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Jリーグスタジアム問題:スタジアムはファン・サポーターのものか、公共財か?
Jリーグが誕生してから30年以上が経過しました。
私も地元のクラブを応援するために、年に数回は観戦していますが、サポーターの盛り上がりを見ると、日本にもサッカー文化が根付いてきたなと感じます。
ただ、日本全国にプロサッカークラブが浸透してきた一方で、スタジアム建設や改修に関わる多額の公的資金投入は常に賛否が分かれます。
スタジアムは熱狂的なファンやサポーターにとっては特別な聖地である反面、税金が投入される以上、地域社会全体にとっての「公共財」と言えるのかどうか。
本記事では経済学上の「公共財」の概念を踏まえながら、税金投入の是非や課題、そしてスタジアムの未来の在り方を考察していきます。
スタジアムは公共財と言えるのか
公共財の定義とスタジアム
経済学で言う「公共財(Public Goods)」は、以下の2つの特徴を同時に満たすものです。
非排除性:利用者を排除しにくい
非競合性:誰かが利用していても、他の人の利用は妨げられない
道路や公園などが典型例ですが、スタジアムの多くはチケットを持たない人は入れないため排除性が高く、座席数や観客スペースには物理的な限界があるため競合性も存在します。
よって、スタジアムは純粋な公共財と言うには難しい面があります。
税金が一部でも投入されれば、公共財か?
「公的資金が投入される=公共財」という図式が成り立つわけではありません。
しかし、やはり恩恵の範囲が限定的なものを公共財と呼ぶには議論の余地が残ります。
一方で、スポーツ振興や地域活性化といった「公共的な便益」を生み出す施設だと主張すれば、公共財に近い「準公共財」という考え方も可能です。
ただ、結局はそれをもって「誰でも自由に使える」というわけではないので、スタジアムは公共財とは似て非なる存在といえるでしょう。
公金投入の是非
公共財的な性質があるという主張
クラブ側が税金投入の根拠としてよく挙げるのは、以下のようなメリットだと思います。
地域経済の活性化
試合開催による周辺地域の消費拡大、観光振興、雇用創出。
スポーツ振興・青少年教育
子ども向けのサッカー教室や普及活動による健康増進。
イメージの向上
クラブが活躍すれば、自治体の認知度やブランド価値が高まる。
これらを勘案すれば、スタジアムが地域に与える便益は広範囲に及び、「特定のファン・サポーターだけのものではない」と言えるため、税金の投入も正当化されるという論理です。
批判や疑問の根拠
他方、批判派からは「利用者が選別される施設に公金を投入するのはおかしい」という意見はやはり出てくるでしょう。
たしかに、医療や福祉、教育といった多くの住民が利用する公共サービスに回せる財源が限られている状況で、一部の人しか使わないスタジアムに公金を投入するのは、経済合理性から考えれば最適な選択とは言えません。
これはまさに機会費用の問題をはらんでいます。
つまり、スタジアムへの投資によって他の公共サービスへ回せたはずの資金やリソースが失われてしまうというものです。
仮に、「スタジアムは地域の皆様のもの」とクラブ側が主張すれば、社会全体のニーズ(医療・福祉・教育などへの投資)とのギャップを生んでしまいます。
また、Jリーグのクラブライセンス制度により、さらなる投資が求められ、自治体の負担が増えれば「スタジアムの存在は、地域全体が恩恵を受けているのか?」という疑問を強める結果にもなりかねません。
「公共財」として認められる3条件
税金が一部でも投入された場合、スタジアムを公共財的な施設とみなすには少なくとも以下の条件を満たす必要があるでしょう。
1. 広範な利用(多目的性・開放性)
サッカーの試合がない日でも地域のイベントやコンサート、学校行事などで幅広く使えるようにし、多様な住民が利用できるよう配慮する。
2. 経済効果の検証と透明性
建設費・維持管理費の内訳を明確にし、投資対効果の結果を市民に公開。どれだけ税収が増え、地域経済にどの程度寄与したかを検証するプロセスも必要。
3. 公共性に見合う運営ガバナンス
クラブや自治体だけでなく、スポンサー、地域企業、住民など多様なステークホルダーが意思決定に参加できる仕組みを整え、市民共有の財産として運営する。
逆に言えば、これらの条件を満たせない場合、スタジアムに公金が入っていても「事実上はファン・サポーターのための施設」と捉えられるでしょう。
よって、地域住民の大多数が納得しない場合、税金投入への批判は強まるだけで、「スタジアムは公共財」の大義名分は使えません。
税金依存からの脱却
つまり、税金が一部でも投入されるならば、どうしてもスタジアムを公共的に活用することが求められます。
解決策としては「税金依存を減らす」「公共的便益を高める」方法が考えられます。
多目的活用
サッカーの試合以外にコンサート、地域の祭り、見本市、学校行事などの開催を積極的に受け入れる方策です。
スタジアム内にカフェやレストラン、ミュージアムなどを併設し、日常的に利用者を呼び込める設計ならば「公共広場」のような存在感を生み出せるかもしれません。
課題としては、イベント開催時の天然芝の維持管理や、試合開催とのスケジュール調整が難しいといった運営上の問題があるでしょう。
地域規模に合った設計
Jリーグの一律の基準に捉われることなく、地域の人口・経済規模に見合った小規模なスタジアムを建設するのも一つの方法かもしれません。
ただし、現時点ではJリーグのライセンス要件をクリアできないため、基準の改定を待つという選択になってしまうでしょう。
市民参加型の資金調達
地域企業やファン・サポーターが「共創ファンド」を立ち上げ、スタジアム関連の債権を発行して資金を集める方法です。
利息や優待特典(試合チケット、限定グッズ)を展開し、投資家としての市民がオーナーシップを感じられる仕組みです。
問題は、法規制(金融商品取引法など)への対応や、利益配分をめぐるガバナンスをどうするか、また十分な資金が集まらない場合には実現しないというリスクもあります。
Jリーグのスタジアム基準の問題
一律なキャパシティ要件
JリーグではJ1ライセンス取得のために収容能力1万5,000人以上(座席数)を要件として設けています。
これはリーグのステータス維持やテレビ放映を意識したものと考えられますが、地域規模やクラブの実情にそぐわないケースも少なくありません。
観客動員が1万人に満たない試合が常態化しているクラブにとっては、ガラガラのスタジアムを抱え、固定費ばかり嵩んでしまいます。
陸上競技場との兼用を否定する風潮
サッカー専用スタジアムを好むファンが多いこともあり、Jリーグ側が「ピッチと客席が近い」スタジアムを好意的に評価する傾向があります。
一方で、自治体としては既存の陸上競技場を使い続けたほうがコストを抑えられる場合もあるでしょう。
Jリーグ基準を満たすために陸上トラックを排除し、さらなる改修費用がかさむケースも現実的に多いでしょう。
このような「専用スタジアム至上主義」とも取れる風潮が、自治体とクラブの板挟みを生み出している面もあります。
座席や照明設備などの追加投資
座席をすべて個別シートにしたり、ナイター照明を最新基準に合わせるなど、細かい部分でのJリーグ規定が積み重なり、結果的に膨大な改修費用が発生することもあります。
クラブにとっては、これらの整備をしないとライセンスを失い、リーグ参加が危ぶまれる重大な問題です。
そのため、最終的には自治体に支援を求めざるを得ないという流れになりやすい構造的欠陥を指摘しておきます。
まとめ
結論として、スタジアムに税金が一部でも投入されるからといって、自動的に「これは公共財です」とは言い切れません。
公共財として認められるためには、誰もが一定の恩恵を受けられる運営設計や、多様なニーズに応えうる利用形態、そしてコストとベネフィットの透明化が必要です。
一方、ファン・サポーターにとってスタジアムはかけがえのない聖地であり、排他的に思える空間であっても、地域に根ざす多様な活動を通じて公共財的な価値を高めることは十分可能です。
実際に多目的化や市民参加型のファイナンスが成功すれば「ファンのもの」と「公共財」の両方の顔をあわせ持つ存在へと成長できるかもしれません。
「スタジアムはファン・サポーターのものか、公共財か?」
この問いに明快な正解はありません。
しかし、税金が注がれた瞬間から、スタジアムは少なくとも地域の財産として、行政と住民は責任を負う立場に変化します。
その責任を果たすためには、運営の透明性や説明責任を徹底し、本来の目的(地域に貢献するスポーツ文化の発展など)を見失わないことが必要でしょう。
もし、一部のファンやサポーター、企業のためだけにスタジアムが税金投入によって建設や改修されるのであれば、それは経済学的には「最悪の選択」と捉えられるでしょう。
日本国内にそのような負の資産が乱立しないことを望んでいます。
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