ChatGPT o1 Proと患者さん・医師のコミュニケーション問題を徹底深掘りしてみた
Ubieで社内医師として働いている折茂です。私はこれまで、医師としての臨床業務・またubie入社後はプロダクト開発において、「患者さんと医師のコミュニケーション」について常々考えてきました。今回は、そんな課題を少し違った切り口で深掘りするため、最近話題のChatGPT o1 Pro(以下、o1 Pro)を活用し、医師と患者さんのコミュニケーション問題の解決策を探ってみました。
医師として「患者さんとのコミュニケーション」をどう改善すべきか考えている方はもちろん、AI活用に興味がある方や、医師とのコミュニケーションに関心をお持ちのみなさんにもお役に立てれば嬉しいです。
ChatGPT o1 Proは何がスゴいのか?
o1 Proの魅力は、その「推論能力の高さ」と「思考過程が見えやすい」ことにあります。つい最近、日本の医師国家試験で99.6%の正答率を叩き出したことでも話題になりましたね。
単なるQ&Aマシンではなく、こちらが「なぜ」を重ねて問えば問うほど、歴史的背景や社会学的視点、組織論、心理学、認知科学、人類学など、様々な分野の知識から課題をあぶり出してくれるのです。
実際、「医師と患者さんとのコミュニケーションギャップ」についてo1 Proとやり取りしているうちに、医療提供体制、文化的要因、歴史的経緯、インセンティブ構造、心理的バリアなど、多面的な論点が次々と浮かび上がってきました。「ああ、確かに」と思わず唸る視点を連発してくれるので、こちらが当たり前だと思いこんでいた見方を一歩深く掘り下げてくれます。
o1 Proの思考過程を引き出すコツ
o1 Proの思考プロセスを最大限引き出すには、問いかけ方が肝心です。
なぜを5回繰り返す:
「医師と患者のコミュニケーションがなぜうまくいかないのか」を、ただ一回聞くだけではなく、「なぜ?」「それはなぜ?」と深堀りすることで、表面的な理由だけでなく、構造的・歴史的・文化的な要因が見えてきます。
複数の学問分野を意識:
「説明不足だよね」で終わらせず、心理学、社会学、制度設計、歴史背景など、異なる角度から考えてみるよう促すと、o1 Proは各観点での分析を提示してくれます。
反論視点をぶつける:
導き出した結論に対して、あえて「それは違う」と反対意見を提起すると、o1 Proはさらに検証を進め、最終的には「医療の複雑化によるグローバルで普遍的な専門家—非専門家コミュニケーション困難」があることを明示してくれました。
例えばこうした働きかけによって、o1 Proはぐりぐりと思考を深め、こちらの見落としがちな点まで拾い上げてくれるわけです。
医師と患者コミュニケーション問題の本質
今回のo1 Proとのやり取りを通じて見えてきたのは、「医師—患者間コミュニケーション問題」は単なる日本独自の文化や慣習に起因するものではなく、情報非対称性と高度化した医療が生む「世界的かつ普遍的な構造的課題」である、という点です。
従来の説明:
日本では権威主義や遠慮の文化があるため患者さんが質問しづらく、医師は効率重視で説明不足になりがち…といったローカルな要因が語られることが多い。
さらに深掘りした知見:
医療が高度化・複雑化している今、どの国でも情報量が膨大で、患者さん(非専門家)にとっては理解が困難。医師の診察時間も限られ、十分な説明が難しい。これは「日本だけの話」ではなく、「どこでも起きている」共通課題なのです。
つまり、現代の医療はそもそも説明が難しい構造を内包しているということです。「日本だから」とか「歴史的背景だから」などに留まらない、より根本的な問題だという示唆を得ました。
解決策は?
では、この「専門家—非専門家コミュニケーション」の壁をどう崩していくか。o1 Proは、マルチレイヤーなアプローチを示唆しています。
行政・政策レベル:
対話時間やコミュニケーションに報酬を振り分ける制度設計、標準化ガイドライン整備、医療を通訳する職種の導入など。
医療機関レベル:
定期的なコミュニケーション研修、患者さん向けの視認性の良い資材の活用、予約や受診プロセスの見直しによる対話時間の確保など。
医療従事者個人レベル:
Teach-back法(患者さんに理解した内容を言い返してもらう手法)や専門用語の分かりやすい言い換え、共感的・傾聴的態度で患者さんの不安を軽減すること。
患者・市民側:
ヘルスリテラシー向上の取り組み、質問リスト活用、「権威を疑問視する」でもなく「盲信する」でもない、バランスの取れた対話姿勢の醸成。
こんな風に、各方面が動くことで、専門家—非専門家間の溝は徐々に埋まり、より良い医療コミュニケーションが実現可能になるはず、とのことです。
どの立場の人が見ても、とても納得感ありますよね。
Ubieの現在地と今後の広がり
では、現状Ubieは上記のどこにアプローチできているでしょうか。
Ubieが一般生活者の皆様向けに提供する「症状検索エンジン ユビー」は、患者さんが自宅で症状を入力し、症状に関連する病気や診療科を知ることができるサービスです。これによって、自分自身では想起できなかった病気を知ることができるので、ヘルスリテラシー向上に寄与していると言えるかもしれません。また実際、「受診前に自分の症状を整理できるので有用」という声もいただいており、医師との対話がスムーズになる可能性があります。さらに、医療機関の皆様向けの「ユビー メディカルナビ」は、医師が既に整えられた患者さんからの情報を受け取れることで、短い診療時間の中でも的確な説明やアドバイスを行うための業務効率化をサポートします。
今後医師と患者さんのコミュニケーションをより改善させるには、「さらに分かりやすい情報提供、患者さんごとの理解度に合わせた説明やSDM(Shared Decision Making)のサポート機能の強化、そして予防医療や日常のヘルスケア支援への展開など、より包括的な形で課題解決に貢献しなさい」とo1 proからはアドバイスを貰いました。「患者さんごとに必要とされる情報をピンポイントで届けること」と「課題解決のための適切なソリューションを案内できるプロダクトにすること」は、まさに取り組んでいる課題(下記参照)でもあるので、かなり鋭いですね。
おわりに
o1 Proとのやり取りを通じて、「医師と患者さんのコミュニケーション問題」は、実は世界的・構造的な課題の要素が大きいかもしれないという示唆を得ました。
「専門家—非専門家間の情報格差」という、大きい課題ですが、AI・テクノロジーの進歩によって確実に一歩ずつ前進している、そんな実感を得られる今回のo1 proとのやり取りでした。自分へのクリスマスプレゼントと言い聞かせてo1 proに課金した甲斐がありました。
以上、@aiue0rim0でした。今後発信を増やしていくので、また覗いていただけると嬉しいです!
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