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『私の見た収容所 人間廃業11年』

シベリア抑留から生き延びた香川重信の本。昭和33年に発行されたものを、新装版として昭和50年に出版された。サブタイトルの人間廃業11年とはまさにシベリア抑留されていた期間を指す。

古書店で200円で購入

シベリア抑留は第二次世界大戦末期から戦後にかけて、ソ連が日本人兵士や民間人約60万人をシベリアなどの強制収容所に抑留し強制的に労働させた出来事。多くの抑留者が過酷な労働条件や栄養失調、病気で命を落とした。抑留は1945年から始まり最長で1956年まで続いたという。

私がこのシベリア抑留を初めて意識したのは山崎豊子原作『不毛地帯』のドラマ版、唐沢寿明演じる壹岐正が部下にモスクワ行きを進言され激昂する場面であった。

『生意気な口を叩くな!君には、極北の流 刑地で囚人番号をおされ、地下数十メー トルの暗黒の坑内でつるはしを持ち、1 1年間も重労働を強いられた人間の苦し みがわかるか!』

さて本書ですが昭和33年に発行されたことから、現代と違い当時のモラル(価値観)をベースに率直な言葉(言い換えれば戦時中の凝り固まった価値観のまま)で当時の出来事を描写している点が興味深い。

シベリア抑留中の出来事は【本人が悲惨】なのだが、その前の満州での大混乱では自分ではなく、ソ連兵に陵辱される女たち(つまり立場が弱い人たち)への視線が(同胞を見つめる目が冷たすぎる)客観的すぎて怖いくらいだった。

民主主義的な教育を受けているわけでは無いから当然と言えば当然なのだが…。

この著者のように市井に埋もれた人たちが【当時の価値観のまま】描いた本を読むと、我々が教科書で学んだ歴史とはまた違った感慨が得られると思う。

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