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「リアルに活路」は本当か?~メルカリの戦略発表会を顧客起点で考察してみる

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メルカリ社が2月20日に初めての戦略発表会を開催したようです。

〇プレスリリース
メルカリ、初の事業戦略発表会 「Mercari Conference 2020」を開催

〇早速、日経新聞が記事にしていました(有料記事)
メルカリ、リアルに活路 初の実店舗展開

先に日経の記事を読んだあとに、冒頭のプレスリリースを読んだのですが、
どうも、日経新聞の「リアルに活路」という言葉に違和感がありまして、一応マーケティングを生業にしている身として、
事業者視点からこの戦略を読み解いてみたいと思いました。

※本記事はマーケティング考察のトレーニングの一環としてまとめているものであり、内容の正確性は保証しません

【現状整理:フリマアプリのポジショニングマップ】

フリマアプリの戦いは激化しているのは周知のとおりですが、簡単に「手数料」と「利便性」の面でざっくりとポジショニングマップを作りました。

※キャッチコピーのセンスのなさはこのさい無視しましょう

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はなはだ簡単な図で恐縮ですが、直近のポジショニングは上記のようになるかなと認識しています。
利便性というのはUIだけではなく、出品における配送拠点の多さなど、全体のUXのことを指しています。

・メルカリ:圧倒的なユーザーベースと先行者ブランドはあるが、UI/UXは同質化が進んでいる
・PayPayフリマ:UI/UXはメルカリを模倣し、資金力を背景にしたキャンペーン(手数料3%)で一気にユーザーベースを拡大しにきている
ラクマ:手数料3.5%という安さを武器に、楽天経済圏からユーザー拡大

あまりちゃんと調べていないですが、日経の記事と、ユーザーの評判など聞く限り、ざっくりこういう状況かと思います。
※日本国内に限定しています

で、この図に基づくと、現在のメルカリはいわば「老舗ブランド」のような立ち位置になっており、後発のPayPayフリマやラクマとの差別化がしづらく、新規ユーザーの開拓が難しくなってきている状況だと推測できます。

【メルカリの戦略発表会にみるポジショニング意図】

さて、ここで戦略発表会で発表された取り組みについて簡単にまとめてみます。

①マルイを皮切りにした、リアル店舗連携による出品強化
②「あとよろメルカリ便」による利便性の拡張
③無人で発送可能な「メルカリポスト」設置
④外部データ連携による出品の利便性確保と、顧客・商品分析精度の向上

簡単にまとめると、上記の4点になると思います。
※外部データ連携については外部事業者のメリットも記載されていますが、本筋から外れるのでここでは省略します

これらのほとんどは、出品者の「利便性」の強化につながっていることがわかります。
個人的にも、「あとよろメルカリ便」があるなら、過去2回しか出品したことないけどもうちょっと使おうかな…という気はしてきます(保管期限とか気になるけど)。

ということは、以下のようなポジショニングに変えていく狙いということかと思います。

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要するに、手数料の勝負にはのらず、利便性をひたすら高めることで独自ポジションを築いていこうという戦略だと読み取りました。

実際のところ、四半期で約1,500億円規模の流通があるメルカリが10%の手数料を1%値引いたら、それだけでQ15億円、年60億円の減益になるわけなので、何がなんでも手数料を下げるというストーリーは避けたいところかと思います。
(ていうか改めて見ると、メルカリさんマジパネエっす…)

【顧客セグメントからみる、各打ち手の狙いの考察】

メルカリ社の意図を推測したところで、各打ち手が果たして本当に有効なのか?
ということを顧客起点で考察してみたいと思います。

顧客起点ということであれば、ここはやはり西口さんの『顧客起点マーケティング』の9セグマップをかりて説明するのがわかりやすいかと思いました。

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※出典:https://www.shoeisha.co.jp/book/campaign/kokyaku

この9セグマップにしたがって現状を整理すると、下の図のようになるかなと推測しています。

■メルカリ顧客の9セグマップ

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正直やや適当に考えた部分はあるのですが、フリマ市場の拡大にともない「未認知」以外の各セグメントは引き続き増加しているのは当然あると思います。
その中でもおそらくは

・「2.消極ロイヤル顧客」「4.消極一般顧客」「6.消極離反顧客」の比率の増加
・「3.積極一般顧客」から「5.積極離反顧客」に移る人の増加

といった傾向が起きているのではないかと思います。

もっとかみ砕いて言えば、

・メルカリ以外にフリマアプリで有名なものがないから使っていたが、より安い手数料のサービスが出たから乗り換える人が増えた
・メルカリは便利だから使い続けているが、とはいえ手数料の魅力には勝てず他のサービスに乗り換える人が増えた

という傾向になっているのではないでしょうか。

その状況を受けて、打開策を打ち出してきたのが今回の戦略発表会かと思われます。
今回発表された打ち手に基づくと、顧客セグメントを以下のように動かしたいという意図があるかと推察します。

■今回の打ち手の効果を顧客セグメント別に整理

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つまるところ、「利便性の強化」によって、それぞれのセグメントを右上に近づけていこうということですね。

これはざっくりと推察しただけなので、実際はもっと細かな顧客セグメントに基づいた施策チューニングが行われていると思います。

【それぞれの打ち手は機能するのか?という考察】

さて、狙いは推測できたとして、何よりも大事なのは「各打ち手がどこまで有効にはたらくのか?」ということだと思います。

例えばメルカリポストの設置は便利で面白いですが、コストとか大丈夫なの?ということなどです。
一つずつ見ていきたいと思います。

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■ワンストップで出品が可能なリアル店舗の展開
〇概要:リアル店舗でメルカリの使い方説明から、撮影・梱包・発送が可能

考察:新宿マルイ本館に第1号店を出店するということで、「メルカリのリアル接点が増え、新規ユーザーも増加し、かつ出品者が来店するので商業施設にもメリットがある」が狙いのようです。
これ、ブランディング・PR目的があるにせよ本当にペイするの?が率直な感想です。

敷地面積や規模、利益率など前提条件がありすぎて一概には言えないですが、商業施設のテナントであればおおよそ月間200万円くらいの粗利がないと赤字になります(人件費等込み)。
新宿マルイ本館ということなら、多少手狭であっても上記を下ることはない気がします。

今回のケースだと教室の運営スタッフもいるでしょうし、初期の店舗設営にもなかなかの金額がかかっていそうです。
メルカリポストを設置ということで、そのコストもありますね。
月300万円くらいの利益貢献効果がないと、さすがに厳しいのかなというイメージはあります。

月300万円の利益貢献ということは、手数料10%なので、月間の流通総額でいうと3,000万円が必要ということになります。

既存ユーザーが店舗に来店して出品したとして、その売上額をすべて店舗のものとしてカウントするのは無理があると思うので、
まあざっくり、毎月2,000万円くらいの流通総額を新規顧客が作ってくれないと困るなあ、という感じでしょうか。

回収期間を1年で置いたとして、1年間の顧客1人あたりLTV(流通総額ベース)はどのくらいでしょうか・・・

メルカリの決算資料によると、月間利用者が1,500万人強とのことなので、月間流通額が500憶円くらいとして、月の流通総額は1人あたり3,000円くらいということになります。
ただ、これはメルカリでひたすら転売を繰り返すような業者も含めての数字なので、一般の「不要品をフリマで販売する」というユーザーの場合、
月の流通総額は平均で1,000円くらいなのでは?
と思います(実際は知りません)。

となるとざっくり年1万円強の流通総額ベースLTVということになり、
2,000万円くらい作るには、月に2,000人近い新規ユーザーが店舗から生まれてくれないと困るという計算になります。

リアル店舗で継続的に、毎日60人~70人が新規ユーザーになる・・・ちょっと想像がつかないです。
そもそも来店してまでメルカリの使い方を勉強したいという人のLTVが高いか低いかも未知数な気はします。

まあここまで厳密なROIを計算する必要はないですし、PR効果としてはもっと良い取り組みと言える可能性はあるのですが、
とはいえリアル店舗を出店するほど赤字が増える仕組みだったとすると、店舗数はあまり増やせないですし、
継続的な取り組みになるかどうかは現時点だと疑問です。

※マルイとの業務提携により賃料が優遇されてるとかは勿論ありえると思いますが、他施設への展開ができるかというと?
※店舗自体のマネタイズ手段を新たに作るという手段も、もちろん今後あるかも

※(追記)割とコストを多めに見積もっているので、スペースが思ったより狭く、平日ワンオペとかであれば全然もっと安く運営できるとは思います。従業員2名+家賃と減価償却費で月150万弱など

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■面倒な梱包・発送を任せられる「あとよろメルカリ便」
〇概要:とりあえず提携倉庫に商品を送れば、落札された商品を勝手に梱包・送付してくれる

考察:これは良さそうな気がします。面倒くさくてメルカリを使っていない自分のような身からすると、かなり魅力的に聞こえます。
すでにメルカリをよく利用する層ももちろんのこと、5や7の積極離反や未購買の層には特に刺さるのではないでしょうか。

懸念は提携倉庫の設置によるコスト増、梱包や発送によるコスト増です。

これは予想ですが、出品者の売上から手数料をとるような仕組みにするのではないでしょうか。
(でないとみんなこっち使うのでコストだけ増え続ける)

ただでさえラクマ等の安い手数料サービスがあるのに…という意見もあるかもしれませんが、
この場合のターゲットインサイトは「面倒くさいことがなければ使いたい。儲けが出るかはそんなに気にしないし、粗大ごみ料かかるよりずっといい」とかだと思います。
おそらく、このくらいは事前に調査しているんじゃないでしょうか。

他に懸念があるとすると、提携倉庫側のオペレーションですね。
梱包が丁寧になってなくてクレームになるとか、商品の破損とか、
一定期間を経過しても売れない商品の保管・返送コストとか、そのあたりがオペレーションとして成立するかどうかです。

そこがクリアになっているなら、新たな利用層を取り込めそうな気がします。

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■「メルカリポスト」設置
〇概要:メルカリ専用ポストをドコモショップなどに設置。ヤマトが集荷

考察:少なくともユーザーにはメリットしかないので良さそうな気はします。設置先もドコモショップやマルイなど提携店舗なので、無料バーターで設置とかじゃないかなって気がします。

ポストのメンテナンスやそもそもの開発費・製造費はかかりますが、それがどのくらいの費用なのかですね。
現状のユーザー数を考慮すると、あまり気にしなくともペイするような施策に感じます。

書き疲れてきたので、そろそろコメントが適当になっていきます。

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■各種一次流通とのデータ連携
〇概要:アパレルEC等とデータ連携し、相互送客や出品時の利便性につなげる(提携先にはデータ分析等の便宜をはかる)

考察:アパレルの提携先がアダストリア、パル、ベイクルーズといった本丸をいきなり攻めているあたりに本気度を感じます。
マルイウェブチャネルも年間200億だか300億の売上があった記憶がありますが(間違ってたらごめんなさい)、
そのあたりを集約して年500億円?とかの購買の一次データをとらえるということは、
そのうちの10%がフリマ出品され、10%を手数料でもらえるなら年5億円の粗利増
になります。
もちろん今後はもっと提携先が増えると思います。

懸念があるとすると、提携先側のメリットでしょうか。
メルカリポストやメルカリ内の購買データを分析できるとか、リアル店舗・ECへの送客が期待できるということですが、
本当にそんなことがあるのかな?という気はします。

新作ファッションがメルカリで新品未使用で販売されているのを見つけた場合の顧客行動は、当然メルカリで安く購入するという流れになると思います。
そこでベイクルーズの店舗やECに送客する流れになるのかというと・・・ちょっと限定的じゃないかという気はします。
これがZOZOTOWNだったら理解できるのですが。

となると、この提携がいつまで続くのかは、提携先企業のメリット次第ということになります。
このあたりは実際に始まってみないと、ちょっと予測しづらいところです。

※ドコモポイントとの提携については考察を割愛します

【まとめ:「リアルに活路」という言い方は正しいのか?】

ここまで見てきた内容をまとめると、以下になります。

・競合サービスとの競争激化が進んでいる
・「利便性の強化」で独自ポジションを築く戦略をとった
・そのためにリアル店舗やポスト、データ連携などの打ち手を次々に出してきた
・それらは一定以上の効果を上げそうなものもある

こうしてみてみると、「リアルであるかどうか」というのはあんまり関係ない気がします。

むしろデータ連携まわりの話でいうと、オンライン完結する部分がほとんどですし、「あとよろメルカリ便」などもリアルという言い方はちょっと微妙です。

これが記事の見出しで「リアルに活路」と書かれていたことで、弊社内でも「メルカリ、リアルやるんだってよ」という会話で盛り上がってたりしました。

しかし冷静にマーケティング分析してみると、別にリアル店舗の取り組みがどうなろうが、売上利益のインパクトはあまり無い気はします。
これが全国のイオンに展開…とかになるとインパクトがありそうですが、ちょっと事業的に無理がありそうには思いますし。

顧客起点で考えてみると、本丸は「利便性の向上」であり、インサイトとしての「めんどくささ」の解消にあると思われます。
それによって消極化した顧客を積極化し、また継続利用顧客のロイヤル化を進めることで、
さらなるユーザー数増加と、1人あたり出品総額を増やしていくという戦略ではないでしょうか。

注目企業の戦略発表ということで、ちゃんと自分なりに考察してみることの重要性を発信したく、ちょっと普段よりエネルギーを使って記事をまとめてみました。

今後も、機会があれば色んな企業の戦略について考察してみたいと思います。

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三浦 慶介 | 事業グロースのひと
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