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Legacy3:練習構築




目的

2つの評価軸

ボクシング中の動きは下記の2つで評価することができる。

1.その行動の精度が高いのか
2.その行動をすることが正しいのか

つまり、ボクシングの練習の目的は、個々の状況に対して正解を導く能力と判断した動きを正確に遂行する能力を高めることである。

脳の構造 

ボクシング中の脳は主に大脳と神経束によって、2つの働きを司っているといえる。
大脳とは体の外で起こったことや、体の中で起こったことを感じ取り、情報を分析して、体全体の動きに命令を与える。目や耳などから送られてきた情報を受け取って、考えたり決めたり覚えたりする器官である。つまり、ボクシング中の状況から自分の体がどう動くかを設定する役割がある。
神経束とは、大脳から受けった情報を基に筋肉の収縮命令を出す器官であり、動きを自体を具体的に作る。
筋肉は、神経束から受けた命令を基に実際に動く役割である。
すなわち、大脳→神経束→筋肉の順番で体が動く。例えるならば、会社の経営者が大脳にあたり、管理職が神経束、現場社員が筋肉である。

神経アプローチ:繰り返す

神経は電流の回路であり、使用頻度が多い筋肉に対して多く配置される。つまり、多く用いる動きに対してはそれ専用の回路を作るということだ。そして、専用回路は半自動的に自分の動きを作る。ここに繰り返し練習することの意味がある。

理解する

まず得ようとする動きに対して、繰り返し練習をするにあたり、ゆっくり動きを正確に行う必要がある。なぜならば、誤った動きの回路を消すことが出来ないためであるからだ。そのためには、まず動きの形をしっかりと理解する必要がある。ここで理解するためのツールとしてを運動分解を紹介したい。

運動分解

上記の図は、開脚前転を運動分解して解説した、小学生の頃誰でも見たことのある図である。
これは開脚前転を6つの動作に分解したもので、一つの動作に一つの進捗である。順を追って一つ一つ真似していけば、その動きを再現できるため、動作を理解しやすい。オードックススタイルの選手に前手フックを教える時に例えるならば、
1.普段の構えの状態から、骨盤を左に回し左脚に体の重心を乗せる。この時上半身も同時に捻り、拳を頭に、肘を体側にくっつける。
2.左手の肘を浮かせ、拳を離し、最も力の入る角度に肘を設定する。
3.骨盤を時計回りに回し、その勢いを使って拳を相手にぶつける。
4.ガード、骨盤を普段の構えに戻す
といった具合である。 
このように順を追って一つ一つに動きを分解することで、動きを再現出来るようになりそれと同時に気をつけるポイントを伝えることができる。

繰り返す

上記の理解し、気をつけるポイントを常に意識しながら、ひたすら繰り返す。

大脳アプローチ:状況を設定する

ボクシングとは状況の連続である。そのため、それぞれの状況に対してどのように対処するのが良いのかを探っていく必要がある。ボクシングは対人スポーツで常に相手と自分で状況を作り出すものであるため、

抜き出す

スパーリングやマスなどで苦手に思えるような状況や逆に得意な状況などを抜き出す。それを擬似的に再現した状況を作る。例えば、接近が苦手なら、接近マスなどである。

組み立てる

上記の各状況を組み合せ、実戦で使えるようにする。つまり、マスボクシングやスパーリングである。

大脳アプローチと神経アプローチの違い

これら2つの違いは、絶対的か相対的かで分けることができる。
ワンツー、ジャブといったいつどのタイミングでも変わらないものは神経アプローチである。
一方でカウンターや位置取りといった状況によって変わるもの、明確な答えがないものは大脳アプローチである。要するに神経的な動きの掛け算を練習するものが大脳アプローチということである。

具体論

基礎:脚のスタンス

脚のスタンスは以下の条件を基に構築する。
1.前後左右自由に動ける
2.動いた時に腰が浮かない

そして各々のボクシングスタイルによって、体の前進ベクトルを強めれば強める程後ろ脚の踵を上げる。


この動画を見て欲しい。
上記の動画に則って構え方を作ってほしい。

初心者がスタンスを得るためには、以下の段階で指導する。

1.構えた状態で歩く。
構えた状態から、前足を前に出し、同じ分だけ後ろ足を前に出す。今度は後ろ足を後ろに出し、同じ分だけ前足を後ろに下げる。
ポイントは2つ、足幅が決して変わらないようにすること、動かす方向の足から動かすこと、である。

2.ジャンプする
構えた状態でまず、前足を上げて後ろ脚に体重を乗っける。そこから後ろ脚で飛び、前足から着地し、後ろ脚をつける。この際、ジャンプ前とジャンプ後で足幅と構えが変わらないようにする。
同様に後ろ脚を上げて、前足で後ろに飛び、後ろ足から着地し、前足をつける。
ポイントは、足幅が変わらないこと、動く方向の脚から動かすこと。

3.すり足にする
上記の状態から徐々にベクトルの上成分を無くし前・後にしていく。
意識としては上から腰を抑えつけられるようにである。 
その意識でひたすら前後ステップを行う。

ここで気をつけるのは、ステップの距離は短くて良いが、必ず前足でブレーキを強く効かせることだ。このブレーキが強く効くことは、前へステップする際にしっかり体全体に前ベクトル、下ベクトルが効いていることと同義であるため、この強いブレーキ(強い踏み込み)は強いパンチに必須である。フェラーリやトラックのような馬力の高い車にはそれに伴った高級ブレーキが着いてるのである。

基礎:パンチを早く強く打つには

パンチが早いとは、構えから目的に当てるまでの時間が短めことである。
それと同時に、物体が最も早く移動するために必要なことは、スタート地点と到達点が最短距離で結ばれていることだ。  つまり、パンチを早くするには、構えたところから水平に出して同じ位置に戻すことが必要だ。(無論繰り返し練習で神経に覚えさせることも必須)
また、パンチの速さを上げるには、脱力が鍵だ。力が入った硬い筋肉や鍛えすぎた太い筋肉は伸ばすのに時間が掛かる。
そして、とにかく速く打とうとする意識で繰り返し反復練習を行う。
強く打つのに必要なことは、サンドバッグ、ミット等の実際の衝撃を伴った練習である。
科学的に調査したところ、安定筋(パンチを放った時に受ける衝撃に耐える筋肉、いわゆる打ち抜くために必要な筋肉)はコンタクトを伴ったトレーニングでないと鍛えられないことが証明された。


シャドーボクシング(超重要)

シャドーボクシングとは、広義では仮想の相手を想定して行うボクシングと言われているが、そもそも相手を仮想するのには限界があり、カウンターなどのタイミングを自分で取れるため、意味がない。


シャドーボクシングは下記の目的によって行なう。

1.ジャブ、ワンツーといった動きを流れで行なう
2.攻撃、防御、攻撃、防御というボクシングの基本リズムを保つ
3.自分のやりたいボクシングの青写真を描く。

1.2について
ボクシングは流れ、流動性のスポーツで1R通じてずっと動き続けることが求められるジャブやワンツー、ダッキング等といった個々の要素をしっかり繋げて、一つの連続性を作る。
3.について
この目的が最も重要である、自分のボクシングの設計図を作る作業であり、これが自分のボクシングの主軸となるからだ。
自分はどんなパンチで相手を倒すのか、
それに向けてどのようにボクシングを構築するのか、どのようにディフェンスを使って相手へカウンターを取るのか、お前はどんなボクシングをしたいのか。
これらを表現するための練習である。 
つまりこの頭で考えているロジックを体にインストールする最も重要な作業なのである。

練習の作り方

練習構築

ボクシングの練習は
要素(ジャブなど個々の動き)の確認、要素を繋げる、実践する、実践で出た課題を補う、フィジカルの増強という流れで行なう。

個々の要素のクオリティが高くなければ、それらを組み合わてもクオリティは高くならない。しっかり神経に電流が流れ、求めた動きが出来るのかという基礎が出来ていなければ、それらの組み合せを行っても見つかる課題は、大脳トレーニングであるのに、基礎が足りていないという神経トレーニング論にしか帰着しない。 
フィジカルトレーニングは、神経や大脳をつかわないため、優先度は低い。

初心者は、とにかく要素クオリティを上げるため神経トレーニングに注力して欲しい。 
ある程度のクオリティが担保され次第、大脳トレーニングに移って欲しい。
(指導者は、神経トレーニングの中にもしっかり楽しさや実践を意識させる場面を作ること)

トレーニングプラン(指導者向け)

初心者にイチからボクシングを指導するにあたり、重要なものがトレーニングプランである。
トレーニングプランとは、何をいつまでに出来るようにするのか、というものである。
下記が具体例である。

1-2ヶ月目
ボクシングの基礎となる、スタンス、構え、ステップ、リズム、ジャブ、ストレート、ワンツーを習得する。 
並行して、沢山のボクシングを見てもらい、ボクシングを好きになってもらう。

ここで大事なこと
スタンスは、どの場面でも絶対に変わってはならないこと、スムーズに動きやすい幅を設定する。膝が伸び上がったりせず、上下左右前後どこでも同じようにさせる。
構えはガードが目線の位置でパンチを出しやすい所に設定する。楽に構えられる事ではない。 
パンチはとにかく思い切り、強く打たすこと。
ジャブは、構えからゴールまで同じ軌道で打ち、いちいちガードから下げてから打つなど癖をつけさせない。
ストレートは、脚から打ち、全身で打つこと、脇が開かないこと。

3-4ヶ月目
対人を意識させる
ここで覚えるのは、ブロッキング、パリング、ダッキングを覚えさせる。ギアはつけずにとにかくゆっくり正確に丁寧に動作を覚えさせる。
やりたいボクシングを対話を通じて明確にする。

5-6ヶ月目
選手の様子を見て、対人練習に参加させる。
この時にシャドーボクシングを教える。
この際、まずはディフェンス練習から入れ、徐々にマスボクシングへ移行させる。
ここまでで、自分のやりたいボクシング像がある程度定まっていることが前提。

7ヶ月目
選手の様子を見てスパーリングに参加させる。






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