「つわりの辛さ」は、なぜ透明化するのだろう
つわりがはじまり、人生最悪の3カ月に
実は秋に出産を予定しており、現在妊娠後期です。
今回が初めての妊娠なのですが、妊娠前までは「つわりの辛さ」を全く知りませんでした。
私はつわりが重い方で、妊娠悪阻(おそ)という日常生活がままらない状態になってしまい、1~5月まではほぼ外出もできず、自室で苦しみながら寝込むしかない生活が続きました。
普通の食事はほぼ取れず、特に2~4月くらいの時期は、ヨーグルトやパウチ型のゼリー、たまにおにぎりくらいを数口ずつしか食べられず、それすらも食べられずスポーツ飲料を飲んで何とかしのぐ日も多かったです。
食べないと気持ち悪い「食べづわり」と、食べると気持ち悪い「吐きづわり」を併発していて、何をどうやっても吐き気が止まらず嘔吐を繰り返していた上、嗅覚も過敏で食べ物をはじめ有機物のにおい、たばこやコーヒー焙煎など強いにおいなどを嗅げば吐き気をもよおし、寝ても覚めても気持ち悪い状態です。例えるなら、人生最悪の二日酔いが24時間3か月間ほど続きました。
嗅覚が過敏すぎて、かなり高気密な部屋に住んでいたにもかかわらず、遠くの家の朝食やコーヒーのにおい、電子タバコの煙で強烈な吐き気で目が覚め、睡眠もろくにとれませんでした。外食してきた夫がどの店で何を食べたかを当てたり、近所の犬の体臭の差も嗅ぎ分けられたり、犬並みの嗅覚を手に入れてしまい、苦手な臭いを嗅ぐたびに苦しかったです。
「よだれづわり」も途中から出てきて、よだれが口の中に溢れて止まらず、しかも飲み込むと膨満感で余計苦しくなるので吐き出し続ける必要があり、寝ている時に自分のよだれで溺れそうになって起きることも頻繁にありました。
ものが食べられないので、栄養が足りないことを示すケトン体も出てしまっていましたが、妊娠初期は母体の栄養が優先的に赤ちゃんに送られ、私自身の栄養が足りなくてもなんとかなります。水分が取れなければ入院した方がいいとのことでしたが、水やスポーツ飲料は飲めたので、ギリギリ入院は回避して、5月末くらいから徐々に症状が軽くなり、6月の途中にはつわりの症状はかなり軽減しました。(なお、今も軽減したよだれづわりやごく軽い食べづわり、おなかが大きくなったことでの苦しさはありますが…)
つわりがあらかた収まって振り返った今、疑問に思うことがあります。
「こんなに苦しくて苦しくて仕方ないのに、つわりの辛さってあんまり知られてなくない?なんで?」
尿路結石の激痛なんかはよく語られるのに、つわりはこんなに最悪の苦しみなのにスルーされがちなのはなぜなのか。
この辛さをリアルに覚えているうちに、私なりに分析してみようと思いnoteを書いています。
語られない理由①妊娠初期は公表しにくい
妊娠12~16週くらいまでは、流産のリスクが高くなっています。ちょうど、一般的なつわりのピークを乗り越えないと、安定してきません。
流産リスクがあっても公表した方が社会生活がスムーズなのでは…という意見もあるかもしれませんし、私も妊娠前は「妊娠発覚直後から伝えてもらえたら色々とフォローできたのに」と先輩妊婦さんに思ったこともありましたが、やはり妊娠してみると初期は伝えにくいなあと感じました。
結果的に無事に妊娠が継続できるなら、仕事の関係者や親族に早めに公表をした方が、何かと負担は少なかったかもしれません。妊娠後は、妊娠前なら難なくできたことが難しかったり、負担が大きかったりもするので。
ただ、公表後に流産になったら、流産したことを伝え直さなくてはならず、自分が気持ち的に乗り越えられていない中で悲しい報告をすること、流産について多くの人に知られていることは、精神的な負荷が大きすぎると思います。
また、人によっては出生前診断を受ける場合もあります。出生前診断の結果、妊娠継続を諦める場合もあるでしょう。様々な検査や診断を受けて、妊娠を継続できる、しようと確信が持てるまでは、つわりの症状も含め公表が難しいと私は感じました。
なお、会社の直属の上司にだけは妊娠がわかった直後に妊娠を伝えました。つわりの症状が重く仕事の進行に差し障るリスクがあったのと、会社では体調が急変したときに自分が妊娠中だと誰も知らないのは危ないためです。同僚への共有は安定期に入る頃、他部署への共有は産休前の最終出社日が見えてきたころにしました。
語られない理由②汚い話だから
つわりになって感じた、事前に抱いていたイメージとのギャップ。
「ドラマや漫画で描かれるつわりのシーン、きれいすぎ!!」
うっと吐き気を感じてトイレに駆け込み、ふらふらしつつもなんとか仕事や家事を続けつつ、優しい旦那さんや同僚にグレープフルーツジュースをもらってしのぐ…みたいな描写、ありがちじゃないですか?
そんな、きれいに描ける瞬間はほぼなかったです!
まず、つわりの症状が出はじめた初日から、ホットフラッシュのように体が火照りまくり、頭がグワングワン。最初の数日はまだマシでしたが、ほどなくしてまともに立っていられない日々が始まりました。グレープフルーツジュースくらいじゃなんの役にも立ちやしない。
そして、地獄の食べづわり、吐きづわり、嗅覚過敏、よだれづわり。
寝ても覚めても吐き気に襲われ、しょっちゅう吐いているし、なんなら顔も髪もゲロまみれ。お風呂に入りたくても、血圧の変化で吐き気がやってくるので、シャワーを浴びてもお風呂上りにまたゲロまみれ。
吐き気を感じてトイレに駆け込む時間もなく、座り込む時間すらなくて立ったままマーライオンのように家の壁にぶしゃーとゲロをまき散らしたこともあります。
よだれも出続け、飲み込むこともできず、枕元に置いたペットボトルや紙コップに溜めていました。不衛生なのはわかっているけど起き上がる元気がなくて上半身を起こすのがやっとなので、あれしか方法がなかったです。
こんな感じで、私のつわり経験談は8割がゲロとよだれの話で、こんな汚い話はしたくもないし聞きたくもなし、後から誰かに話す時も「吐き気とかがすごくて…」くらいにしか言いづらく、あの壮絶さはなかなか伝えられませんでした。ここに書きなぐっちゃいますが。
もはや、ゲロとよだれをまき散らす妖怪になった3カ月でした。ほんと、人間よりも妖怪とかゾンビに限りなく近かった。
実際にはどれほど汚くて壮絶でも、口をつぐむ人が多いだろうな…と思います。私はこの壮絶さを知って損はないと思うので、ここに書き散らしましたが、普通は汚物の話とかしたくないですよね。
語られない理由③理解されない諦め
つわりは個人差が大きいです。人によっては全くでないし、ごくごく軽くて日常生活を普通に遅れる人もそこそこいます。
だから、つわりが辛いと言っても、つわりが軽かった経産婦本人やつわりが重い人が周りにいた人からは、「大げさじゃない?」「あれくらいの気持ち悪さで仕事休んじゃうんだ」「妊婦はみんな通る道だから」「うちの奥さんはつわり中も普通に働いてたけど」くらいにあしらわれる可能性もあるわけです。
私も、自分がなるまではあそこまでキツイ症状が出る人がいるということを知りませんでした。
また、妊婦がどんなに苦しくても、胎児が順調なのもよくある話で、例えば切迫流産・切迫早産など母子の健康や生命に危機が迫っていれば心配されますが、そうでもなければ「妊婦さん本人が我慢するしかない」「胎児が健康ならよかった」と思われがちかなと思います。
私も「まだ出社できないんだ、つわりが収まるのにずいぶん時間がかかるね」と言われていたのを、また聞きで聞いて、本当に悲しかったです。
さすがに、つわりについて話して面と向かって「大したことない」なんて言う人は幸い周りにはいませんでしたが、正直全然ピンと来てなさそうな方もちらほらはいました。(そういう方にも、人生最悪の二日酔いが24時間3か月続いた、と言うと割とわかってもらえましたが)
つわりに限らず、体調の悪さの程度を他人に理解してもらうのは難しいことです。辛さについて話して軽くあしらわれるなら、口を閉ざしてしまおうと思うのは自然な防御反応だと思います。
語られない理由④出産と育児の方が大変
症状の重い長引くつわりは、希望も見えず辛いものがありましたが、瞬間的な痛さは分娩自体の方が激しいはずです。また、出産後にボロボロの状態でする乳児の育児も大変でしょう。
つわり後に経験する出産と育児の辛さに比べたら、つわりの辛さを忘れてしまったり、語るほどではないと感じる方もいるのかもしれません。
ただ、私がつわりが重いことをSNSで公表したとき、「自分もつわりが重いタイプだった。あのつわりに比べたら、出産と退院後の辛さも大したことがなかった」「産んだ後の方が大変とかいう人もいるけれど、個人差が激しいから気にしないで!つわりの方が大変な人もいる」という声もチラホラ寄せられました。
本当に、何が一番つらいかは人によるし、同じ経産婦さんでも産んだ子どもの数だけ違うつわりだったというのもよく聞く話です。
私はこれから生むので、つわりが妊娠~出産前後に経験する辛さの中で何番目にきつかったかはまだわかりません。
でも、いまつわりで辛くて仕方がない妊婦さんには、私が聞いた限りの話で恐縮ですが、「つわりでこれだけきついのに、出産と出産後の方がもっと辛い」と決まっている訳ではなさそうだということをお伝えできたら嬉しいです。
「母健連絡カード」もぜひ活用して!
こんな感じで、つわりの辛さって、イマイチ当事者以外には伝わってないと私は実感しています。
近年は、妊娠について理解のある男性上司も増えつつある傾向だと思いますが、辛さが伝わらないゆえに、職場で十分な配慮をしてもらえない妊婦さんもいると思います。
そんな時は、「母性健康管理指導事項連絡カード(通称・母健連絡カード)」も活用してください。
***・母健連絡カードに関する厚生労働省の説明***
母健連絡カードは、主治医等が行った指導事項の内容を、妊産婦である女性労働者から事業主へ的確に伝えるためのカードです。
事業主は、母健連絡カードの記載内容に応じ、男女雇用機会均等法第13条に基づく適切な措置を講じる義務があります。
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もし、周りに「大したことなくない?」「ずる休みしないで」「私はそんなに辛くなかったけど」みたいに、勝手な感覚で軽く扱われそうになったとき、感覚ではなく法律に基づいたこのカードが役に立つかもしれません。
妊婦さんの健康は、法律で守られているんです。
カードの知名度が低いので、パッと理解してもらえないときは、「男女雇用機会均等法第13条に基づく」という点を強調して、厚生労働省のオフィシャルな情報も併記すると、法務やコンプライアンスに明るい方や管理部門の担当者なら重要性を認識してくれる可能性が上がるかもしれません。
私自身の上司や仕事関係者は理解があり大変助かりましたが、カードを提出したことで、よりスムーズに配慮してもらえた実感があります。
また、かかっている産院・婦人科がカードの扱いに慣れていないかもしれません。
数年前に子どもを産んだ友人の中には、在宅勤務ができるようにカードを書いてほしいと頼んだところ、担当の女医さんに「私はつわりで辛くても働き続けた。休職をすすめる記載はしてもいいけど、在宅勤務を推奨する文言を書くつもりはない」と言われた人もいたので(ひどい話だ!)、どうしても理解のない病院だったらカードをスムーズに書いてくれる医師を探して転院するのも手かもしれません。
少しずつ改善しているとは思いつつ、すべての妊婦に優しい社会ではないなと思いますが、その中でも活用できる仕組みは活用して、安心して妊娠生活を送れる方が増えてほしいと思います。
職場や病院でつわりの症状を軽く扱われ、場合によっては退職や休職を迫られる方もいるかもしれません。収入面を考えると、できれば退職や休職は避けたいはずです。退職や休職は産休前の収入減につながるだけでなく、出産手当金・育児休業給付金の額にもダイレクトに響きます。状況や年収によりますが、もらえなかったときとの差額が数百万円程度になる可能性もあります。
会社の上司・担当者、医師の勝手な判断で不利な状況に追い込まれそうなときは、上記のカードも活用したり、何かあれば厚労省の労働局雇用環境・均等部というところが窓口らしいので問い合わせたり、なるべく有利な条件で産休に入れるようにできたらいいかなと思います。
最後に
ひとりでも多くの妊婦さんが、安心して妊娠生活を送り、出産の日を迎えますように。そんな気持ちで、このnoteを書きました。もし、誰かの役に少しでも立てたなら、辛かった数か月も少し報われるかも?
私の妊娠生活はあと1か月ほどで終わりそうですが、いろいろあった妊娠生活のことを忘れずに、いつか夫や子どもと「あんなこともあったね」「こんなことがあったんだよ」と穏やかな気持ちで振り返れたらいいなと思います。
パラレルキャリア研究所代表 慶野英里名
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