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冷めた駅弁に包まれるノスタルジック体験(チキン弁当に愛を込めて)
駅弁当にありつけるタイミングが少なくて切ない。
新幹線に乗る前は大抵そんなことを思いながら、「駅弁屋」を物色し何も購入せずに店を去る。
そう、僕には駅弁当への憧れがいつまでもまとわりつく(なんなら心残りを作りながら帰宅する自分に毎度ドMかって突っ込みたくなる)。
お昼にしろ夜ご飯にしろ、都内へ行くときはほとんど目的のお店があり、そこでたらふく満たされた僕に駅弁当を食べながら帰宅するという選択肢は残されていないのだ(だが駅弁屋の食のテーマパーク感はたまらなくて、成城石井に無意識に入店する感覚で吸い込まれていく)。
ここぞというタイミング来るのか、、、
そんなある日、駅弁タイミングが訪れた。
同時に夕飯を都内でゆっくり食べられなかったことへの寂しさも共存していて、やりきれない感情にも襲われた。
品川で家族に会った。
平日休みを取った午前中。
絶好のタイミングで会食ができたのだが、パソコンという飛び道具があればどこでも仕事ができてしまうのが嬉しくも悲しく、午後からは品川のスタバでみっちり働いた。
それはみっちり。
夜ご飯は東京駅のdancyu食堂で済ませたいな〜と期待を膨らませていたのだが、品川→東京に移動して新幹線に飛び乗ることを加味すると、八重洲口でゆっくりする時間さえもないと確認した20:30。諦めたdancyu食堂の近くには駅弁屋が待っていてくれた(そうは言っても生姜焼き〜!なのだが)
10分後の新幹線と1時間後の新幹線が時刻表には記載されていて、もちろん1時間後の乗車を選んだ。
駅弁に魂の入魂をしたいがための懸命な選択をしたと、自分を慰める(帰りが遅くなることと焦って決めた駅弁を食べることを天秤にかけた僕は、躊躇なく後者を選んだ。自分でもさすがと思う)。
さあ、じっくりと向き合おうという覚悟の中で駅弁屋のラインナップを見渡す。
肉系、魚系、地方の特産品系、さまざまジャンルがあった。
紐を抜いて温めるタイプに憧れがあったため、一度検討。
深川飯を見つけ、なんだかそんな気分な気がすると検討。
とは言いつつ、焼き魚のお弁当の気分にもなり検討。
脳内討論会を繰り返すこと20分ほど。
さぞ決められない自分を責めつつも、なんだか愛おしくなり、とにかく自問自答を繰り返す。
そこで目が合ってしまったのが、「チキン弁当」だった。
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テレビで見たことがあった、昔ながらのお弁当という認識。あえて冷めた美味しさを存分に味わいたいなという謎の儚さ。
これらが相まって最後はチキン弁当の腰をあげた(このときはベストな選択肢を見失ってしまっていた。どれを選んでも自分が正解にしよう、という覚悟で)。
無事に新幹線がスタートを切り、席についた僕は今日1日の災難を全てこのチキン弁当に預け、浄化させようとしていた。
開けたそこにはチキンライスと唐揚げの部屋が。
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冷めたチキンライスをそのまま一口に頬張ると、主張の強くない優しいケチャップライスが口に広がる。オムライスのそれというより、おかずに合うような優しい味わいに、どこか郷愁に耽る。
唐揚げには見たこともないレモン汁をたっぷりかけて。
ぎゅっとしまった揚げたてにはない一体感のある唐揚げにどこか安心感を持って食べ進められてしまう。
ジューシーさは皆無だけれど、噛むたびに広がる「唐揚げです」に目を瞑って浸りたくなった。
ちょっと苦手なお漬物兼サラダみたいなラペ風なものを食べ、そっと添えられたスモークチーズも合間に入れる。
温度のないお弁当はいつだってノスタルジー。
ただ、この冷えたお弁当を食べたくなるのも分かる気がする。
その感情にはいつだってチキン弁当が駅弁屋で待っていてくれて、昔から愛されて来たんだなと妙に納得させられた。
気づけば唐揚げを先に食べ切り、チキンライスがあと二口。
今日1日の楽しさも儚さも、全てこのチキン弁当が巻き取ってくれた。チキン弁当として、駅弁当として。
新幹線で食べる駅弁にはこんな包容力があったとは。
そう驚かされながら、上がった血糖値に負けて一気に眠りにつくのであった。
美味しいひとときに、ごちそうさまでした。
では、また次回。