「奇跡の星」
1 心の結びつき
「あなた達は、お互いに相手を助けるために出会うことになったのです。これまで距離がたとえ遠く離れていたとしても、すぐにお互いのことを思い合い、心は通じ合っていたはずです」
目の前の「道士」と言われる人は続けて言う。
「それはあなた達は、前世から強い結び付きがあり、絆を感じていたからに他なりません」
ぼくも頷き、横にいる唯何も頷いた。僕は唯何が同じ気持ちで道士の話を聞いていることを理解していた。
ぼく達はそれからもじっと道士の話に耳を傾けていた。そしてひと言も漏らさないように努めた。
「二人が出会ったのは、明確な意味をもっています。まずあなた達は共に愛し合うということが運命づけられていたのです。それを反対されたから、問題が起こったからといって、簡単に解消するということは出来ないんです。無理にそれをしようとしても、いずれ行き詰まってしまいます。それはもう二人が運命付けられてしまったからなんです。それは二人の人生にとって、非常に重要なものとなります」
ぼく達はもう道士の言葉の中に引き込まれていた。
「人はそれは単に恋愛じゃないかと言うかも知れません。しかし、お二人にとってそれは、それぞれの人生、今まで別々に歩んできたそれぞれの人生が、はじめて一つになったということなのです。ここでお互いの人生が大きく変わってしまったのです」
道士は休むことなく話し続けた。ぼく達は頷きながらもじっと道士の口から発する言葉を受け入れていた。道士は次々に言葉を区切っては会話を続けていた。
「これは、別の言い方をすれば、過去世からのご縁が、現世に築かれたということで、二人の『宿縁』が実現した、ということなのです」
「二人は、恋愛を経験しましたが、一度別れることになってしまいましたよね。それはお互いにとって、とても辛く悲しい経験となりました」
「しかしそれから何年も月日が過ぎゆく中で、二人の想いはどうですか?」
ぼく達はお互いを見つめ合った。
「あなたは(とぼくに対して)唯何さんを忘れましたか?」ぼくは首を振って応じる。今度は道士は唯何を見て尋ねる。唯何もはっきり口に出して「いいえ」と言った。
「そうです。あなた方お二人共、相手のことを忘れるどころか、益々忘れられない存在になってきたんじゃありませんか?そして、ずっと離れてお互いのことを忘れている間にも、二人の絆は逆に深まっていったのです。深く、そして強くお互いを思うようになったのです。それは、それぞれ、その時々において一緒にいた相手との比較においてそうだったのですが、それだけではありません」
道士は少しいた場所から離れて、ある物を手にして再び同じ場所に戻って話を続けた。
「これはブルーレースアゲートという石です。チベットでは『神の石』と呼ばれ、二人の心と心を結びつける石です。日本では『青いめのう』とも呼ばれています。危険を回避したり、不思議な力を持つ石なのです。これをあなた(唯何の方を見て)に渡します。そうすれば二人はずっと離れずにいますよ」
そう言って手に持っていた少し青みがかった白く透明な石を道士は唯何に手渡す。唯何は「ありがとうございます」とお礼を言ってその石を両手の中で受け取って、そっと頬に触れさせるのだった。
ぼくはそのまばゆいほど不思議な光を放つブルーレースアゲートという聞き覚えがない首輪が唯何の手の中にあるのをじっと見つめていた。そして唯何はゆっくりと手にした石を自分の首にかけようとしているところだった。
ぼくは以前唯何がいつもネックレスを好んで身につけていたのを知っていたし、それを思い出した。唯何はなぜか少しの間手を止めていた様子だった。ぼくは唯何の手を握り締めて、その両手からその繋がった輝いた石をつまんで、そっと唯何の首にかけてあげるのだった。