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デジタル広告は数字を見る前に顧客を見ろ、という話

このnoteではマーケティングについて色々と書いていますが、なんだかんだ言っても自分の日々の業務で一番の比重を占めるのは「デジタル広告の運用」になります。

いくら「マーケティングとは広告のことじゃねえんだよ」とか言っても、特にモバイルゲームのマーケティングにおいては、毎日の広告効果の最大化というのは事業の生命線の一つであり、
よほどブランド力のあるタイトルでもない限りは広告が伸びてないと事業が伸びてくれません。

一つの目安のような話でいうと、仮に月間5億円くらい売れているようなタイトルであれば、デジタルだけでも広告費は月間1億円くらいは使っている感じだと思います。

モバイルゲームはストック型とかミルフィーユ型とか表現されますが、要するに「過去に獲得したユーザーが残ってずっと課金をし続けてくれる」といいうモデルです。

例えば、広告を月に1億円使って、それによって獲得したユーザーが登録当月に5千万円しか使ってくれなかったとしても、
3か月後くらいには累計1億円を突破して回収完了、そのあとはすべてが利益に…といったイメージです。

実際には開発費の減価償却やら運用コストやら、他にもコストがかかるため、上記の例でもそんなに利益が出なかったりもしますが、ともあれ、
「モバイルゲームはデジタル広告運用がまさしく死活問題なのだ」ということだけが理解いただければと思います。

【数%の広告効果改善にシノギを削る風景】

さて、上記のような事業モデルのため、モバイルゲームの広告運用は数ある事業の中でも結構なシビアさがあります。

月間の広告費を数千万円とか億単位とか使うのが、そんなに珍しくないことだったりもするため、
ちょっとした油断で数百万円、数千万円という損失にもつながります。

例えば自分自身でも、とある広告の暴発を止められず、
1日で500万円くらいの損失を出してしまったこともありますし、
某媒体では、30分のあいだに90万円くらいが無駄に配信されていたということもありました。。
ほとんど株やFXのトレーダーみたいな話ですね。

そういう話でなくても、例えば月に5千万円の広告費で運用していたら、年に6億円を使うわけで、効果が10%変わると年間の利益が6千万円変わってくるわけです。

そんなわけで、デジタル広告の担当者は毎日、代理店の担当者と細かなレポートの数字について議論したり、
広告媒体の管理画面とにらめっこしたりすることになります。

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(とある広告の管理画面。1日に何度もチェックして調整する)

日々の議論の中でも、
「この媒体は昨日より良くなりましたね」
「このクリエイティブはこれまでのものより効果いいですよ!当たりですね!」
みたいな話をしながら、少しでも効果が良いものを見つけるようにPDCAしていきます。

その効果を改善するために、週に何本何十本といったクリエイティブを追加して検証しての繰り返しをしていくというのが、
広告運用の現場では当たり前の風景になっています。

で、週イチとか月イチのタイミングで定例mtgを開催し、
全体の数字を見ては「先週より10ポイント伸びましたね」「先月より3ポイントのビハインドです」といったことを見ていきます。

担当者からすると、この数ポイント(数%)が自分の成果のすべてだったりするので、非常に神経を尖らせながらレポートをチェックするものです。

【数%の話をしていても、残念ながら事業は伸びない】

一見すると、上記のような「数%をきめ細かくチェックする運用」というのは、100点満点のようにも見えます。
実際、優れた成果を出す広告運用者は、ほぼ例外なく数字をめちゃくちゃ細かく把握しています。

が、残念ながら、
事業と向き合う上では、数字とにらめっこしているだけでは不十分です。

こういう運用においてよく起きるのが、
「調子が悪くなってきたらデスマーチ化する」
という事象です。

「先月より10%もROAS(広告投資回収率)が落ちてるぞ!どうなってんだ!」
「当たりクリエイティブがないぞ!ちゃんと気合入れて作ってんのか!」
といった下降局面において、打てる手が見当たらなくなるというケースに非常に多く出くわします。

そういう状況になったとき、数字とクリエイティブばかりを見ていても、できることはほとんどありません。

多くのケースだと、「クリエイティブをもっと追加します!」と言って過去に効果が良かったものを横展開して、ひたすら数で勝負するとかいう着地になったりします。

そういう場合、
「で、その対応をしたら効果は良くなるの?」といった質問に対して、
「正直わかんないっす!でもクリエイティブは数を作んないといけませんから!運用は気合っすから!」

みたいな答えが返ってきたりします。

そういう流れで

広告効果が悪化してくる

広告クリエイティブを追加する

効果が改善しない

もっとクリエイティブを追加する

でも効果が改善しない

めちゃくちゃクリエイティブを追加する

効果が改善しないので予算縮小

事業縮小

という、事業縮小のモデルケースが出来上がります。

効果が悪くなってきたとき、広告クリエイティブの数を追加するだけでも最初は良かったりするのですが、
ずっとそれをやっていても、緩やかに事業縮小していくしかなくなってしまうわけですね。

誤解されたくないのは、数字を細かく見ることも、クリエイティブをちゃんと追加していくことも重要なことだということです。
ただ、それだけだと事業はだんだんと縮小していってしまうということです。

【そこに顧客の視点はあるのか?】

上記のようなケースで、とにかく違和感があるのは、「顧客」の話が一切出てこないことです。
やれ数字だ、やれ管理画面だ、やれAIによる運用の自動化だ、やれクリエイティブの横展開だといった議論はよくされるのに、
顧客についての議論がまったくされないというケースを山ほど見るわけです。

それはほとんど、「顧客」のことが「名前を呼んではいけないあの人」であるかのように扱われ、
マーケティングの一環として広告を運用しているはずなのに、一切顧客のことに触れないというケースが本当に多いです。
もはやデジタル広告を扱う人のルールかというくらい、顧客の話に触れることは少ないと感じでいます。

デジタル広告は数値の計測が非常に高度に発達しており、そのためデータに基づいた配信の最適化などの技術も発展を続けてきています。

Googleをはじめとしたグローバルの広告に至っては、「チューニングはAIに任せるべきなので、入稿したらあんまり触らないで」と言われるくらいです。

しかしながら、それはあくまで「データに基づいた最適化」の話であって、
AIが自動的に売れるクリエイティブを発明してくれるわけではないし、見込み顧客が望んでいるものを読み取ってくれるわけでもありません。

データの活用はAIに任せるとしても、顧客を想像し定義するのも、それに合わせたクリエイティブを作っていくのも、人間がやるしかないわけです。
それ以外の領域のほとんどすべてがAIに代替されていくことになるのは明白なわけで、
そこをやらない限りは、今後の時代において広告運用における人間の介在価値など皆無になっていきます。

【顧客を想像しながら運用する、というシンプルすぎるセオリー】

運用型のデジタル広告がユーザー獲得目的である以上、当然ながら見込み顧客(見込みユーザー)のことを考えながら施策を打っていく必要があります。
そして、見込み顧客のことを考えるということは、必然的にロイヤル顧客を理解することがスタートラインになります。

要するに、デジタル広告であろうとも、顧客のことを考えながら運用するというのが当然のセオリーになるわけです。

最近、自分が関わっているある案件の例を紹介します。

とあるモバイルゲームでは、毎月数千万円後半~1億円規模の広告出稿をしていたのですが、
リリースから1年以上が経過して、ここ最近は効果も悪化してきており、月に3~4千万という規模まで出稿額が縮小していました。

そのテコ入れに自分が関わるようになり、関わって1か月ほどで、月の出稿額を倍程度に伸ばすことができました。
今後数か月間も、おそらくは同程度の出稿規模を保つことができる可能性が高いです。

具体的にやったことは、以下の3点です。

■広告を伸ばすためにやったこと
①見込み顧客が、いまどういう状態なのかを想像する
②その顧客に合わせた広告クリエイティブを企画する
③実際の広告運用で検証する

ただこれだけです。めちゃくちゃ普通です。

①においては、見込み顧客の状態を
「認知はしているが、具体的なゲーム内容を理解していない」
「ゲーム内容がわからないので、何となく興味はあるけどインストールするところまで気が乗らない」
と想像しました。

このタイトルは過去にもTVCMや大量のデジタル広告出稿などもしており、ゲームユーザーの間ではそこそこの認知度があると思われます。

しかしながら、過去に出稿してきたクリエイティブが主に「キャラクター推し」のようなものに比重が寄っていたり、
また、バトルシーンを見せるなどの「システム推し」のクリエイティブも、バトルシーンの断面を紹介するのみで「具体的に何をするゲームなのか」を説明していたわけではありませんでした。

なので、やったことは非常に単純で、
「ゲーム内容を”通し”で紹介する動画を作った」
という、ただそれだけです。
(メイン施策という意味なので、実際には他の施策もやっていますが)

つまり、キャラクターの魅力やバトルの面白さ、育成システムなどゲームの主要な要素すべてを紹介する動画を作ったということです。

ただそれだけ?と思われるかもしれませんが、それだけです。

その動画を入稿したことで、上記①のような「ゲームを知ってるけど、内容を理解してなくて、インストールまで至らない人」の反応が得られたと思われ、
前述のような出稿量倍増につながったのだと思われます。

【難しいことは言わないから、いったん顧客のことを考えようぜという提案】

上記の事例は、マーケティングの成功事例と言うにはあまりにも基本的というか、魅力のないような話にも思えます。
そもそも、見込み顧客像については、定量調査どころか想像の範囲でしか考えていません。
実行した施策内容も、極めて地味です。

ただ、地味でもなんでも、成果は出ています。

出稿量が倍増するということは、中長期でみたとき、今後獲得したユーザーによる売上が倍増するということです。

最初に紹介したように、モバイルゲームの事業構造はストック型ビジネスであるため、回収できる範囲内で打った広告は、継続的に利益を生んでくれます。
仮に1年間の広告回収率が200%だった場合、月の広告出稿額が3千万円増えたなら、年間の利益が3.6億円増えるわけです。

それだけではありません。

これくらいの余剰利益が生まれたなら、大規模なプロモーションを検討することが可能になります。
月の利益が3千万円くらい底上げされたなら、半年後にはTVCMを実施してもよいくらいの利益(1.8億円)が溜まります。

つまり、”顧客をちゃんと見ようとするかどうか”というシンプルな部分で、
事業が縮小していく一方なのか、それともTVCMを通じてさらに拡大していくのか…という、まったく違う運命に分かれていくというわけです。

これは全く大げさな話ではなく、実体験でも何度も経験したことです。
顧客を見ようと決めてからデジタル広告の効果が伸び続け、事業が黒字化したり億単位の利益が生まれたりといったことは、普通にある話です。

こんなにも成果が変わるということがわかれば、
数字とか広告の話は後回しにして、いったん顧客の話をしてみようぜ、という気持ちになってきませんか?

繰り返しになりますが、数字の管理やクリエイティブの大量制作を否定しているわけではなく、非常に重要な業務だと認識しています。

ただ、そこで顧客を見るという視点が欠落していると、将来的にそこに待っているのはデスマーチでしかないということです。

逆に言えば、今回の事例としても紹介したように、
ちゃんと顧客のことを考えようという意識さえあれば、成果は大きく変わってくるわけです。

この考えが、デジタル広告に関わるすべての人に広く浸透すれば、もっと幸せな世界が待っていると思うのです。

デジタル広告のAI化やデータ活用といった分野は、今後もどんどん発展していくと思いますが、
どれだけAIやデータ活用が高度化していこうとも、向き合うべきは広告ではなく、その先にいる顧客です。

デジタル広告の現場にいると、こういう視点に気づく機会が少なかったり、最悪の場合は「デジタルにおいては顧客よりデータが重要」といったような誤った考えに陥ってしまうことすらあります。

この記事を読んだ人が、これまでに無かった視点に少しでも気づいてもらえるなら、喜ばしいことだと思って書いてみました。

今回は以上です。

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三浦 慶介 | 事業グロースのひと
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