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売上アップを考えないECサイトの収益性改善

純粋なEC事業の収益性改善作業、例によって売上アップや固定費削減の類の作業は一切せず、商品のリストラ・ターゲットずらし・オプション開発などで発送あたりの粗利を増やすことだけに専念。

ただ、発送あたりの粗利を増やそうとする際に間違えがちなのが、ついで買いを促して客単価を上げることで粗利も増やそうとする施策。無理に売上アップをしようとする場合もこれをやってしまいがち。あまり会計を意識しない外部からのアドバイスではよくある定番なので仕方ない部分もあるが。

これをやってしまうと、在庫増大でキャッシュを圧迫し、在庫スペースの拡大で倉庫費用を増やし、商品のピッキング作業の手間が増えて人件費も増やす。でもその割に粗利効果は薄く、ついで買い用に仕入れた商品をセールで無理やり売ってショップの単価イメージを下げ、とりとめのない商品ラインナップになってコンセプトまでぶれ、結局は後に何も残らないというパターンがほぼほぼ。

儲けが残らないと言って、コンサルに売上アップ策を求め、税理士に固定費削減個所を探してもらう状態の時、たいていは発送当たりの粗利額が低い。

そこでやるのは、パートタイマー含めた全従業員に、現状で損益分岐や目標営業利益を超えるまでにどのくらい注文件数・発送数を増やさないといけないかを伝える。計算方法は、固定費を発送あたりの平均粗利(客単価ではない)で割る単純なものだが、ここで出る数を聞くと商材関係なくほぼ確実に全員の表情が曇る。

発送あたりの粗利が少ないのだから、より多くの件数をこなさないといけない。この場合、「どれくらい売上が必要か」で出てくる数値よりも「どれくらいの労働(発送数)が必要か」の方がはっきりと現場に分かる。売上目標だと、「目標に向かって頑張るしかない」となるが、必要発送数だと「いや、さすがに今の人数でそれは無理」となる。

同じ損益分岐店をベースに計算されていても、曖昧な売上目標と違って、必要発送数はパートであろうが誰であろうが、一瞬で実現可否が判断できる。

そこで、冒頭に書いたような、商品のリストラ・ターゲットずらし・オプション開発などで具体的な内容を提示し、発送当たりの粗利を増やすとどうなるかをパートでも分かるように説明する。その際に考える具体的なサービス内容を描いたプランは、これまで例外なく現状より「発送数は少ないにも関わらず、損益分岐や目標利益を達成できる」という内容になっている。

もちろん、絵に描いた餅のようなものではなく、全員が「確かにそれは実現できる可能性が高い」と考えるものである。「楽して儲かる」というのをリアルに実践することになるので、普通は現場の全員がこちらに傾く。

「確実に市場のニーズがあるこのプランをもし採用するなら、もう薄い利益で粗利目標を達成するのに作業に追われるようなことはない」と言うと、呪いが解けたかのように、やる気を出してくれる。

精神論で全員のモチベーションをあげようとしても、どこにやりがいを感じるかなんて個々で違うので短時間でできっこない。でも「楽して儲かるにこしたことがない」というのは普通の感覚を持った人間なら誰しも考えること。

ここまで売上を頑張ってあげようなんてことは一切言ってないし、なんなら発送あたりの粗利を増やすと、販売計画では売上が前年より落ちることも普通にある。でも、「いままでより楽に儲けることができる」で引き出したやる気は、知らないうちにこちらが想定したよりもやたらと高い売上目標を立ててくる。粗利の話しかしてないのに、勝手に売上をあげようとする。

当然、発送あたりの粗利が増えた状態で売上もあがっていくと、営業利益を示すグラフは冗談のようなV字を見せる。どう考えても、発送あたりの粗利が少なく作業に追われる仕事よりも、発送あたりの粗利が大きい状態でより顧客満足度を増やす仕事の方が面白い。発送あたりの粗利が増えてできた、強みとなるトンガリはどんどん加速していく。しばらくすると真似をしようとする競合が増えて、その領域の市場も拡大するが、その時には生まれた余裕によって競争力も高く障壁を作ることができているので、さらにグラフは上向いていく。

ここまで、キャッシュフローの圧迫や人件費その他の固定費の増大は一切ない。売上アップをベースに考えていてはこれを狙うのはほぼ不可能に近いが、発送あたりの粗利をベースに考えれば当たり前のように実現できる。

EC業界の専門的なテクニックなど必要なく、簡単な会計(商業高校で習うような簿記知識すら必要ない)とあとは行動経済学の知識で消費者の欲求を突くことができればできる話だが、多少はマシにはなってきているもののEC業界はまだまだ売上視点・売上主義が色濃い。売上アップ支援サービスの方が作業の標準化とパッケージ化がしやすく、売りやすいのもあるが。

要は、会計を使って「いかに現場に数字をあげさせるか」より、「いかに現場が仕事を面白く感じるか」を考えていくと、現場も自然に頑張ってくれるし、低いリスクで業績回復も望めるということ。

盲目的に頑張るんじゃなく、戦略的に頑張らない方向にチームを導いていくので、正直、こちらもその方が作業量が圧倒的に少ないというメリットもある。

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