新入編集部員の日記 #4 「付き物(2)」
【注】新入社員によるエッセイ的な文章です。出版に関する専門用語等の使い方等が正確でない部分があるかもしれません。ご承知おきください。
※前回の記事(#3)はこちら!↓
■『新版 経営戦略の経済学』
そのテキストとは『新版 経営戦略の経済学』です。
本書初版は産業組織論・企業の戦略論の定番テキストとして定評をいただいていました。初版刊行は2004年で、20年近く経った今、内容やデザインを一新してグレードアップしたものを出すことになりました。
私の個人的な感想ですが、経営学的な考え方をあくまで経済学の言葉に「翻訳」してくれるのがこの本の大変ありがたいポイントです。
私を含め経済学を学んできた人の中には、「ファイブ・フォース分析」や「マーケティングにおける4つのP」などに代表される経営学の枠組みがいまいちよくわからないという方もいるのではないでしょうか。私は学部生の頃授業で習いましたが正直あまりピンときていませんでした。経済学的な考え方に立脚した説明を受けてなかったからです。
この本は、経営戦略における考え方、つまり企業の意思決定のプロセスを、主に産業組織論的な観点から説明してくれます。事例(ショートケース)が豊富なので、抽象的な議論を聞いただけで「わかった気になる」ということも少ないです。
また、プラットフォームと企業間の競争についての考察が加えられたり、事例のほとんどを新しい出来事に差し替えるなど、初版の良さはそのままに、時代に合わせてアップデートされています。
■索引はめっちゃ人の手で作っている
さて、索引の話に戻ります。
私は『新版 経営戦略の経済学』の索引の作成を手伝うことになりました。
でも、索引はどうやって作るのでしょう?本の中の重要単語をたくさんリストアップしてその登場ページを示すのですから、何か上手い方法があるように思えます。
しかし、結論から言うと、索引はゴリゴリに人の手で作られています(コンピュータによる自動的な処理が少なく、紙での作業や手動での入力、目視での確認が多いという意味合い)。
この事実は思いのほか知られていません。私もその一人でした。
某 𝕏(旧Twitter)のタイムラインでも「本を書くまで索引が人の手で作られているとは知らなかった」という旨の投稿を見かけました。
※印刷会社によっては索引の作成を自動的に行えるようなマクロなどを開発しているケースもあるようです。しかし、全ての工程を全て自動化するのは難しく、後述するように単語の拾い方などの索引作成のスタンスが著者によって異なるため、現状は古典的(?)な方法が取られていることが多いようです。
■著者によるマーカー引き
そもそもどこのページのどの単語を拾うかは、多くの場合著者や編者が決めています。著者・編者はゲラに全て目を通し直接マーカーで線を引いて拾う語を示します。
ものすごく原始的。こんな骨の折れることをやっているなんて思ってもみませんでした。ですが、これがないと索引の作りようがありません。
■指摘された箇所のページ番号を拾う
先生のマーカーが入ったゲラをもとに、単語と登場ページを1つずつエクセルに入力してリストにしていきます。
この段階ではまだ本文で出てきた順番に並んでいます。
■五十音順に並べる
エクセルの関数を使って、リストを五十音順に並べ替えます。並び替えたら、関数の並び替え結果が実際の読み方できちんと五十音順に並んでいるかチェック・修正します。複数回リストアップされた単語は登場箇所のページを1つにまとめます。
■入れ子などの処理
例えば、「平均処置効果」と「処置群の平均処置効果」という用語が2つピックアップされていた場合、
のように一つの項目にまとめてしまいます。これを入れ子と呼んだりします。
また、RCT, LATE, ATTのような英字による単語の場合は、日本語の索引に飛ぶように誘導します。
■原稿の作成〜入稿
以上の処理を終えたら、印刷会社さんに入稿する原稿の作成と索引のページレイアウトの指定を行います。
いざ、入稿。
■ゲラが出てきたら索引がその通りになっているかチェック
1~3日ほどで「索引のゲラ」が出てきます。これを本文のゲラと突き合わせて、本当に索引がその通りに単語を拾っているかを確認していきます。
ここでは、紙のゲラではなくゲラのPDFデータで単語を一つずつ検索し、ヒットした箇所のページを確かめていきます(個人的にこれが一番時間がかかる)。
※行末で単語が切れたりしていると、検索に引っかからないこともあるので、それも頭に入れながら作業をしていきます。
索引のゲラに赤字で修正を入れたものをまた印刷会社さんに入稿し、新しいゲラを出してもらいます。これでひとまず索引の完成です。
■索引から著者・編者のこだわりやスタンスが見えてくる
ただ、索引に著者や編者の本に対するこだわりやスタンスが現れるのが実は超面白いのです。
ある先生は、拾う語を厳選し、初出の箇所やその単語の定義部分のみしか拾いません。一方、別のある先生は、できる限り拾える語は拾い、その語が出てきた箇所は全てマーカーを引きます。
その結果、索引がシンプルで3〜4ページに収まることもあれば、10ページを超えることもあります。(笑) 後者の場合、その本のキーワードとなる語句は20箇所以上拾われていることもあります(身の回りの書籍の索引をぜひ一度見てみてください)。
その本を教科書や事典のように何度も参照して使えるものにしたいという意図があれば、索引はかなり詳しく膨大なものになります。そうではなく、その本を読み物として位置付けている場合は、索引がシンプルだったり、索引そのものがないことさえあります。
■おわりに
索引がどのように作られているかなんて正直考えたこともないという人がほとんどだと思います。
索引の効率的な作り方を知っている方はSまで電話を1本入れていただけると助かります。
今回登場した『新版 経営戦略の経済学』はこちら↓
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