基本的にはそれは限られた見せ方をしているから。なぜならば、それはパンケーキというコンパクトさが一番の狙いだからだ。


 かなり語弊のある書き方になっているが、コンパクトで描写力があるレンズと大きくと重くて値段が高くて描写力があるレンズの違いは包容力だと思っている。



 包容力の前に、描写力って何?解像力(感)、切れ味、階調再現力、発色、と、その評価は様々。さらにこれらはトレードオフの関係になっているものが多い。


 例えば、発色を良くするためにはコントラストが高い方が良いが、コントラストを高くすると階調の再現力は落ちる。階調の再現力を重視しすぎると眠くてピントすら甘く感じてしまう。という感じ。


 大切なのはそれらのバランスで、それをまとめて包容力と呼びたい。


 大きくて重くて値段もそれなりに高いレンズは様々な条件でその包容力を感じることができる。それにはレンズを作った設計者の方の能力が大きなポイントになり、それをどうやって活かしていくかでは撮影者の能力が問われる。全て数値化して弱点をできるだけ無くした高性能レンズは面白みがなく結局包容力が落ちると感じることがある。

 これは優等生が打たれ弱いのと同じ気がする。ちなみに優等生レンズは何となく安心感があるという素晴らしいおまけがついてくる。


 一番の違いは階調の再現力。暗部の深みやハイライトの粘りを含めた全体的な再現力の高さ。その違いは暗部の深みに現れやすく、レンズの値段に比例して深みが増す。


 ちなみに解像力(感)という評価も結構曖昧。さらにデジタルの補正では見た目に解像力を高く見せる処理ができる。解像力とは細かいものを分離する能力で、これもデジタル補正が使える。そして、最近のレンズ設計にはそのデジタル補正が前提になっている場合が多い気がする。

 それはこの解像力を高くするためにはレンズの収差と呼ばれるズレを除かなければいけないから。この収差もかなり厄介者でうまく扱わないとレンズの味がなくなる。ここにもトレードオフの関係がある。


 収差をわざと残したレンズを癖玉と呼ぶことがあり、その癖をどこまで残しておくかは設計者の腕の見せ所でもある。そして、光学の世界は最後までアナログなのだと思う。それはバランスが大事だから。

 例えば、高性能レンズの代名詞のように使われるEDレンズや蛍石は色消しレンズとも呼ばれ、色の収差を抑えてくれる。このレンズを使う利点は収差の幅が抑えられるので、バランスがとりやするなること。


 そして、包容力のあるレンズは、そんな特殊削材と呼ばれる高価な削材を多く使っているので値段も高くなる。そのくせに使い手に強いてくることがある。レンズがちゃんと光を活かせと言ってくる感じ。そうしないと先に紹介した暗部の深みも表現されない。

 さらにいくら言葉で説明してもそれが写真で表現されていなければ、机上の理論となる。


 結局考えれば考えるほど、何を基準にすれば良いかわからなくなる。


 極めて個人的なレンズの評価基準はその重さ。そして、最終評価はプリント。グレーインクがある顔料プリンターのA4サイズのプリントを見ればそのレンズの包容力がわかる。


 と、これは当たり前のことだと思っていたが、最近は何となく変わってきているように思う。そもそもプリントする必要があるのかという意見もありそう。レンズを判断するならモニターの等倍拡大やチャートが一番という意見。

 それも1つの指標だとは思う。それでは官能評価と呼ばれる写真としての評価基準は判断できない。


 確かに、自分でも一時期コンパクトでそこそこの描写力があるレンズで十分と思っていた時期があった。そんなレンズはモニターの等倍拡大ではスッキリしていて高評価になることが多い。


 それでも設計者の皆さんがこだわった値段のちょっと高い重いレンズを使うようになると、やはり大きさと重さには正義があると思い直すようになった。特に重さは大事。レンズの見た目以上に重く感じるレンズは絶対にいい。そして、そんなレンズは見ているだけでそのヌケの良さに吸い込まれそうになる。


 そうそう、この見ているだけでそのヌケの良さを感じるのもレンズの正義。

 そう考えると、それを楽しむためにもそこそこ大口径レンズが良いという話になる。

 ちなみにそんなレンズを作るときに絶対にやってはいけないのは妥協すること。妥協はその描写に必ずでる。


 大口径レンズの話になると前玉と言われる一番前のレンズの大きさが気になるが、本当に大事なのは後玉と言われる一番後ろのレンズの大きさ。そこに大きさがあるとレンズのヌケが一段と楽しみやすい。


 そして、大口径レンズの難しさはその組み立て精度の高さが要求されること。


 これは小さいレンズでも同じだが、大口径レンズのそれはレンズの枚数も増えるので難易度はさらに上がる。それゆえコストも高くなる。高コストはいいレンズづくりの基本だ。


 そんなレンズを持ったら絶対にやってはいけないのはレンズをぶつけること。これは厳密にはちょっとぐらいもダメと言われている。それほどレンズの精度はその値段に比例して高くなっている。


 そんなレンズを誰が買うの?。それでも、そんなレンズを1本持つだけであなたの写真ライフはかなり楽しく変わるんです。


 基本は単焦点レンズ。


 具体的なレンズをあげるときりがないので、間違えないのはオータス。それは別格でしょ?確かに、それでもとても楽しく、いろいろなことを教えてるレンズです。

 もう少し現実的なのは、某メーカーさんには開放絞りの違いで焦点距離が同じ単焦点レンズのラインナップがある。その中でも23mmというのが逸材。なぜかこのメーカーのこの焦点距離のレンズは素晴らしい包容力を持っているレンズが多い。そして、やはり大口径の方が素晴らしい。

 もっとマニアックに攻めるなら、他のメーカーで3姉妹と呼んでいる広角・標準・中望遠のレンズシリーズ。この3本から感じる包容力は他に類をみない。そして、3本がそれぞれ個性的なのも楽しい。


 トップに使った写真も3姉妹の長女と呼んでいる中望遠レンズ。このレンズの魅力は絶妙な柔らかさ。それでいて繊細なピントもちゃんと感じられる。暗部の深みもあってそこにも微妙な優しさがある。ちなみにモニターを使った等倍拡大ではそれほどシャープには感じないという不思議がある。



 また、次回。


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