艦これ日記 15春イベント その1
鎮守府沖に、海軍の、いつもの輸送艦が二隻、姿を見せていた。その甲板には、大型のコンテナが並べられている。かつてジャム島に運ばれた、コンテナ工廠の新しいものだ。今回も、ふたたびジャム島へと向かう。
「よーし、それじゃ行くぜっ!」
天龍は、いつも以上に乗り気だ。今にも隻眼をきらきらさせて、びしっとサムアップしかねない。天龍が乗り気のときは、龍田も、うれしそうに見える。いってらっしゃい、と肩のところで小さく手を振る。天龍は、びしっとサムアップで応える。そして、天龍といつものキス島組、つまり不知火たちから島風が抜けたいつもの組み合わせは、鎮守府を出撃した。
輸送艦はゆっくりと進んでゆく。艤装をつけた艦むすよりも、船はずっと遅い。それでも海軍の輸送艦は、民間の輸送船よりも早く、護衛の手間はかからない。何日もかかる護衛の行程では、艦むすは交代で警戒にあたる。今は、ノリノリの天龍が二隻の輸送艦を先導している。不知火たちは、交代まで、輸送艦で休息する。勝手知ったる船だし、乗員とも顔見知りだ。陽炎など、もう完全に自分の部屋のつもりでいて、自分用のマグカップを待機室に置いてある。
鎮守府部隊は、再び、ジャム島へ向かう。鎮守府部隊と敵、深海棲艦との、見えない鍔迫り合いは、もう始まっている。いや、本当は、敵の打つ手がわずかに速く、応じる鎮守府部隊の動きが、さらにわずかに機先を制しただけだ。
「敵は、思った以上にジャム島近くに、ピケット艦を送り込んでいました」
そう大淀は報告した。ジャム島を経由した、カレー洋への第一次索敵の結果だ。彼女はタブレットを操作し、会議室の大判ディスプレイに戦闘結果を表示した。
「むしろ、敵の側の攻勢準備に、辛うじて間に合った感覚があります」
「敵も無能ではない。それは判っている」
艦隊司令は人の悪い笑みを浮かべ、それから続けた。ならばなおの事、この敵の攻勢準備を破砕する、と。敵はジャム島の近くにまで、小型のプラントを前進させてきているらしい。それは予測されてもいた。トラック島で行ってきたことは、カレー洋でも行ってくるはずだ。艦隊司令は言う。
「ジャム島からの出撃と攻勢を維持しろ。敵は外線の優位を利用して、こちらの勢力の弱いところを攻撃しようとしている。しかし敵はまだ、決定的な優位を獲得していない。これを積極的に撃破する」
「了解しました。しかし、これで敵の目を過剰に牽引しないでしょうか」
「過剰に撃破すれば、敵はカレー洋での不利を払拭するため、こちらの想定していなかった方面で攻勢を行うだろう。だが、過剰に撃破することは、簡単なことじゃない。構わん。今の近距離索敵編成で攻撃を継続しろ」
了解しましたと応じる大淀に肯き返し、艦隊司令は間宮へと目を向ける。
「後方体制は?」
はい、と間宮は応じて、ディスプレイに情報を表示する。つまるところジャム島の施設を再編成し、さらに物資の備蓄を行う、ということだ。
「南西方面への護衛、掃討体制に上乗せする形で輸送する形が良さそうです。まず第一陣で、コンテナシステムを輸送、ジャム島の移動工廠を更新します」
間宮は続ける。在来の備蓄施設に加えて、さらに備蓄防護体を増やす予定ですが、これはトラックに設置したような、事前形成された防護体を現地で結合する形になります、と。
「増産をはかっていますが、遅れています。他の拠点用に生産したものを、ジャム島に回さねばならない状態です」
「やむを得ない。他拠点用の待機分を、ジャム島に流用して良い。初期案通りに進めてくれ」
「ただし、在来設備を撤去更新するので、工廠稼働は数日遅れます。設備の廃棄は行わず、持ち帰ります」
「もちろんだ。その間の警戒は、大淀と、天龍、お前たちで交代しながら行ってもらうしかない。大淀たちは、鎮守府とジャム島を往復する形になるか」
止むをえません、と大淀は応じる。とはいえ、遠隔地で戦闘を行い、鎮守府に帰還する方がふつうのことだ。ジャム島にコンテナ工廠が設置されていたのは、ジャム島が南西航路と、カレー洋との接点にあるからだ。敵にここを突破させてはならない。今も、ジャム島の役割は変わらない。
今もカレー洋での戦闘を支える基地として、再生しようとしている。艦隊の戦力は、かつてカレー洋で戦闘した時よりも、一回りも二回りも向上している。あの時、カレー洋中央突破案を出した鳥海、それに摩耶は、今では第二次改修を受けて、さらに能力を増している。あの時、陸奥姉は一人きりだったけれど、今は姉妹艦の長門がいる。
少し残念だったのは、以前の艦長さん、猫のわかばの飼い主の艦長さんは、離任されている、とのことだった。新しい艦長さんが、そう教えてくれた。艦むすのほうの若葉は、いつも通り、そうか、とだけ答えた。けれど待機室には、猫のわかばと、娘さんとで写る写真が置いてある。