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MBAでの学び14:「リスクと不確実性の違いについて」
ビジネスや投資の世界では「リスク」と「不確実性」という言葉が頻繁に使われます。
しかし、多くの人がこの二つの概念を混同しており、それが意思決定の誤りを招く原因にもなっています。
特に経営者、投資家、起業家にとって、この違いを明確に理解することは、戦略的な判断を下すうえで極めて重要です。
本記事では、リスクと不確実性の違いをファイナンスの視点から解説し、それがどのようにビジネスや投資に影響を与えるのかを分かりやすく説明します。
リスクとは?
リスクとは、ある事象が発生する確率と、それがもたらす影響を定量的に測定できるものを指します。
リスクは、過去のデータや統計的手法を用いることで、ある程度の確率をもって評価ができます。
つまり、リスクは計測可能なものであり、適切な分析や統計的手法を用いれば管理可能なものといえます。
リスクの定量化
リスクは通常、期待値と標準偏差を用いて表現されます。リターン RR の期待値$${E(R)}$$ と標準偏差$${σ(R)}$$を用いて、リスクの大きさを以下の式で表せます。
$$
σ(R)= \sqrt{\sum_{i=1}^{n} P_i (R_i - E(R))^2}
$$
$${P_i}$$:各事象の確率
$${R_i}$$:各事象のリターン
$${E(R)}$$:期待リターン
リスクの具体例
株式投資のリスク
株価は市場の変動により上下しますが、その変動幅(ボラティリティ)は過去のデータを基にある程度予測可能で、分散投資やヘッジを活用すればリスクを軽減できます。
事業のリスク
競争環境の変化、顧客の嗜好の変化、為替変動などは、ある程度統計的に分析可能。そのため、事業継続計画(BCP)や保険を活用すればリスクを低減できます。
保険のリスク管理
生命保険や火災保険は、発生確率を過去のデータから計算し、適正な保険料を設定しリスクを管理します。
つまり、リスクとは「数値化できる不確実性」と言い換えることができます。
不確実性とは?
一方、不確実性(Uncertainty)とは、発生する可能性や影響の大きさが事前に測定できないものを指します。
不確実性は、前提条件を設定しても、そもそも 将来の事象がどのように発生するのか見通せない ため、確率的な評価ができません。
過去のデータや統計モデルでは予測が困難な状況を示しているといえます。
不確実性の具体例
パンデミックの発生
新型コロナウイルスの流行は、発生確率の予測はできませんでした。影響範囲や経済へのダメージも未知数であり、事前の備えが難しい状況になりました。
画期的な技術の登場
AIの進化やブロックチェーン技術の発展がどのように業界に影響を与えるかは、不確実です。過去のデータだけでは未来の変化を予測することはできません。
政治・規制の変更
国際関係の悪化は突発的に起こることが多く、事前の予測が困難です。
つまり、不確実性とは「数値化できない未知の変数」と言い換えることができます。
不確実性の概念整理
「数値化できない未知の変数」が不確実性だと定義すると「世の中の事象はほとんど不確実である」といえるのではないでしょうか。
実際には哲学的・数学的にさまざまな論点がありますが、ここでは簡単な数式と概念を使ってイメージしやすいモデルを示します。
事象の全体集合
世の中で起こりうるすべての事象を、数学的に集合として表したものを $${\Omega}$$ とします。
たとえば、「自然現象」「人間の意思決定」「政治的出来事」など、数えきれないほど多様な事象が含まれるイメージです。
確率的に扱える事象の集合
次に、「リスク(計測可能)」として確率的に扱える事象を集めた部分集合を $${\Omega_R}$$ とします。
具体例
交通事故の発生確率、寿命の統計データ、株式市場のボラティリティなど
これらは過去のデータをもとに、確率分布を仮定し、保険料を計算したり、リスクを管理できます。
不確実な事象(計測不能)の集合
上記のどちらにも当てはまらない、つまり確率的に測定・予測が困難な事象の集合を$${\Omega_U}$$ とします。
具体例
新技術の画期的発明、政治・社会情勢の突然の変化、未知のパンデミックなど
よって定義上は
$$
\Omega = \Omega_R \cup \Omega_U,\quad
\Omega_R \cap \Omega_U = \emptyset
$$
となります。
「リスク」 と 「不確実」の数
想像してもらうと分かりやすいと思いますが、確率的にモデル化できる事象よりも、そうでない事象のほうが圧倒的に多いと考えられます。
そこで、全事象の集合 全体に「大きさ(測度)」を与えてみましょう。
これを、便宜上$${\mu(\Omega) = 1}$$として規格化(全体を1とする)します。
リスク($${\Omega_R}$$)を測る
確率的に扱える事象は多くあるように思えますが、人類が統計や物理の法則でモデル化できている現象は限られていると考えられます。
例えば、交通事故、火災、株式市場、寿命、自然災害の発生率…、しかし、これらの範囲は宇宙規模の膨大な事象や、人間の複雑な意思決定、社会システム全体から見るとごく一部かもしれません。
つまり、$${\mu(\Omega_R)}$$は1よりはるかに小さい数である可能性が高いと考えられます。
不確実性($${\Omega_U}$$)を測る
不確実な事象は、「データがない」「理論が確立していない」「パラメータが複雑すぎて予測不可能」など、多岐にわたります。
こちらのほうが「無限に近い」多様性を含んでいると考えられます。
したがって、$${\mu(\Omega_U) = \mu(\Omega) - \mu(\Omega_R) = 1 - \mu(\Omega_R)}$$となりますが、$${\mu(\Omega_R)}$$が小さいほど$${\mu(\Omega_U)}$$ は1(= 100%)に近づくことになります。
ほとんどが不確実
もし、確率的にきちんとモデル化できる事象が全体の1%程度であった場合(実際の数値は正確に求められませんが、あくまで仮の目安)、
$$
\mu(\Omega_R) \approx 0.01
$$
$$
\mu(\Omega_U) = 1 - \mu(\Omega_R) \approx 0.99
$$
つまりは不確実な事象だと捉えることができます。
これが、「世の中の大半(ほとんど)は不確実である」とする直感的な数式モデルの説明です。
このモデルはあくまで概念的なものですが、「人間が確率論的に扱える範囲は思ったより狭く、それ以外はほぼ不確実に満ちている」という直感を、簡単な数式で表しました。
結果として、ビジネスや日常生活のさまざまな意思決定において、不確実性にどう向き合うかが最も大切な課題になるのではないでしょうか。
まとめ
リスクと不確実性の違いを理解することは、より賢明な判断を下すために不可欠だと思います。
リスクは管理可能であり、適切な手法を用いれば最小化できます。
一方、不確実性は予測困難であり、柔軟な対応力が求められます。
よって、実社会を生きる上で重要なのはリスク回避よりも、不確実性に対する対応力を身につけることといえるかもしれません。
あなたの意思決定の精度を高めるために、今日からリスクと不確実性の違いを意識してみてください。
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