需要を制する者はプライシングを制す:連載「実証ビジエコ」第2回より
『経セミ』2021年4・5月号から始まりました連載、「実証・ビジネス・エコノミクス」。
第2回(同年6・7月号掲載)となる今回は、「需要を制する者はプライシングを制す:消費者需要モデルの推定[基礎編1]」と題して、その名の通り、製品単位のデータを活用して、消費者が「どんな製品を、いくらの価格のときに買うのか」という、経済学の基本の1つである消費者の需要を読み解いていきます。
また今回は特に、消費者が市場で出会う商品の品質やブランドがそれぞれ異なる「差別化財」と呼ばれる状況で、消費者がどのように購買行動を行うかに着目しています。キーワードは、「製品間の代替性」「離散選択フレームワーク」「価格の内生性」などです。難解そうなキーワードが並んでいますが、本連載では分析方法やデータの直感的な捉え方からビジネス現場で直面しやすい問題など、背景から丁寧に解説していますので、ぜひトライしてみてください!
このnoteでは、連載第2回のキャッチ部分を紹介するとともに、ウェブ付録へのガイドを記載します。本連載が掲載されているのは、『経済セミナー』2021年6・7月号です(特集は「社会の仕組みを経済学で創る」。こちらもぜひご注目ください ><)。
本連載のサポートサイトは【こちら】:
今回は、「実証ビジネス・エコノミクス株式会社」にコンサルタントとして就職した「あなた」が、「日評自動車株式会社」から自社の自動車の価格設定に関する相談を持ち掛けられるところからお話がスタートします。
唐突な状況設定で恐縮ですが、とにかく第2回の第1節を見てみましょう!
■連載第2回は「ある自動車会社の悩み」から
2021年4月、あなたは経済学を活用したコンサルティング・サービスを提供する、実証ビジネス・エコノミクス株式会社に入社した。そして2カ月間の研修を経て、あなたはこの会社のコンサルティングチームの一員として働くことになった。そんなとき、日評自動車株式会社のマーケティング部門の担当者が相談にやってきた。同社ではマイナーなモデルチェンジにあわせて自動車の値下げを計画しており、実際にどのくらい値下げをするとどのくらい販売が伸びて、最も売上や利益を高めることができるのかについてアドバイスを受けるために来たのだ。
実は相談に来る前に、日評自動車のマーケティング部門では2006年から2016年までの自社製品の価格や仕様(属性)、販売台数(登録台数)が記録されたデータを用いて、自社製品の価格や属性とその販売台数の関係を知るために、以下のような需要関数を考えて回帰分析を行ったという。
この式における価格p_jの係数a_1は、自社製品の価格を1%上げたときに自社製品の売上台数 q_jが何%減少するかを表す数字(これは自己価格弾力性と呼ばれる)として解釈しうるものだ。分析では、自動車の属性として自動車のサイズ size_j、燃費fuelefficiency_j、そして馬力の重量に対する比率hppw_jを説明変数として入れることで、自動車の品質が売上台数に与える影響がコントロールされている。なおu_jは誤差項である。
回帰分析からa_1の推定値は1.25となり、「価格が1%上がると需要が1.25%下がる」という結果が得られたそうだ。同社のマーケティング部門ではこの分析結果も参考にしつつ議論をしてきたのだが、なかなか結論が出ないという。実証ビジネス・エコノミクス社での初仕事として、あなたは上司と一緒にこの案件を担当することになった。あなたはまず、この分析結果を見てどう考えるだろうか。
------------- 第2節以降は、ぜひ本誌をご覧ください -------------
■連載第2回のウェブ付録
いかがだったでしょうか? 日評自動車のマーケティング部門がすでに自社のデータを使って回帰分析を行っていたということにも若干驚きなのですが、このように書き起こしている以上、もちろんこの分析には問題があるわけです。では具体的に、何が問題で、解決するにはどうすればよいのでしょうか。
連載第2回では、これらの部分に対して、なぜこれじゃあマズいのか?というところから丁寧に解説していきます。そして、消費者需要の推定の基本的なテクニックを伝授するとともに、実際に実証分析を行う際に直面するさまざまな問題点やつまづきやすいポイントにも言及しながら説明します。
また、本連載のサポートサイトでは、補足資料や実証分析に使ったデータと分析コード(Rで用意しています)も提供。本誌とサポート資料をあわせてご利用いただくことで、実践的に消費者需要のモデルと推定の基礎を学び進めることができます!
ウェブ付録を提供しているサポートサイトは【こちら】:
第2回のサポートサイトは以下のような提供メニューになっています(詳細はぜひサイトをご覧ください!):
■補足資料「離散選択モデルの識別」
資料のダウンロードは【こちら】(PDFが開きます)
本資料では、「離散選択モデルにおけるパラメタの識別」についての説明を行っています。連載を読み進めていく中で生じやすい、以下のような疑問点に答えることを目標としています。
・なぜ、アウトサイドグッズからの効用をゼロに基準化するのか?
・なぜ、個々人の選好ショック ϵijt の標準偏差パラメタについて推定しないのか?
参考資料:Train (2009) Discrete Choice Methods with Simulationの第2章
■Rによる分析コード
本誌第2回で紹介した分析を再現しつつ、実際に手を動かしながら学ぶことを目的とします。分析コードを解説付きでガイドした資料と、データも含めてまとめてダウンロードできるZIPを公開しています。
・分析コードのガイド【こちら】(HTMLが開きます)
・ファイル(Rコード、データ)の一括ダウンロード【こちら】(ZIP)
「分析コードのガイド」は以下のように、コードを解説付きでアップしています。ぜひ本誌とあわせてご利用ください。
■Rの使い方ガイド資料
本連載では、Rの初心者向けのオンラインリソースとして、宋財泫・矢内勇生先生たちによる「私たちのR: ベストプラクティスの探究」【こちら】を推奨しています。
Rのインストールについては、同リソース内の「3. Rのインストール」に、OSに応じたインストール方法が詳細に解説されているのでご参照下さい。
■おわりに
以上、経セミ連載=上武康亮・遠山祐太・若森直樹・渡辺安虎「実証ビジネス・エコノミクス」の第2回についての本文とウェブサポートのご案内でした。本連載では、今後も実践的な側面を重視しつつ、一歩ずつビジネスで活用できる経済学の理論と実証分析についての学びの場を提供していきたいと思います!
ここまでこのnoteをご覧頂き、ありがとうございました!
第2回を掲載した号は以下です。特集は「社会の仕組みを経済学で創る」と題して、「マーケットデザイン」と呼ばれる分野が、社会問題の解決やビジネス現場で活用され、重要な役割を果たしていることを、具体例を通じて紹介していきます。
巻頭記事のタイトルは「経済学を役立つ道具にするために」。東京大学マーケットデザインセンターの小島武仁さん、サイバーエージェントAI Labの森脇大輔・安井翔太さんによる鼎談です。
特集は、下記のようなラインナップで構成しています。
特集:社会の仕組みを経済学で創る
鼎談:経済学を役立つ道具にするために……小島武仁×森脇大輔×安井翔太
より良い就活ルールをマッチング理論で創る……栗野盛光
オークション理論と不動産オークション……坂井豊貴
マッチング理論で考える望ましいワクチン配布……野田俊也
経済学で人材活用――マーケットデザインで社員の配置を考える……小田原悠朗
小島先生や野田先生は、ワクチン配布計画についての経済学者による提言にも参加されています。
特集はもちろん、掲載している連載記事もとても充実しておりますので、ぜひ『経済セミナー』を今後ともよろしくお願いいたします。