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「無能な働き者」を組織の力に変える:行動経済学の視点から考える「意欲」の活かし方

「やる気はあるが成果が伴わない」「方向性がずれているのに全力で突き進む」。

そんな無能な働き者がチームにいると、周囲は困惑し、プロジェクトの円滑な進行を阻害してしまいます。

しかし、行動経済学の視点を活用すれば、こうした人材をうまくマネジメントし、組織のプラスに転じる可能性があります。

今回は、なぜ無能な働き者が生まれ、どう活用すれば最終的に組織の成果に結びつけられるのかを、行動経済学のエッセンスを交えつつ考察していきます。


なぜ「無能な働き者」は生まれるのか? 

過剰な自己評価

人は自分の能力や知識を過大評価してしまいます。

心理学ではこれを「ダニング=クルーガー効果」と呼びます。

スキルが足りない人ほど、自分がどれだけ出来ていないかに気づきにくいため、過剰な自信を持って行動します。

これが無能な働き者の「なぜ、そこまで迷いなく突き進めるのか?」という謎を解き明かすポイントだと考えます。


人事評価の盲点

組織では「頑張る人=評価される」という暗黙のルールが存在します。

これは合理的に見えますが、方向性のずれた努力も、見せかけの高いコミットメントとして評価されることが多々あります。

つまり、熱意が誤った方向に向かっていたとしても、表面的には「積極性がある」としてプラス評価されてしまい、本人は「やはり自分は正しい」と思い込む、という悪循環が生まれます。


社会的証明

行動経済学において、人は周囲からの承認や肯定的な反応に敏感であると示されています。

よって「多数派の意見や行動が正しい」 という前提のもと、人は他者の行動を手がかりにして、自分の意思決定を行います。これを社会的証明といいます。

そのため「リーダーっぽく振る舞う人」を、多くの人がリーダーと認識すれば、能力やスキルがなくても、実際にリーダーになってしまいます。

能力が劣っていても、声が大きく、意欲的に動き回るだけで、リーダー的存在になっている人物、このような人は、どんな組織にもいるのではないでしょうか。

ちなみに、私が以前勤務していた銀行では、「無能な働き者」は組合活動に積極的に関わることで出世していく傾向が強かった印象です。


行動経済学的アプローチ:マネジメント活用策

フレーミングで正しい目標設定

「何を大事と捉え、どの指標を評価するか」は、当事者の行動を大きく左右します。

そこで重要になるのが、フレーミング(見せ方)の工夫です。

たとえば「無能な働き者」の目標やタスクを明確にし、定量的かつ定性的なKPIを設定するのは一つの方法でしょう。

対策:売上目標ではなく「クレーム件数の削減」や「顧客満足度の向上」など、質的評価を組み合わせます。本人の勢いはそのままに、どこにエネルギーを向けるかを明示し、誤った努力の空回りを防げます。


ナッジを活用して行動を誘導

行動経済学では、人々の選択を後押しするさりげない仕掛けを「ナッジ(nudge)」と呼びます。

これは強制ではなく、選択肢の並び順や情報の見せ方を変え、自然と望ましい行動へ誘導する手法です。

対策:進捗報告を行う際、標準の入力欄として「問題点」「改善提案」を最初に求めます。そうすると、熱意はあるが視野が狭い人も、まず反省点やリスクを考えさせる習慣がつきます。


現状維持バイアスへの対策

人は、現状維持を好むバイアスによって、自分のやり方が多少うまくいっていなくても変えにくい傾向があります。

無能な働き者も例外ではなく、思い込みで突き進むやり方を変えません。

対策:定期的な評価面談で改善ポイントの具体的アクションを決めます。そして、そのアクションを実行したかどうか次回必ず追跡します。トライ&エラーを繰り返して改善していく文化を明示すれば、本人も現状のやり方を改めやすくなります。


無能な働き者を組織で活かす3つのポイント

範囲の設定

行動経済学の研究では、選択肢が多すぎると認知負荷が増し、誤った判断をしやすくなるという傾向が示されています。

そこで、あえて担当範囲を絞り「無能な働き者」の強いエネルギーを特定の領域に集中させるのは有効な手段かもしれません。

自分の能力が及ぶ範囲内で高い熱意を発揮する分には、組織への貢献が期待できます。


フィードバックの迅速化

無能な働き者に大きなプロジェクトを丸投げすると、誤った方向に進んでしまうリスクが大きくなります。

週次、もしくは日次レベルでもいいので小さなマイルストーンを設定し、進捗と課題をこまめにフィードバックする仕組みをつくることで、空回りを最小限に食い止められます。


心理的安全性がある組織

無能な働き者が悪い意味での自信を失わずに改善できる環境づくりが大切です。

周りが萎縮せず、間違いを素直に指摘できる企業風土ならば、エネルギーをもった行動がより建設的な方向に修正されやすくなります。


関連書籍で学びを深める

『NUDGE 実践 行動経済学 完全版』

ナッジ理論をはじめとする行動経済学の基礎をビジネス視点で応用するヒントが満載。


『影響力の武器』

社会的証明やコミットメントなど、人間の行動を左右する心理要因を理解するのに役立つ一冊。


『知ってるつもり 無知の科学』

自分が「どれほどできていないか」に気づけない「無能の罠」を学ぶうえで必読の書籍。


まとめ:熱意を正しく誘導

「無能な働き者」は、行動経済学的に見れば、様々な認知バイアスの影響で自信満々に突き進んでいる存在です。

とはいえ、その「高いモチベーション」を否定してしまうのは惜しいとも言えます。

熱意を正しい方向に活かすために、組織が適切な目標設定やナッジを用意し、本人が過度な自己評価の罠に陥らないよう導いてあげる必要があります。

強い意欲が正しい方向に注がれれば、それはやがて組織に大きな成果をもたらす推進力に変わります。

行動経済学の知見を活かし、誤った判断や空回りを最小限に抑えつつ、そのパワーを活かすための仕組みづくりをぜひ検討してみてください。

組織が健全に成長するための一つのヒントとして、本記事がお役に立てば幸いです。

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Kei | MBA| 元銀行員
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