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日系損保と海外損保のアンダーライティングの違い

一部日系大企業や官公庁にて、損保のカルテル問題が報じられており、監督官庁から各社に報告徴求命令が出されその報告から、100社以上の不適切事案が確認、契約者が「不当に高い保険料」を負担しているとの報道が出されています。勿論、法に触れる行為は許されませんが、各種報道では日系損保と海外損保の引受方針の違いなど、これまで日本の契約者が受けてきた恩恵について触れられていません。

大企業の契約は巨額なキャパシティを求められる事があるため、複数社が共同でキャパシティを拠出する、あるいは再保険で海外マーケットから追加でキャパシティを確保する事が通常です。各社の提供可能キャパシティを組み合わせて必要な保険プログラムを作っていく事を「パネルを作る」などと表現する事があります。

この時に日系損保と海外損保には大きな方針の違いが見られます。日系は大口顧客に対して数百億円規模のキャパシティ、また出来る限りシェアを大きく場合によっては100%でも提供する事がありますが、海外損保は数億-100億円程度と小さく、シェアも数%-30%程度と過半数を取るケースは稀だと思います。保険料水準はケースバイケースですが、一般には大口キャパを提供する日系は比較的割安、小口の海外は比較的割高と言えると思います。

日系損保は大口顧客との長期的な取引、従業員の団体扱契約や、サプライチェーンでの契約拡大など裾野の広い契約に支えられて、大口のキャパシティを提供します。契約者にとっては、安定的な大口キャパシティは毎年キャパ確保に奔走しなくて良いので大変助かります。また、複数の保険会社を起用する場合、条件や料率を統一するのにコストアップや条件悪化を伴うケースもあります。

海外損保は日系のような他のビジネス基盤を持たずに、リスクボラティリティの高い大規模契約のみを引き受けることが中心となる為、成績の安定化、リスク分散の観点でなるべく小さく、多くの契約にキャパを分散する事を好みます。また、日系に比べれば組織も小さいので、事故頻度の高い下層レイヤー(Working layer)は損害査定などのリソースがかかるため好まない、事故頻度の低い上層レイヤー(Excess layer)を好む傾向があります。

日本の大企業において、長らくリスクマネージャーが不在だった事は、このように日系損保が大きなキャパを大きなシェアで受け続けてくれたので、自らキャパを集める必要が無かったという点も大きく、海外のリスクマネージャーから見れば羨ましいマーケット環境だったとも言えるでしょう。

もっとも、日系損保自身も大きなキャパ提供のため海外から再保険を調達しており、海外マーケットからの圧力がかかっています。日系のキャパが減れば、必然的に日本企業の保険プログラムは欧米と同じく、「パネルを作る」必要が出てくる事になり、リスクマネージャーの活躍場所が増える事は良いですが、それはそれでコストと労力も増える事は許容しなければならなくなります。

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