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事業再建/テコ入れ実績(4)

年商400億 大手衣料メーカーEC事業部

1.事業概要

国内大手の衣料メーカーの新規EC事業部。年商1億5,000万円、直近の営業利益は▲10%で推移。メインは楽天。残り約半年で黒字化の目途をつけないと事業部が解散の可能性も高いが進捗は昨年実績よりも悪い、という状況での問い合わせ。

ビジネスマン向けの機能性商品を得意とする会社。

時間がないこともあり、問い合わせの2日後にミーティングの予定を組んだがこちらも調査する時間はほとんどなく、ページを10分ほど確認したのみで、先方にはざっくりでいいので事業部門のP/Lだけを用意してもらうよう依頼をしたのみだった。

参加メンバーは創業家の上級役員、事業担当役員、現場メンバー幹部2名、カスタマー担当リーダーの4名。

2.調査(1)

自分たちでは打ち手が分からず、先だって4~5社ほどコンサル会社に来てもらっていたが、どの検証内容・提案内容も腹落ちせず時間だけが失われていく状況とのことだった。

参加メンバーが分かりやすいよう、ホワイトボードに売上高・総原価・総粗利益・固定費・営業利益を書き出していく。

※昨年実績
売上高 1億5,000万円
総原価 7,800万円(52%)
総粗利益 7,200万円(48%)
販管費(固定費) 8,700万円
営業利益 ▲1,500万円

30分ほど話を聞いた時点で、大きな違和感を覚えたので質問した。

───御社は元々、ビジネスマン向けの機能性商材が得意のはずですが、ショップを見る限り女性やファミリー向けの商品が多く露出していますね。おそらく強みのあるビジネスマン向け商品の方が利益率は高いと思いますが、"ビジネスマン向け商品の粗利益率と販売企画にかける時間と、女性やファミリー向けの商品にかける粗利益率と販売企画にかける時間"を教えてもらえますか?

───この事業部は本社の製造部門から仕入れるという形をとっていますが、ビジネスマン向け商品が粗利益率70%、企画にかける時間は3割です。その他の商品は粗利益率40%、企画にかける時間が7割です。女性やファミリー向けは本社でもまだ新しいジャンルの商品なので、製造数も少なく原価が高いんです。

3.調査(2)

つまり、利益率の高い商品にかける時間は少なく、利益率の低い商品にかける時間は多いということであった。続けて質問した。

───なぜ利益率の高い商品の販売にかける時間が少ないのですか?メインの商材だけあって、できることはやり尽くしているということですか?

───いえ、まだまだできることはあるし、気持ちとしてはビジネスマン向けの商品にもっと時間をかけたいと思っています。

───なにか理由がありますよね。

───本社営業部の人が上司の役員を飛び越えて現場の私たちに直接電話をかけてくるんです。ECで女性やファミリー向けをもっと売ってほしいと。私たちは新規事業部で、売上も本社の何百億円と比べるとほんのわずかなので、断ることもできなくて…。
女性/ファミリー向けは私たちも売るのは慣れていないし、企画を考えたりキャンペーンページを作成するのにすごく時間がかかるんです。ビジネスマン向けは過去の素材やデータも多いので企画も立てやすいんですが。。

───もし外部からの干渉がなく自分たちで自由にできるとしたら、どうなりますか?

───利益率の高いビジネスマン向け商品をもっと売ることができます。時間さえかければ、短期間でもまだまだ売上を伸ばせると思っています。

4.調査(3)

───役員の皆さん、そういうことだそうです。
営業利益率が▲10%ということは、
利益率70%に時間を3割、利益率40%に時間を7割
これを
利益率70%に時間を7割、利益率40%に時間を3割
こう変えたらどうなるでしょう。
しかも利益率70%の商品はもっと売上を伸ばせるらしいです。

営業利益率が▲10%ということは、販管費を変えないままでも、単純にグロスの粗利益率を10%あげればいいんです。いまの売上が1億5,000万円でグロス粗利益率が48%。これを58%にするには、総粗利の額を7,200万→8,700万円にすればいいのです。

超ざっくり計算すると、
売上高1億5,000万円で総粗利が7,200万円なら、
利益率70%と40%の商材の売上は4,000万円と1億1,000万円。
それぞれの総粗利は2,800万円と4,400万円です。
この売上比率を変えて、
9,000万円と6,000万円にすると総粗利は6,300万円と2,400万円。
合計で8,700万円になります。ちょうど損益分岐です。

もっというと、さすがに現状でビジネスマン・女性/ファミリー向けの売上比率が4,000万と1億1,000万ということはないと思います。
もっとビジネスマン向けが比率高いと思いますが、その理由としておそらく利益率40%の女性/ファミリー向けの商品を売るのにセールやポイント還元をかなり多くしているはずです。利益率の低い商品をコストをかけて無理やり販売している。実質は利益率40%をかなり下回っているでしょう。
逆にビジネスマン向けは固定客も多いのでそこまでコストをかける必要がない。

───その通りです。

───広告費等々は販管費に入っているはずなので、そこを削減できればもっと損益分岐ハードルも低くなります。ビジネスマン向けと女性/ファミリー向けの売上比率の逆転度合いも、もっと低くて済みます。

役員の皆さん、確かに中長期的には新しいジャンルの顧客開拓も必要でしょうが、まずは足元の事業部の利益改善が優先されますよね?

───もちろんです。事業部がなくなれば将来的な顧客開拓もできませんから。

───時間をかければもっと細かく数値を検証して、商品別売上や固定費の計画を立てることもできますが、事業部が黒字化できない最も大きな足かせになっているのは本社営業部からの干渉に間違いないでしょうね。

───現場でそんなことが起こっているとは全く気づきませんでした。ずっと販売についてのテクニック、方法論の問題だと思ってEC専門のコンサル会社さんに何社も相談していましたが、まさか内部のマネジメントに一番の問題があったとは…それもこんなに単純な。

───それですべてが解決するとは限りませんが、現場のメンバーの皆さんが自信を持ってもっと利益を伸ばせると言っていることですし、仮に残り半期の成績が損益分岐とまではいかなかったとしても、事業部撤退は回避できるくらいの説明は役員の皆さんもできると思います。

───そうですね、ここまで明確に問題点がわかっていれば。

ほとんど情報のない状態からこの結論に至るまでおよそ2時間。事業部に残された時間が限られている中で、それまで盲点だった問題にかなり効率よくアプローチできたと思われる。

5.対策

事業部の不振の大きな理由は、内部のマネジメントの問題であった。
上級役員・事業担当役員の指示で、新規事業部のEC部門への本社営業部からの干渉を撤廃。独立性を持たせることで、部門の利益を追求することができるようになった。

6.結果

3年後、検証から3度目の決算を迎えた時点で、
売上高2億3,000万円、営業利益15%まで改善されたとのこと。
高利益率商品への注力による売上高と総粗利益額の伸長だけでなく、やはりセールの抑制による利益率の改善とブランド力の向上、広告費の削減などいくつもの効果によって大きく営業利益が改善された。

余裕ができてきたので、後回しになっていた女性/ファミリー向けの顧客開拓も、メイン商品の売上を落とさないようにモニターしながら徐々に行っていくとのこと。

その他の実績

実績(1)
年商3億円/営業利益▲200万円 → 年商3億円/営業利益2,100万円
おせち販売(EC)

実績(2)
年商2億円/営業利益▲8% → 年商1億2,000万円/営業利益11%
ベビー用品レンタル業

実績(3)
年商2億円/営業利益▲8% → 年商2億8,000万円/営業利益15%
→ さらに増加
家具販売(EC/楽天)


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