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損害保険の原則について

以前のnoteにおいても、保険に向くリスク、向かないリスクとして書いておりますが、全ての偶然外来な事故に伴うリスクについて保険が最適であるとは考えていません。損害保険が成立する原則を満たしている事が前提だと思います。損害保険を取り扱われる方は商品や約款を学ぶ事も重要ですが、こうした原則論を学んで頂く事がまず大事だと思います。

偶然外来な事故に伴う損害は様々ありますが、そのリスクが損害保険でカバーされる事が望ましいかについては、いくつかの視点で考える事が出来ます。①同種同類のリスクが多数存在するか、②事故発生時に集積(一度に複数の保険事故を生ずるか)するか、③信頼に足りる過去の統計データが取りうるか、④外れ値として排除すべき要件を定義できるか、こんなところだと思います。

ファイナンスとしての損害保険の本質は保険会社の外部資本によるリスク保有です。つまり、同種同類のリスクならばリスクオーナーがそれぞれ自らの資本で自家保有するよりも、分散効果とスケールメリットの働く保険会社資本を活用する方が効率的ということになります。分散効果によってリスク保有に必要な資本は1+1=2ではなく、互いに独立のリスクであれば限りなく平方根、すなわち1.414に近付いていきます。引受件数が増えれば増えるほどスケールメリットが働き、必要資本量増分は低減されていきます。一方でリスクが互いに独立でない、集積リスクならば1+1は限りなく2に近づいて行くことになります。

つまり、住宅のリスクを考えれば、火災リスクは互いにほぼ独立なリスクであるが、地震リスクは地域毎に集積があるという事になります。火災保険料と地震保険料、あるいは地震保険については引受金額の制限がありますが、こうしたリスクプロファイルの違いによるものです。

こうして考えますと、昨今多くの企業が課題を抱える自然災害、特に台風や洪水などの気象災害リスクについては、①同種同類のリスクが多数存在は満たしているものの、②リスクは集積している、③気象災害による損害については過去からの統計データがありますが、昨今の気候変動の影響を加味すると必ずしも過去データが未来のリスク予測に十分でない、④洪水リスクの観点では、精緻な地形データや流体シミュレーションが可能となる事で、他場所よりも著しく洪水リスクの高い場所が特定出来るようになってきている、という変化があります。

最近では赤字の続く火災保険は毎年のように値上げが繰り返されています。主な要因は先に述べた自然災害リスクの増大ですが、そもそもリスクが独立な火災リスクと、集積している自然災害リスクをパッケージにしている構成にも限界が近いように思います。特に洪水リスクに関しては明らかなハイリスクエリアについては、逆選択性も強くなる事から、保険でのリスクシェアというよりも、政策誘導による土地利用規制なども議論されるべきと考えます。

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