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Photo by
atelieryonaka
フェイスレス
ふと、窓ガラスに映る自分の姿に違和感を覚えた。
街を行きかう人々。
その他大勢の中の一人として自分がいる。
無名の群団。
自分はその誰でもあるし、その誰でもない。
そのことに焦りや苛立ちを感じていた頃もあった。
テレビや雑誌、そこから垂れ流される広告群は「特別な誰かになろう」と絶えず投げかけてきたし、それは裏を返せば「特別な誰かでなければ無価値」というメッセージでもあったから。
でも、今は安心や安堵を感じている。
自身そのものを大勢が認知して「特別」になってしまえば、もう他の誰かになることはできない。
否定されれば逃げられない。
無名の自分は、いくらでもそこから逃げ出せる。
服を、髪型を、首から下げる肩書を、変えてしまえばすぐに「他の誰か」になれるから。
その否定は「前の自分」に向けたモノ、それは「今の自分」とは「他の誰か」。
ふと、窓ガラスに映る自分の姿に違和感を覚えた。
映る自分は顔なし。
街を行きかう人々にも顔はない。
カバンから取り出したルージュ ココを塗りなおす。
口だけ書かれたのっぺらぼうが、こちらにニコリと微笑んだ。
おわりー、どうぞよろしく、よろしくどうぞ。
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