見出し画像

深田先生との出会い

私は大学受験を3回している。

家が経済的に非常に苦しい頃に受験生だった。
私立の音大の推薦の話も数校あったけれど経済的理由で国公立しか無理と親に言われ
国公立の芸術大学は超狭き門。
音楽高校時代はめちゃくちゃ頑張って鬼のように練習をしたけれど…

落ちた。

本命しか受験しなかったので浪人決定。
音楽を職業にするには、音大を出なければならないと思っていた。
音楽高校の三年間、大学受験のためにこれ以上出来ないというくらい頑張った。
家にグランドピアノを持っていなかったので
朝5時に起きて学校の練習室で練習して、
早弁して昼休みも練習、放課後も練習。
家に帰っても夜10時まで練習。
でも落ちた。
疲れた。
疲れきった。

本命受験の学校の先生にもレッスンは通ったけれど
ことどごくボロボロに言われていたので、精神的にもキツくなり
浪人の時はその先生に習い続けるパワーもなくなり
短大受験に切替えた。

短大に入学したものの、やはり短大では物足りない。
仮面浪人という形で、短大に行きながら卒業する年に
もう一度4大受験をするための勉強をした。

が…落ちた。

うん、人生ってそんなもんよね。
努力は報われない。
やさぐれた。


かれこれ29年前
私は21歳(歳がバレる50歳児)

大分の短大を出て、さぁ…どうしよう。
とりあえず、ピアノの勉強はしたい、と思って、
短大の先生にピアノを習い続けるために
実家に戻らず大分に残った。

短大の先生の紹介で楽器店受付のバイトをしていたら、
楽器店専務に気に入られ、講師の試験を受けることに。

そして、短大卒業から半年後、私は講師になった。
主に子どものクラシックのレッスンをしていたある日、
楽器店の専務に呼ばれる。

「大人の生徒さんの指導、やってみない?
君、愛想いいし向いてると思うんだ。
これからは、大人がピアノ教室を拡大していきたいから、
ポピュラーミュージックスクールのポピュラーピアノの講師認定試験、受けない?」

と、言われ、認定試験要項を取り寄せた。
認定試験要綱は…

宇宙の言葉だらけだった👽。
音楽高校、音楽科の短大と
クラシック漬けでポピュラー知識がほとんどなかった。
知ってると言えば兄がよく聞いていたYMOと矢野顕子位なもんだ。
あとは幼少の頃よく見ていたドラマの主題歌や
ザ・ベストテンで見ていたヒットソング位。

音楽高校、短大では教えてくれなかった内容。

「この曲をボサノバでアレンジして演奏すること」

はい?ボサ…?えーっと…
コード奏??コードネームの構造は短大で習って何となく知ってたけれど
実際演奏ではしたことない。

楽器店のポピュラーミュージックスクールのフルート科の先生に相談したら、
先生を紹介してもらえることになった。

ふかた先生。男性の先生。
緊張しながら電話をかけてレッスンの約束をした。
優しそうなお声。

ドキドキしながら、指定された場所へ自転車で向かった。

古いビルの階段を登ると、音楽スタジオがあった。
ガラスの扉を開けて中に入ると、
ドラムのある部屋、キーボードのある部屋、ギターのある部屋があった。
キーボードのあるお部屋では若い先生がレッスンをしている様子だったので、
レッスン室外の長椅子に座った。

ふかた先生、どんな先生だろ。
凄い先生らしいし、まだ来られてないのかな
と、ソワソワしていたら、
キーボードのお部屋のガラス扉が開いた。

「お疲れ様〜〜、また来週ね〜」

と、生徒さんを送り出していた。

「さとうけいこさんですか?ピアノのふかたです♪
ようこそお越しくださいました!」

ンンンンン????
若い…、先生若いし、ピアノ弾く人には見えなかった。
クラシックの男性の先生って何人かレッスンを受けたことあったけれど
偉いオーラ出まくりのおじさんばかりだったのに
いわゆる…、街中を歩くかっこいいお兄さんだ。
クラシック男子にいそうなジメジメ度O。
  (クラシック男子、disってゴメンナサイ)
ミスターレディ(死語)でもない(音楽関係にはとても多い)。
熊五郎じゃない。
お腹出てない。
ヨレヨレでもない。

クラシックの男性先生のイメージって…。


ポピュラーの先生ってこんなんなんだ…とドキドキしながら
キーボードの並ぶお部屋に入った。

いや…エレキギターは不良のするもの
と聞いた事がある。
うちの兄も一時期不良さんになって
エレキギターを買って、レベッカのコピーバンドをしていた。

もしや私はこれから不良さんの仲間入り?

めくるめく不良ワールドに入っちゃうの?

未知の世界へ立ち入った気分で
妄想が大爆発していた。

試験要項を渡すと、ふかた先生はパラパラと見始めた。
私は先生を見る。

ふかた先生の格好は…Tシャツ、ベスト、ジーパン、そして腕にはブレスレッド。

音楽学校の先生は大抵スーツで、ブレスレッドは見たことがない。
短大ではマニキュアをしたら睨まれ、茶髪にしたら怒られるので、
オシャレとは無縁だった。

ふかた先生「ちょっと代わって」

と言って、キーボードの椅子に座っていた私は
先生が座っていた椅子と場所交代をした。

先生は足を組んで、試験曲を弾いてくれた。

足組んでピアノ弾いてる!!!!!
しかも…

…聴いた事のない綺麗な音でオシャレで
心を打ち抜かれた。鳥肌が立った。

ふかた先生「僕ね、元々クラシックなんだよ」

えええええええええええ
クラシックピアニストなのに、こんなにオシャレな事ができるなんて…
しかも、なんか…めちゃくちゃ上手い…

このキーボード、なんかいい音するなー
楽器がいいんだろうな…と思った。

ふかた先生「じゃ、早速コードネームからやってみようか」

と、私はキーボードの椅子に戻って、
先生に言われるようにCのコードを弾いた。

???????

鍵盤スコスコ…何だこの弾きにくいキーボードは…
それに私が弾くと安物のキーボードの音がする。

「あれ…、音が違う…」

ふかた先生はニコニコしている。

「弘法筆を選ばず」

この言葉が頭に浮かんだ。

そして、ものすごくワクワクした。
この先生からいろんなこと教えてもらいたい、
よし、ずっと通おう!!と思ったのでした。


コードネームも弾けなかった私のために
講師認定試験までの2週間、ほぼ毎日レッスンをしてくださり、
試験は合格。

ふかた先生「合格おめでとう!よかったね♪」

けいぴ「先生、これからもずっと教えてください」

こうして深田組に入ったのであった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?