振袖火事
「まったく若い娘の情念とは大したもんだねぇ」
「お菊の振袖のことかい」
「え、梅野って名前じゃなかった?」
「とにかく、その娘の振袖が今回の大火を起こしたっていうじゃないか」
「どういうことだい」
「花見に行った時、その娘がある若者に一目惚れしてしまい、そいつが着ていた着物と似たような柄の振袖を仕立てていつも着ていたそうなんだ。だが、娘の思いは叶わず十七歳の年に世を去ってしまったんだな。両親は娘を哀れに思って遺体にその振袖を掛けて葬ろうとしたんだ。ところが、その振袖が何故か古着屋に出ていたそうだ。で、その振袖を買った娘が十七で世を去ってしまい、その後、その振袖が別の娘のもとへ行き、その娘も同年齢で亡くなったそうなんだ」
「何か気味の悪い話だなぁ」
「うん、三人の娘の親たちもそう思って件の振袖を本妙寺で供養しようと燃やしていたところ、突風が吹いて振袖が火のついたまま舞い上がり火事を起こしたっていうんだ」
「それは違うぞ、火元は本妙寺隣の御老中阿部様のお屋敷らしいぜ」
「本当かい?!」
「お上が、御老中の家が火元では体面が悪いと言って本妙寺にその罪を肩代わりさせたらしいよ」
「そういえば本妙寺はお咎めなしだよな」
「ああ、あとお上がこの機会に江戸の町を整備しようとしているらしいよ」
「俺たち、どうなるんだろう」
「さあな」
#歴創版日本史ワンドロワンライ 2020年2月15日 お題:振袖
江戸時代の明暦の大火、別名“振袖火事”について書きました。この火事については様々な説があるようです。