グルメサイトの隆盛から終焉までと今後
こんにちは。queです。
私は2020年6月まで某大手グルメサイトで働いていました。中の人になって初めてWebサービスに詳しい人でも意外とグルメサイトの事知らないんだなと思ったのでまとめたいと思います。
グルメサイトにも世代がある
現在お笑い第7世代が今までの芸人の立ち位置を変えつつあり、iPad第8世代はコスパが良いわけですが、グルメサイトにも世代がある事をご存知でしょうか?
第1世代:ぐるなび・ホットペッパーグルメ等、飲食店にネット上の告知スペースを提供
第2世代:食べログ等、匿名ユーザーに飲食店の口コミを投稿するスペースを提供
第3世代:Retty等、実名ユーザーに飲食店の口コミやまとめといったキュレーションを提供
今回はシンプルに説明するため、混同される事も多い「ぐるなび」と「食べログ」をベースにお話していきます。
混同されるぐるなびと食べログはまったくの別物
パッと思いつく4文字のグルメサイトという事で、ぐるなびと食べログって結構混同されがちですがビジネスモデルが全く異なります。
ぐるなび(やホットペッパーグルメ)は飲食店からお金をもらうため、飲食店への送客が収益の柱です。
圧倒的に飲食店側に寄り添い告知協力を行います。第1世代らしく、テレビや雑誌のように、一方向コミュニケーションとなります。
一方の食べログは個人に飲食店のクチコミを書いてもらう事がコンテンツであり、そのクチコミ見たさに人が集まります。
飲み会の場所連絡も、とりあえず食べログのリンクを送るという人多いのではないでしょうか?
個人的に食べログの地図・住所情報はスマホで見やすくないのですが、★いくつの店か。と瞬時に分かるというのがユーザーにウケるんでしょうね。
ユニークユーザーが多いのでサブスクリプションである「プレミアムサービス」への加入数も純増しています。
すでに閉店した店があたかも運営中のように見えたり、極論、ユーザーが"架空のお店"を登録する事も出来たのですが最近は登録時に電話番号で確認しているようです。
元々はクチコミだけだったのですが、ホットペッパー等の競合へのリンクを貼って予約誘導も行っています。
もちろん無料ではなくアフィリエイトです。予約加盟店を集めるには全国に営業マンが必要でイニシャルコストもランニングコストも時間も相当がかかります。
なので食べログはあくまでクチコミに特化して、集まったユーザーを活用して他グルメサイトに飛ばしてさらに稼ぐというゴールデンサイクルを構築しました。
このあたりは、kakaku.comを持つデジタルガレージの勝ちパターンが色濃く出ていますね。食べログは「飲食店」に特化したSEO特化の比較サイトであり、語弊を恐れずに言うとグルメサイトではなかったのです。
しかしぐるなびがクチコミを欲しがるように、食べログも飲食店収益が欲しくなり、飲食店営業を強化。ここ数年で一気に食べログから直接予約出来る飲食店が増えました。
お金を出してくれるところに逆らえないジレンマ
だったらぐるなびも口コミやればいいのに。と誰もが思うでしょうが、ぐるなびの主たる収入源は飲食店の掲載料。
自由な口コミを認めると、特に日本人は最高のサービスで当たり前。少しでも気に入らないと店に文句言わずネット上で晒したいという国民性から悪い口コミが集まってしまいます。
いくら有償リスティングで上位に表示させても、評判の悪い店は選ばれません。
こうなると有償オプションを選ぶ意味、そもそもぐるなびに掲載する意味がなくなるためぐるなびは「応援クチコミ」という良い点だけ書ける片手落ちなクチコミ機能を提供してきました。
しかしクチコミニーズは広がるばかり。自社で集められない事からトリップアドバイザーと提携し、トリップアドバイザーのクチコミを転記するという手法を取る事にしました。
これはぐるなびに2つのメリットをもたらします。
1つはTripAdvisorは外資系であり、海外では日本ほど峻烈な批判は少なく、高評価が多い文化から日本語での書き込みも比較的高印象が書かれる点。
もう一つは、ある意味アンコントローラブルな点。
飲食店から「このクチコミを消してほしい」と来ても「弊社のサービスでは無いのでトリップアドバイザーに問い合わせてほしい」とクレームを丸投げ出来ます。
また、あまりに強く削除を求める飲食店に対してはトリップアドバイザーの評価欄自体を消す事で対応出来ます。これが自社サービスならユーザーが何故クチコミが無いのか?と疑問に感じますが、他社サービスならデータ連携出来ているものと出来ていないものがあるんだな程度の感覚しかもたないでしょう。
デメリットはまだほとんどのぐるなびでトリップアドバイザーのクチコミが見られる事を知らない人がほとんどという事でしょう。
一方の食べログはクチコミがベースにある故、飲食店に対しての営業スタイルが違います。いままで高評価の店は食べログに費用を払う事なくある意味送客を受けていましたが、「有償契約しないと評価を落とす」という疑惑が浮上し炎上。
公正取引委員会が動き出すまでに発展しました。
一連の疑惑は否定しているものの、確固たるクチコミプラットフォーマーの食べログは飲食店に強気の交渉が出来るメリットがあります。
実際私が昔あまりに酷い店について食べログに書き込みをした事があります。
チェーン店なのですが、厨房では金髪で腕に入れ墨を入ったものがタバコを吸いながら大声で談笑し、さほど客も入っていないのに注文した料理が1時間たってようやく来たら盛り付けがむちゃくちゃで冷えている・・・。
しかし、10分ほどで非公開にされました。
運営から「あなたの書き込みを非公開にしました。食べログは料理についてのコメントを書くサイトであり、規定違反です。」みたいなメールが来ました。
しかし明らかに拡大解釈であり、私はそれについて対応がおかしい事を返信しましたが杓子定規の返事しか来ませんでした。
確かに星1の批判が中心ではあるものの、言葉を選び冷静に事実を書いたつもりです。
その後星の数を変え、多少書き直しをして再度掲載しましたがすぐに非公開となりました。
そこが有償加盟店だったか否か、今も行っているのか分かりませんが、運営による恣意的な削除は存在しました。
それもあってか、今やぐるなびでは予約出来ないけど食べログなら可能なお店も登場しています。
ちなみに実名が基本のRettyは実名ゆえ高評価コメントが集まりやすい傾向にあり、トリップアドバイザーと近いです。
リリース直後ほど名前を聞く事はなくなったが2020年10月30日には東証マザーズ上場承認される等現時点でも順調に成長しているようです。
無料告知出来る媒体が増えた
一部常連で成り立つ隠れ家的お店を除き、大半の飲食店はグルメサイトに掲載し送客料を払わないと営業していくことが難しかったです。
自社サイトを作ったとて、ぐるなびや食べログにSEOで勝てるわけもなく埋もれます。また、オンライン予約システムを自前で導入するとそれはそれで費用がかかり運用負荷もかかります。
しかし現在ではLINE公式アカウント(旧LINE@)やGoogleマイビジネスといった無料で告知出来る媒体が増えました。
LINE公式アカウントはぐるなび的な告知媒体としてファン育成ツールになりますし、Googleマイビジネスには忖度無しのフラットな評価が集まるため食べログのように小生オジサンが肉食系女子と出かけた"俺通信"を読まされる事もないです。
今のところ、そのGoogleマイビジネスからの予約しようとすると裏側はぐるなび等です。
天下のGoogle様もさすがに飲食店1社1社と予約連携するのは大変ですし、興味もないでしょう。
ぐるなびはサイトのインプレッションは増えないものの、予約数はあがるかつ、非会員予約扱いとなるためポイント還元も不要。
送客手数料が丸々利益になるので万々歳なわけです。(Googleが送客手数料を取らないと仮定した場合。)
飲食店はぐるなびからの予約が増えたと喜びますが、そのうち気づきます。これってGoogleから来てるんじゃねぇの?って。
訪日外国人施策で生き残りをかける
大手プラットフォーマーから協業をもちかけられたグルメサイトは恩恵を受けながらも、いずれ取って代わられる存在になるのは明白であり戦々恐々としています。
地方はまだまだ未加盟店が多いものの、もう日本で飲食店送客を爆発的に伸ばすのは難しいでしょう。
その一方、昨年まで日本を訪れる外国人が急増しました。
そこで各社インバウンド、つまり訪日外国人の飲食店送客施策に乗り出します。
先程書いたぐるなびのトリップアドバイザー連携なんかがまさにそれにあたります。
ぐるなびはトリップアドバイザーからクチコミ情報をもらい、トリップアドバイザーはぐるなびから日本の飲食店情報と予約連携をもらいます。
アメリカではOpenTableと組む等各国のグルメサイトと連携する事で、旅行の核となる飛行機・宿・アクティビティに続く「食」コンテンツを充実させたいという思惑からです。
食べログは、中国版食べログと言われる大衆点評と連携し、中国人が訪日前から飲食店予約が出来るようにしました。
このように海外とのアライアンス先も重要となりましたが、これも多く組めば良いというわけではなく飲食店情報が取得出来るAPIを渡すとクロールされ、全データを取られ音沙汰なくなり、明らかにそのデータを使ったであろう謎のメディアが出てきたりするのでアライアンス担当は相手の信頼性から契約やすり合わせをセンシティブに行う必要があります。
コロナ~GoToEat
訪日外国人のおかげで外食は潤いました。
特に中国人やヨーロッパ人は日本人の庶民では行けないような高級店にガンガンお金を落としてくれます。
体力をつけた飲食店は一等地に新店舗をガンガンオープンしていきます。
そこに現れたのが新型コロナウイルス、COVID-19でした。
急遽店を閉めざるをえなくなり、体力の無い個店から倒産していきました。
逆境を乗り切るため、テイクアウトを始め、ウーバーイーツも開始して生き残りを図ります。
緊急事態宣言が解除され、営業再開した飲食店ですが、ビジネスマンが出社していないので来店してくれません。
色々と策を練るも、日々情勢が変わり準備してきた事が無駄になる事も多く疲弊していきます。
グルメサイトは店舗閉鎖や閉店で収益がなくなる中、無料掲載で送客支援を行います。飲食業が立ち行かなくなると、それはグルメサイトの死を意味するからです。
そんな限界の限界の中、始まったのがGoToEatでした。
これで飲食店予約数はかなり盛り返します。
もちろん、トリキの錬金術等を地で行くツワモノが現れたり、「GoToEatで予約が入ったので怪しいと思ったが案の定2杯しか飲まなかった!」とTwitterに書き込むバーのオーナーが炎上したりといい面悪い面出てきましたが普段なかなか行けないお店に行く機会に繋がった人も多いでしょう。
しかし予算は有限。元々21年3月まで実施予定だったGoToEatは開始1ヶ月で資金が尽きて終了しました。
今後
金の蔵や東方見聞録で有名な三光マーケティングフーズは店舗を大量に閉店していました。
恵比寿にある"博多金の蔵にのまえ屋"が大好きだったのに・・・。
料理もヘルシーでおいしいものが多かったんですけど、
なんとハイボールが49円!で、株主優待で40%オフになるので1杯29.4円で飲めたのに・・・・。(だから潰れた?)
ワタミも多くの居酒屋店舗を一人焼肉の店に鞍替えすると表明しました。
アクセルとブレーキを同時に踏むと揶揄されていますが、コロナ第3波とも言われる2020年11月には会食は4人以下!マスクをしたまま!といった新ルールも出てきてもう全社を上げて忘年会を企画するのは無理でしょう。
コロナは本当に世界を変えました。
「出社する事=仕事」と考える日本企業がこんなにテレワークになる世界を誰が想像出来たでしょうか。
今までなら渋谷に店を構えれば平日はビジネスマンが。休日は大学生を狙って高い家賃を払ってもやっていけました。
国が出来るのは延命のため支援金を出したり納税を遅らせたりする事です。
そこを飛び出してGoToEatにも打って出ましたが出どころは税金であり、また国民に跳ね返ってきます。
飲食店1社、1店舗が声を上げたとて限界があります。やっぱりまとめ役が必要です。
ここでグルメサイトが手を挙げないと誰が出来るのでしょうか?
グルメサイトは輪廻転生を繰り返す飲食店を食い物にしてきました。
全部有償で、居抜きの物件紹介を行い、インターネット契約を行い、サイト掲載し、台帳・予約システム・決済サービスを入れ、リスティングをして、死んだらその居抜きを他の飲食店に与えてきました。
ユーザーにはネット予約でポイントがもらえる!くらいしかやってこず、Googleがいればグルメサイトは用無しじゃないか?とも思えます。
ここで、例えば飲食店特化のクラウドファンディングプラットフォームを作ったり、自治体と地域の飲食店を束ねて食べ周りパスポートを作ったり、外で飲食出来るスペースを作ったりと色々出来る事はあるはず。
ちなみに私がいたグルメサイト運営企業はそういう新しい事をやろうと言い出すものをとことん嫌いました。
こういう会社は適任がいないので役員が有能な人をヘッドハンティングしてくるけど環境が劣悪すぎて数年で辞めるので、内側向いて仕事する人しか残らない。
上から言われた事だけで精一杯だし、マネージメントレイヤーが思いつかないような事をやられると把握出来ないのが嫌なようです。
しかし、あるものに乗っかるのではなく、ゼロイチで作っていかないと会社も社員も存在理由が無いです。
食べログはkakaku.com有するデジタルガレージグループであり、ホットペッパーもリクルートグループであり飲食業が落ち込んでいる間は他の事業に注力して嵐が過ぎさるのを待つことが出来ます。
一方、飲食関連専業であるぐるなびは2019年に利益8割減という衝撃的な決算を発表し楽天の資本が入る事になります。
楽天はEC、金融を中心に多くのサービスを持っていますがグルメ領域は弱い。楽天ダイニングやRakooと聞いてもピンと来ないでしょう。
ぐるなびで予約すると直接楽天ポイントが溜まるようになりました。
楽天からするとポイント発行量を増やし、エコシステムに貢献してくれるぐるなびは魅力的に写ったのでしょう。
しかし楽天がぐるなびを子会社化するかというと話は別です。
赤字を垂れ流す企業を連結子会社化する理由はなく、今のように
ぐるなびの生殺与奪の権けんを握りつつユーザーID・インセンティブ部分に積極的に入れればそれでいいので。
グルメサイトは本格的な岐路に立ったといえるでしょう。
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