アンソニー・ファウチ博士
Dr. Anthony Fauci
皆さん、アンソニー・ファウチ博士(Dr. Anthony Fauci)のことをご存知だろうか。
僕は先月まで全く知らなかったが、今では顔を見ない日はほとんどないので、ほとんど自分のおじいちゃんであるかのような錯覚に陥っている笑
このファウチ博士は、アメリカの国立アレルギー感染症研究所(National Institute of Allergy and Infectious Diseases)の所長であり、アメリカの新型コロナ対策タスクフォースの主要メンバーの一人である。
このファウチ博士が、本当に「いい」。
浅学非才の分際で僭越極まりないのだが、歳を重ねるにつれて、信頼できる人を前以上にかぎ分けられるようになってきたような感覚がある。その嗅覚が言うのだ。この人は信頼できる。というより、信頼しないといけない、と。
アメリカの感染症対策の権威
御年79歳。1984年に現職に就いたというWikipedia情報が本当だとすると、在任期間はなんと36年間。これまで6人の大統領の下でアメリカにおける感染症対策の最前線をリードし、HIVやSARSなどの世界的な感染症への対応に当たってきた生き字引的な存在である。
ファウチ博士は「夢はHIVのワクチンを作ること」であると何かのインタビューで言っていた。79歳で夢が語れるなんてなんとかっこいいのだろう。
このファウチ博士、新型コロナとの闘いにおいても獅子奮迅の働きを見せている。アメリカにおいて人と物理的距離を2メートル以上取ることや身体的接触を避けることなどを強く推奨するSocial Distancingの導入をリードしている張本人であり、トランプ大統領とも意見を戦わせることをいとわない。
事実、トランプ大統領は当初イースター(4月12日)頃までに外出自粛や休業要請を緩和して経済活動を再スタートさせることを目指すとしていたが、ファウチ博士はこれに真っ向から対立。結果として、アメリカはこれらの外出自粛や休業要請を少なくとも5月6日までは延長することを決定している。
世界が知るトランプ大統領の性格を踏まえるとファウチ博士が更迭されることが心配になりもするが、これまでのところトランプ大統領から一定以上の信認を得ている様子でもある。
毎日ホワイトハウスで開かれている新型コロナに関する記者会見で、トランプ大統領はファウチ博士がかつて優れたバスケットボール選手であったことを引き合いに出しながら、その闘争心を高く評価する旨のコメントをしていた。内実は知らないが、懸命で優秀な人の訴えはやはり人の心に響くのだと思わされる。
また、ファウチ博士は、賢人としての慎ましさも持ち合わせている。新型コロナ対策タスクフォースの会見の際も、自身が話さないときは壇上の端の方で静かにしているし、コメントの際には事実をズバズバというのと同時に大統領や副大統領に対する配慮もうかがわせる。また、記者会見場を後にする際には、必ず大統領や副大統領に先に道を譲り、自身は最後に退室していく。為人が見えるような思いがする。
衰え知らずの79歳
前述の通り、ファウチ博士は79歳。かなりの高齢と言って差し支えないと思うが、エネルギーに満ち溢れている。
まず、見た目も(実年齢の割には)若い。(完全にバイアスがかかっていると自覚しているが)紳士然としておりかっこよさを感じるのは僕だけではないのではないか。
そして、今はとにかく強烈に働いている。新型コロナ対策タスクフォースの会見はほぼ毎日行われており、ファウチ博士はこれにほぼ毎回参加している。特に三月末頃は声が枯れ切っており、想像しかねるほどの実務量をこなしていることをうかがわせる。
事実、ファウチ博士はアメリカ政府内での対応をリードしているだけでなく、WHOや各国との情報交換・協議にも参加している他、多数のインタビューなどに精力的に参加して、Social Distancingの重要性をアメリカ国内に発信する広告塔の役割を買って出ている。
先日はInstagramで有名NBA選手であるステファン・カリーと30分ほど対談し、若年層が多いと思われる視聴者に対して新型コロナへの対応の重要性を非常に分かりやすく説明していた。
そんなファウチ博士はあるインタビューでこのように言っている。
「(私は79歳だが)45歳であるように感じている。そして、35歳であるかのように働いている。」
かっこよすぎる。言葉にならない。
「この仕事を務めるのに必要なエネルギーが残っていないと感じたら、その時に引退する。そうしたらゆっくり自分の生涯に関する本でも書くよ。」
押し寄せる脅迫状
そんなファウチ博士に関して驚くべきニュースが報じられている。
なんと、殺害予告を含む多数の脅迫状が届いているというのだ。
これを聞いた時、「は、なんで?みんなのためにこんなに身を粉にして働いているのに??」と思ったが、考えてみれば「そうか、仕方ないのか」とも思う。
ファウチ博士は、アメリカ国民の命を守ることを最優先に考えた措置を強く推進している。そして、国民にメッセージを届けるために自身の存在を非常に大きく露出している。
これは、僕は命のみならず経済にとっても最善の策だと思っているが、足元で経済的な大打撃を被っている人が多数いることは紛れもない事実である。直近の三週間で1,600万人が失業保険に申請をしているのだ。
これらの人、あるいは強烈なトランプ大統領支持者の一部などが、ファウチ博士の存在・言動を快く思わないことは想像に難くない。残念ながら、これが人間社会なのだ。
これに対し、アメリカ政府はファウチ博士の身辺警護を一層厳重にする対応をすぐさまとっている。
この件について質問を受けた当のファウチ博士のコメントはこうである。
「(ちょっと間をおいて)これが私の仕事である。これが私の選んだ人生なのである。間違いなく様々なプレッシャーはあるし、それを否定することは滑稽ですらある。だが、これが私の仕事であり、やり遂げなくてはいけない。」
僕たちも僕たちにできることをしなくてはいけないと思わざるをえない。
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