【図解】「GDP」とは何か?
一律10万円が支給される「特別定額給付金」が実施される。オンライン申請は昨日から開始され、郵送は市区町村によって順次発送される。
見出しにある「GDP4.4%上げ」。「GDP」は「国内総生産」の略、というのは周知されていると思うが、その数字は実際に何を表しているのかについて、意外と知られていない気がした。
GNPとGDP
「GDP」と似た指標で「GNP」がある。GDPが「国内総生産」に対し、GNPは「国民総生産」だ。"D"は"Domestic"、"N"は"National"を表している。
GNPは海外の日系企業や日本人を含む「国民」が生み出した付加価値の合計額を示すのに対して、GDPは外資系企業や外国人労働者も含めて、日本の「国内」で生み出された付加価値の合計額を示している。
GDPとGNPの関係を簡単に図式化したのが、以下の通りだ。
どちらも他国との経済規模を比較する際に用いられる指標だが、元々はGNPが用いられてきた。しかし、近年は海外との受払額が急増し、日本に進出する企業も増え、GNPが国内の景気実態を必ずしも反映していないことが分かってきた。
そこで国内経済動向をより正確に把握するため、国際的にもGDPを使うようになったので、日本も1993年からGDPに切り替わった。
これによって、例えばトヨタがアメリカで売った車の利益はアメリカの利益となり、日本の利益とはならない。アメリカで売られた車はアメリカ国民によってアメリカにもたらした財なのだ。これで、より国内の実態を掴むことが可能となった。
GDPはどのように計算されるか
GDPは国内で生産されたすべての最終財の貨幣価値を合計する。日本で売れたりんごがX円、時計がY円、鉛筆がZ円…というように。そして、その合計利益がGDPになる。
しかし、単純に合計してはならない。例えば、車は様々な部品によって構成されている。車そのものの財には、ネジの財もあるし、タイヤの財も含まれている。これらをすべて加算してしまうと、二重、三重の計算となってしまう。
車など消費者に販売されて生まれる財を「最終財」、タイヤなど生産物を生産するために使われる財を「中間財」という。これを区別し、最終財の価値だけを計測する。
最終財には細かく分けると3つに分けられる。第一に家計が物品を購入する消費、第二に企業が建物を建てたり機械を購入する投資、第三に政府が支出する政府支出に分けられる。これらがGDPを構成する3要素だ。
そして、これらの数値でどれくらい成長したのか、あるいはどれくらい落ちたのかを割合(成長率)で表す。このGDPの成長率が、2年連続して下降した場合を「不況(不景気)」、上昇した場合を「好況(景気回復・拡大)」という。
実質GDPと名目GDP
GDPは3ヶ月に1回、政府から発表される。それを見ると、以下のようにGDPには「実質GDP」と「名目GDP」の2種類ある。
実質GDPと名目GDPの違いは、物価変動の影響を取り除いているかどうかだ。
インフレやデフレによって物価は日々上がったり下がったりする。例えば、昨日よりも物価が2倍に上がったとしたら、GDPも2倍に上がる。しかし、経済規模は2倍にはなっていない。この要素を取り除いたのが「実質GDP」、取り除いていないのが「名目GDP」だ。
物価変動の影響を取り除いた時、GDPに影響するのは、例えば消費された物の数によって変わる。
例えば、ある店で100円のリンゴが10個売れたとする。この時GDPは100×10=1000円となる。翌日、物価変動により、リンゴが120円になり、10個売れたとする。単純に計算すると、120×10=1200円となる。(名目GDP)
しかし、物価変動の影響を取り除いた場合は、前日の100円と見なし、GDPは100×10=1000円と変わらない。(実質GDP)
しかし、翌日、りんごが15個売れたとすると、前日よりもGDPは上がったことになる。
このように物価変動を取り除いた実質GDPを見ることで、実際の経済成長度を測りやすくなる。
内閣府が公表しているGDPの数値を見ると、2019年の実質GDPは536.1兆円であり、2018年度よりも0.7%経済成長をしていることが分かる。
なお、2018年において、日本はアメリカ、中国に次ぐ3位である。
一人当たりGDP
日本のGDPは高いが、幸福度は低いと言われることがある。その理由として、一人当たりGDPが低いのが一つの要因としてある。
GDPは国内で出た利益を表す。そして、その利益は我々の給与として分配される。仮にGDPを全員の国民で分配したら、536.1兆÷1.26億人=約425万円となる。これが1人当たりGDPであり、日本の平均給与である。
この一人当たりGDPは2018年では世界で26位となっている。仮に幸福度が給与だけによって左右されるものだとしたら、日本の幸福度は世界で26位となる。一概にGDPの数値=国民の幸福度とはならない。
また、GDP1位のアメリカは9位、GDP2位の中国は72位となっている。
まとめ
今回も数字が多い…これまでの項目をまとめると、
①GDPとは「国内」だけで出た経済価値を示す
②GDPは消費、投資、政府支出の3要素で構成される
③物価変動を取り除いた実質GDPが経済成長度を測る指標となる
④一人当たりGDPは国内の平均給与にあたる
となる。
そして、冒頭で載せた記事が指すGDPは、3要素のうち政府支出である。つまり、一律10万円給付する特別定額給付金によって、政府の支出が増え、GDPが4.4%上がるということだ。
特別定額給付金を配布することによってGDPが上がる、というのは何か違和感に感じるだろう。しかし、給付金が我々の給与だと考えれば、スッキリするのではないだろうか。
しかし、当然ながらGDPは上がらない。新型コロナの影響によって、経済がほとんどストップしている状態だ。なかなか活動できない企業もたくさんあり、利益を出せない状況だ。今後GDPは下がるだろう。
また、GDPについてはこのような見解もある。
GDPは、ある一定の時期の生産しか見ていない。過去にストックされたものはみていないから、日本は鉄道網が整備されていて便利とか、まだまだ自然環境が豊かとか、海外に比べて治安がよくて住みやすいとか、そんなことは計算されていない。
そのうえ、財・サービスを生み出せばみんなGDPを増やすから、ある工場が大気汚染をおこして住民が何人も病院にかかったとか、工場の汚水のため水質が悪化してみんながミネラルウォーターを買うようになったなんでことは、全部GDPのプラスになってしまう。無駄な公共事業だってプラスだ。
金子勝・テリー伊東『バクロ経済学』 朝日新聞社 2002年
本当の豊かさをGDPだけで測ることは難しいのかもしれない…
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