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【経セミ・読者コメント vol.9】 𡈽肥淳子さま 2024年8・9月号 特集「エビデンスは社会を良くできるのか?」
■ はじめに(編集部より)
経済セミナー編集部です。
今回は、『経済セミナー』2024年8・9月号(特集:「エビデンスは社会を良くできるのか?」)に対して読者の皆様からお寄せいただいたコメントをご紹介します!
毎号、いただいたコメントの中から3~4つほどを選定し『経済セミナー』本誌や経セミnoteでご紹介させていただいております。
※頂戴したコメントは本誌やnoteで公開していないものも含めすべて拝見しております。コメントは今後の企画・制作の参考とさせていただいております。
もちろん、ご執筆者のご了解をいただいたうえで、掲載内容をご相談して進めています(記名でも匿名でもOKとさせていただいております)。
今回は𡈽肥淳子さまによるコメントをご紹介します!
【以下、コメントです👇】
■ 𡈽肥淳子さまによるコメント
特集寄稿:伊芸研吾「エビデンス業界の市場分析」へのコメント
私は一橋大学と帝国データバンクが共同で設立した、「一橋大学経済学研究科帝国データバンク企業・経済高度実証研究センター(TDB-CAREE)」で研究補助員をしています。TDB-CAREEでは帝国データバンクが保有する100万社以上の企業ミクロデータを参加研究者へ提供しており、さまざまな実証研究が行われています。
帝国データバンクとTDB-CAREEは、まさに本記事における「エビデンス」という財の供給者です。
帝国データバンクでは非上場企業のデータも大量に、しかも長期間にわたって保有していることによって、実証研究に新たな切り口や高い精度をもたらすことができており、本記事の定義で言えば「質の高いエビデンス」を提供できているのではないかと思います。
TDB-CAREEの研究者の方からは、特に企業間の取引データや取引銀行データが一定の期間にわたって存在していること、データ量がとにかく多いことで可能になる分析が多いという言葉を聞いています。
国内には約200万社の企業がある中で、上場企業は約4,000社のため、99.7%は非上場企業です。政策効果を分析するためには、この多数を占める非上場企業を無視するわけにはいきません。非上場企業について詳細なミクロデータをまとまって扱えるのは、世界でもあまり例がないそうで、その意味でも貴重なデータなのだと思います。
ただ、留意点として、帝国データバンクは企業信用調査というコアビジネスのためにデータ収集をしているため、収集対象となる企業の偏りなどは存在しています。
また、記事でも指摘されていたように、帝国データバンクに限らない話ですが、大きな市場シェアを持ち「エビデンスの供給者」となりうる企業・組織にとって、データをオープンにするビジネス的なメリットをどのように考えるべきかは課題となります。
IT企業の広報担当としては、こうしたエビデンスに類することとして、過去に顧客企業のITサービス利用動向の分析調査レポートを公表したことがあります。これは自社のサービス利用企業数の実績や、技術動向への知見を公開することで、業界関係者からの認知を高め、信頼を獲得することを目的とした施策でした。統計処理により全体感を伝えるだけのレポートでしたが、公開に際しては特定の顧客やパートナー企業のビジネス状況に影響を与えるものではないという説明や調整が必要でした。
この経験を踏まえると、エビデンスの需要と供給の他に、データ保有と公開に対する社会的なコンテキストも重要という気がします。
特集鼎談:
小倉將信 × 中室牧子 × 杉谷和哉 「政治とEBPMのこれから──エビデンスにどう向き合うべきか?」へのコメント
誌面掲載の順序と逆になりますが、先にコメントした「エビデンス業界の市場分析」や、「”ポスト・エビデンスピラミッド”の歩き方」の記事のように、高い「エビデンスの質」を求める検討がなされている傍らで、一般的にはエビデンスを理解できるだけのリテラシーを持った人の絶対数がまだまだ少ないのだと思っています。
かく言う私も偉そうなことは言えず、社会人10年目以上になって入学したビジネススクールではじめて実証分析の考え方に触れたような状態です。2019年にバナジー、デュフロ、クレマーがノーベル経済学賞を受賞したことを機に、RCT(ランダム化比較試験)が話題となりましたが、この手法の意義を理解するには、サンプルに生じるバイアスや、アウトカムと説明変数の関係性などがまず頭になければいけません。普通の企業勤めでは、なかなか接することのない概念です。マーケティングなどの市場調査を行う機会がある業務でも、よほど力を入れている大手企業でない限り、多くの企業ではクロス集計が実施・理解の限界となっているだろうと思います。
鼎談で語られた、「政策検討の場でEBPMを実装しようとしても、検証のためのデータ収集設計やKPI設定の部分で換骨奪胎が起きてしまう」という課題も、こうしたエビデンス理解のためのリテラシーや前提知識共有が背景にありそうです。
TDB-CAREEでは、研究成果を一般向けに紹介する記事を作成しているのですが、難しいと感じるのは実証分析のプロセスをどの程度具体的に説明するかという点です。安易にかみ砕いて検証内容を丸めてしまうと、研究の限界点はもちろん、研究がアカデミックに貢献した要素を説明しきれずに終わってしまう恐れもあります。
政策内容や結果を広報することがプロパガンダとなってしまうのでは、という懸念にも触れられていましたが、研究成果やエビデンスについてより多くの人に関心を持ってもらい、その限界も含めて理解してもらえる情報発信の仕方は模索したいなと思います。
2024年10・11月号(特集「日本の金融政策を振り返る」)はこちらから!
また、2024年12月・2025年1月号は11/27(水)発売です!
お見逃しなく!
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