ショートショート「リビング雪」_105
「もし私が市長になったなら、全家庭に『リビング雪』を降らせます」
そう言って市長選を勝ち抜き、公約を果たしたのは私の父だ。
リビング雪とは「リビングに雪を降らせること。また、その専用スペースを全家庭に設置すること」である。
私が住む街が日本で初めて導入した市町村であり、その市長が私の父だ。
市は日本の中でも暖かい地域にある。
なんでリビング雪?と最初は懐疑的だった市民も今は納得している。
・普段雪の降らない暖かい町のため子供達が喜ぶ
・家族の時間が増える
・怒っている人がいた時に雪を降らせると怒っている人も落ち着く
・犬は喜び庭ではなくリビングを駆け回る
・猫は(やっぱり)こたつで丸くなる
市長の支持率は抜群に高いし、離婚率は減少、出生率は他の市町村よりも高い。このまま県政、国政へと父は進んでいくのではないだろうか、と最近思う。
父は家のことにも協力的だ。
イケおじだし、そういえば「お父さん臭い」なんて思ったことはない。
料理もするし、掃除もする。
ただ一つできないことがある。
それは母の機嫌をよくすることだ。
母は北海道の出身だが、家族との関係が良くなくこの暖かい地域に来たため雪が嫌いである。(父、そもそも雪を降らせるのは間違いでは笑)
母が怒っている時に父がふざけて「リビング雪」を降らせたところもっと機嫌が悪くなった。(父、空気を読もう)
今日も、私と母が喧嘩したことを知らずに、鼻歌混じりでリビング雪ならぬリビング雪だるまを作っていた父に母は八つ当たりをしていた。(父、ごめん)
風呂上がりにさっきまで作っていた雪だるまが、もう溶け始めているのを見る父。母は自室に閉じこもっている。
「これじゃあリビング雪じゃなくてリビング雷だな。」と一人言う父の後ろ姿を見ながら、私の家に必要なのはリビング雪でもリビング雷でもなく、もっと普通のリビング会話なのだろうなと確信した。
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作ってみました。
リビング雪ってなんだそのワードと自分で思いながら作りました。
しかし父よ、母の嫌いなもので市長になるとは。笑