日本の統計を見てみよう!(「統計の役割を考える」経セミe-bookより)
突然ですが、「統計不正問題」をご記憶でしょうか? 厚生労働省が実施する「毎月勤労統計」が、定められた方法で調査が行われていなかったことが発端となって、国会でも激論となり、連日一般のニュースでも大きく取り上げられ、大問題となりました。2019年の前半から、さまざまな問題が発覚し、政府の統計委員会などでもさまざまな検討がなされました。
『経セミ』でも、これは何かやらねば!と感じて、2019年6・7月号に「統計の役割を考える」と題した特集を組みました。当時の統計委員会委員長の西村清彦先生をはじめ、以下のようなラインナップで多面的に解説いただきました。
統計データは、なぜ重要なのか? 社会や経済の多様な状態や動きを描き出し、政策・研究でも活用されてきた統計の役割を、さまざまな問題が指摘される今こそ、改めて考えたい。
【対談】統計が果たすべき役割と改善への道筋……北村行伸×重岡仁
【インタビュー】統計問題の本質……西村清彦
家計・消費統計と経済学……宇南山卓
企業行動と経済統計……宮川努
労働統計と経済学……山本勲
GDP統計と経済学……小巻泰之
物価統計における民間データの活用……渡辺努
日本の統計の質はどう評価できるのか?:経済学研究者の視点から……川口大司
現在は、「経セミe-book no.8 統計の役割を考える」として、ご覧頂くことができます!
統計不正問題については、上の『経セミ』にもご寄稿頂いた川口大司先生(東大教授)の以下のコラムも参考になりますので、ぜひご覧ください!
経セミ編集部では、以前にこの特集の各記事で言及された統計等をまとめてリストアップしていました(網羅的なものではなく、本誌で紹介されたものに限っています)。そこで、このnoteであらためて、そのリストを公開したいと思います。統計を探す際などに、ぜひご参考としていただけたら幸いです。
■ご留意点
政府統計は調査主体ごとに、ほか民間パネル調査、海外の調査、GDP、物価統計、生産性データベース、企業財務情報等、その他の順に、各項目内は50音順で並んでいます。
すべて、統計名・サイト名の部分にリンクが貼ってありますので、ぜひご利用ください。
それぞれ簡単な紹介文を付けていますが、詳細は必ず提供元の説明をご覧ください。
なお、政府統計は「e-Stat」でまとめられていて、検索してダウンロードしたり、ホームページ内で閲覧等ができるようになっています。
「e-Stat」が膨大過ぎる!という場合、簡易的に主な統計を確認できる「統計ダッシュボード」(総務省統計局提供)も便利です!
それでは次から、統計の紹介とリンク先の列挙に移ります!
■厚生労働省による調査
公共職業安定所における求人、求職、就職の状況(新規学卒者を除く)を把握し、有効求人倍率等の指標を作成することを目的に行われる。
病院および診療所を利用する患者対する、傷病の状況等の実態調査。病院への入院は二次医療圏別、病院の外来および診療所は都道府県別に層化無作為抽出した医療施設を利用した患者を調査対象としている。
約13万人の所得等を3年ごとに、保健、医療、福祉、年金、所得等国民生活の基礎的事項を調査。中間の年には簡易調査を実施している。
5人以上の事業所や労働者を対象に、入職・離職などを毎年調査。主要産業における入職・離職および未充足求人の状況や、入職者・離職者別の属性および入職・離職に関する事情を把握している。
労働関係の各種制度などを企業に毎年調査している。主要産業における企業の労働時間制度、賃金制度等について総合的に調査し、民間企業における就労条件の現状を把握している。
5人以上の事業所を対象に、賃金構造を毎年6月に調査。主要産業に雇用される労働者について、その賃金の実態を労働者の雇用形態、就業形態、職種、性、年齢、学歴、勤続年数、経験年数別等を把握している。
5人以上の事業所を対象に、雇用者数や賃金などを毎月調査。雇用、給与および労働時間について、全国および都道府県別の変動を毎月明らかにすることを目的としている。
厚生労働省「21世紀出生児縦断調査(平成13年出生児)」
文部科学省「21世紀出生児縦断調査(平成13年出生児)」
厚生労働省「21世紀出生児縦断調査(平成22年出生児)」
生後毎年、発達状態や家庭環境、両親の就業状態などを追跡調査している。2001年を調査初年とする調査(平成13年出生児)と、2010年を初年とする調査(平成22年出生児)がある。平成13年出生児調査は、子どもの成長に伴い2017年(第16回調査)から文部科学省に移管された。
厚生労働省「21世紀成年者縦断調査(平成14年成年者、平成24年成年者)」
調査対象の男女の結婚、出産、就業等の実態や意識の経年変化の状況を、同一対象者に対して継続的に行う調査。2002(平成14)年を初年とする調査と、2012(平成24)年を初年とする調査がある。労働者のパネルデータが利用可能な公的統計。
団塊の世代を含む全国の中高年者世代の男女を追跡調査し、その健康・就業・社会活動について、意識面・事実面の変化の過程、行動の変化や事象間の関連性等を継続的に把握するための調査。2005(平成17)年度を初年として実施。労働者のパネルデータが利用可能な公的統計。
■経済産業省による調査
約4万事業所(従業者50人以上かつ資本金額または出資金額3000万円以上)を対象に、年次で行われる調査。対象業種は、製造業のほか、鉱業、卸売・小売業、飲食店等。「工業統計調査」とともに、企業名を伏せた個票データを用いて、各企業の生産性を計算し、生産性の高い企業の特徴や、生産性を高める要因などの分析に利用される(宮川努「企業行動と経済統計」『経済セミナー』2019年6・7月号)。
日本標準産業分類の「大分類E‐製造業」に属する4人以上の事業所(国に属する事業所を除く)、約20万(2017年)事業所対象に、工業の実態を明らかにするために年次で実施。「経済センサス-活動調査」の中間における経済構造統計を作成にも利用される。
約1万4000事業所を対象に、鉱工業生産の動態を明らかにするために月次で行われる調査。「生産・出荷・在庫指数」のベースになっている。
■総務省による調査
約9000世帯を対象に、物価の変動等をリアルタイムに把握するために、家計の収入・支出、貯蓄・負債などを毎月調査。景気動向の把握や消費者物価指数(CPI)の品目選定およびウェイトの作成等に利用されている。調査対象者は、詳細な家計簿を6カ月にわたって記録する。対象者は政令指定都市と県庁所在地を中心とした都市部が中心。
約3万世帯を対象に、購入頻度の少ない高額消費やIT関連消費についてを毎月調査。家計調査では、耐久財などの高額消費関する家計簿の記入漏れが発生しやすいため、本調査を用いて調査結果の補正を行うことが有効とされている(宇南山卓「家計・消費統計と経済学」『経済セミナー』2019年6・7月号)。
5年ごとに実施する「経済センサス-活動調査」の中間年の実態を把握するために毎年実施。2019年から開始され、サービス産業動向調査(総務省)、商業統計調査(経済産業省)、特定サービス産業実態調査(経済産業省)を統合・再編し、製造業やサービス産業の実態を明らかにするとともに、国民経済計算(GDP統計)の精度向上に貢献することが目的。
総務省統計局「事業所母集団データベース(ビジネスレジスター)」
経済センサスなどの各統計調査の結果と行政記録情報(労働保険情報、商業・法人登記情報等)を統合し、経常的に更新を行い、全ての事業所・企業情報を捕捉し、最新の情報を保持するデータベース。国や地方公共団体において、経済統計を正確に作成するための名簿情報の提供及び管理のための重要なインフラ。
約20万人の時間配分などを5年ごとに調査している。生活時間の配分や自由時間における主な活動を把握している。
約108万人の就業構造を5年ごとに調査している。全国および地域別の就業構造を把握している。
約5万5000世帯を対象に、家計の収入・支出及び貯蓄・負債、耐久消費財、住宅・宅地などの家計資産を5年に1度調査。全国および地域別、世帯属性別に世帯の消費・所得・資産に係る水準、構造、分布などの実態把握に利用されている。調査対象は全国の市町村を幅広く網羅しており、「家計調査」では十分にカバーできないマイノリティの経済活動や地域差が把握される。2019年調査より「全国家計構造調査」となる。変更の経緯や概要は、以下の川口大司「消費統計の精度向上に向けて――総務省統計局・統計研究研修所との共同研究」(CREPEコラム)を参照。
約10万人の就業・非就業の状態などを調査している。毎月の調査結果を基本集計、四半期ごとのより詳しい調査結果を詳細集計として公表。
■内閣府による調査
機械等製造業者の受注する設備用機械類の受注状況を捉え、設備投資動向を早期に把握するために実施される目的とする調査。機械等を製造する企業のうち主要なものを対象(調査を開始した1987年4月における280社ベース。調査対象企業は基本的に固定)。受注実績は毎月、見通し調査は毎四半期実施。
生産、雇用などの経済活動における重要かつ景気に敏感に反応する指標の動きを統合することで、景気の現状把握および将来予測に資するために作成された指標。
■財務省による調査
法人の企業活動の実態把握と、ならびに法人を対象とする各種統計調査のための基礎となる法人名簿整備のために実施される調査。報告は四半期および年次。営利法人等を対象とする標本調査(四半期別調査は資本金等1000万円以上。2017年度の標本法人数は約4万)。
■民間のパネル調査
大阪大学社会経済研究所「くらしの好みと満足度についてのアンケート」
2003年から2013年の1~2月に毎年実施された調査。対象者は各年で個人が追跡できる形でパネルデータが整備されている。2016年にも80%の規模であるが再度実施された。個人・世帯の基本属性や家計・消費等に関する基本的項目に加え、リスク回避度や将来・現在の優先度(時間選好率)など、個人の選好を調査する質問項目まで含まれている。
慶應義塾大学パネルデータ設計・解析センター「日本家計パネル調査(JHPS/KHPS)」
全国を代表するサンプルに基づき、2004年から実施されている調査。就業行動や貧困動態、実物資産の世帯間移転の実態など、多岐にわたる分析トピックを網羅している。同センターはパネルデータを専門的に取り扱う研究教育機関であり、さまざまな調査の設計・運営や自身の研究教育活動に加え、研究目的でのパネルデータの提供なども行っている。
慶應義塾大学パネルデータ設計・解析センター「消費生活のためのパネル調査(JPSC)」(家計経済研究所のホームページ)
若年女性の生活実態を、収入・支出・貯蓄、就業行動、家族関係などの諸側面を明らかにする目的で、1993年を初年として、24~34歳の若年層の女性を全国規模で抽出し、複数時点で同一個人を追跡調査している。調査対象者の追加も随時行われている。2017年12月の家計経済研究所の解散に伴い、慶應義塾大学パネルデータ設計・解析センターに移管された。
東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センター「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査(若年・壮年パネル調査)」
同一個人に対する追跡調査。就業形態、仕事内容、職場の状況などの働き方、交際・結婚・出産といった家族の形成に関わる状態、人びとの意識や態度についての変容を捉えるために実施している。2007年より、20~34歳の若年と35~40歳の壮年を毎年調査しており(継続サンプル)、2011年には同年齢の対象者を補充(追加サンプル)。
RIETIほか「くらしと健康の調査(JSTAR: Japanese Study of Aging and Retirement)」
経済産業研究所(RIETI)、一橋大学、東京大学(第2回調査より参加)が協力して2007年から実施する、50歳以上の中高齢者を対象としたパネル調査。
■海外の調査
ミネソタ大学と各国の統計局やさまざまな国際機関が共同で運営するプロジェクト。現在100以上の国々が参加し、各国のセンサスからサンプリングされたデータを統一的に利用しやすい形で提供している(一橋大学経済研究所のホームページでの紹介)。
ミシガン大学「Health and Retirement Study(HRS)」
1990年から行われている、高齢者を対象に健康面や社会経済状態を調べたパネル調査。
ミシガン大学「Panel Study of Income Dynamics(PSID)」
同大学の社会調査研究所が1968年から継続して実施している家計パネル調査。
■GDP統計
同ウェブサイトにて、四半期速報および年次推計などの各種データや解説が提供されている。
■物価統計
株式会社ナウキャスト「日経CPINow」(旧・東大日次物価指数ホームページ)
■生産性データベース
長期にわたる日本の経済成長の詳細を描写した産業別生産性統計(KLEMSデータ)データベース。2018年2月時点では、産業別生産、労働・資本投入ともに1955-2015年の60年間をカバー。
日本の経済成長と産業構造変化を分析するための基礎資料。各部門別に全要素生産性(TFP)を推計するために、資本サービス投入指数と資本コスト、労働投入指数と労働コスト、名目・実質の生産・中間投入、TFPの上昇率を計算した成長会計の結果等を網羅した年次データから構成される。2019年5月現在の最新版はJIPデータベース2018(2019年4月公表)。
EU KLEMS Project「EU KLEMSデータベース」
オランダのフローニンゲン大学のチームが中心となってEU主要国、米国、韓国等について産業別に全要素生産性の推計を行ってきたデータベース。
■企業財務情報等
日本政策投資銀行「企業財務データバンク(DBJデータバンク)」
日本政策投資銀行が蓄積してきた上場企業の有価証券報告書における決算データのデータベース。
日経NEEDS「NEEDS Financial QUEST」
日経NEEDS収録の企業財務、株式・債券、マクロ経済、産業統計などの経済データをインターネット経由で取得できるデータ検索サービス。
■その他
公的統計に関する「統計法」の解説(総務省「統計法について」)
経済センサスなど企業サイドの統計を利用し、総務省が中心となって作成する、産業間の生産物の取引を記録した加工統計。最新版は2011年産業連関表で、産出分類が397部門、投入分類が518部門。
全国の企業動向を把握するために実施される。四半期ごとに、全国の約1万社の企業が対象。企業の業況や経済環境の現状・先行きにに関する判断、売上高、収益、設備投資額、雇用人員、資金繰り、金融機関の貸出態度など計画の実績、予測値を調査している。
一橋大学経済研究所附属社会科学統計情報研究センター「農家経済調査データベース」
「農家経済調査」とは、帝国農会、農商務省、農林省によって1913年から実施された、農家の経営・経済活動についての統計調査であり、一橋大学で整備が進められ、2019年5月現在、1931~1941年について、資料の個票からパネルデータを構築。同センターでは公的統計の利用促進支援や公的統計の「独自集計」、「長期経済統計」のデータベース整備等々を行っている。
株式会社JMDC「JMDC Claims Database」
累積で約300万人もの、保険者から寄せられた加入者台帳、医療レセプト、健診のデータが記録されたデータベース。加入者ごとに個人のID番号が付与されていて、転院や複数施設受診があっても追跡が可能。また医療費支払い額以外に、加入者の性別、年齢、所得、学歴など、個人の特徴を示すデータも含まれている。