新入編集部員の日記 #8 「校正・校閲(2)」
前回(#7)はこちら!
■「絶対的な間違い」は意外と少ない
前回の記事にも書きましたが、当初、校正・校閲=間違いを正すものという認識を持っていました。
しかし実際にゲラを読んでみると、「明らかにこれは間違っている」と言えるものは思っていた以上に少ないのです。明らかな間違いと判断できるものは
誤字や脱字
英単語のスペルミス
人名や固有名詞の表記の誤り
くらいでしょうか。
今挙げたもの以外について、本当にそれが「間違い」「修正すべき箇所」なのかを判断するのは一筋縄ではいかないなと日々感じます。
例えば、「子供」という言葉について(私は教育に関する研究をしていたので、この言葉の使い方は気になってしまいます)。
この言葉に出会ったときはいつも、いろいろな選択肢が頭の中に浮かびます。
まず、表記だけで「子供」「子ども」「こども」の3パターンがあります(場合によっては「コドモ」もあり得るでしょう)。
文部科学省は公用文書では「子供」を使うことにしています。ですが、法律の名称や条文などには「子ども」という表記が使われています(「子どもの権利条約」など)。はたまた、2023年4月に発足した省庁は「こども家庭庁」です。「児童」や「生徒」という言葉に置き換えることも考えられるでしょう。
どれが正しいということはありません。
つまり、表記・表現の方針について著者と合意を取り、その本に合った表現を選んできちんと統一することが大切だということを知りました。
あくまで編集者・校正者は伴走者であって、校正・校閲を行いコンテンツの質を共に高めていくことと文章の粗探しをすることは似て非なるものだということを、ゲラから教えてもらった気がします。
■赤字は人を傷つける?
時間をかけて一生懸命書いた文章が赤字だらけになって返ってきた時、皆さんはどのように感じるでしょうか?
受け取り方は人それぞれですが、「赤字を入れられた=自分の文章が否定された」と受け取る人が結構いるということを頭の片隅に入れておく必要があります。これは先輩社員Mさんからの助言です。
このアドバイスをもらった時、ハッ…と思いました。赤字を入れる側の時は気づかないですが、確かに自分の文章が赤字で訂正されていたら(特に考え抜いた文章であればあるほど)自分の表現がダメだと言われている気分になります。
実際、私より先輩の編集者の方々の仕事を見ていると、「勝手に文章に手を加えること」に対してかなり慎重です。たとえ、たった1つの単語であっても、著者に直接変更の打診をしています。
■自分の好みを押しつけない
ゲラを読んでいると、心の中で「ここの表現は自分はこうしたほうがいいと思うけどなあ〜」と思ってしまう箇所が際限なく出てきます。
ですが、冒頭で挙げたような明らかなミス以外の指摘は、文章に対する自分の好みを押しつけていることと同じだと考えるようにしています。
私はシンプルな文章を好みます。具体的には
一文が短い
主語と述語の対応がはっきりしていて、両者の距離が近い
過度に受動態を使わない
熟語を列挙せず書き下す(例:施策の方針変更の必要性に関する議論を実施する→施策の方針を変更する必要があるかどうか議論する)
などの点を踏まえた文章の方が、認知負荷が低く読者にとって読みやすいと感じます。
しかし、これらのポイントはあくまで「このような文章が良い文章だ」という私の個人的な信念にすぎません。
では、編集者としての意見を伝えるにはどうすれば良いのでしょうか?
こういう時は、赤ペンを手に取るのをグッとこらえて、シャープペンシル(鉛筆)で編集者としての意見や提案を書きます。赤ペンよりもシャープペンシルで書くことのほうが多いくらいです(あくまでSの体感です)。
これが、前回私が「鉛筆・シャープペンシルは赤ペンと同等に偉大な存在」だと言った理由です。
実際、赤字よりもゲラの余白にシャープペンシルで書かれたメモに編集者の本音や心に秘めている思いが隠されているのではないかと思います。
また、ゲラに文字として現れている指摘は氷山の一角です。ゲラには書かなかったものの議論・検討の結果元の表現のままにした、ということは山のようにあります。
■おわりに
ゲラを読む経験を積んでいく中で、文章には必ず著者の「クセ」があることを学びました。
著者の年齢・職業などの属性や著者の性格が必ず表れます。そして、それらは著作物の「オリジナリティ」を構成する大切な要素の一つだと感じます。
編集者の個人的な趣味を押しつけると、結局どの本も同じような文章になってしまいます。詰まるところ、編集者は受け身にならざるを得ないことの方が多いのかな、と今は思っています。
もう少し経験を積んだら、ゲラを読むことに対する考え方がまた変わってくるかもしれません。いつかまた、同じようなテーマで記事を書けたらいいなと思います。
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