企業にとっての賠償責任保険(その2)
事業活動を行う企業は当たり前の話ですが、リスクをとって収益を上げ、ステークホルダーに還元することを目的の一つとしています。リスクの中には保険移転可能なものもありますが、為替リスクや新規競争相手の出現、市場そのものの変化など、保険化不可能あるいは困難なリスクが多くあります。
株式会社の場合には、保険ヘッジされていないリスクは自己資本で保有すること事になり資本負荷がかかっています。保険移転可能なリスクは保険購入をする事で、資本負荷を軽減し、保険会社の外部資本で保有する事になります。財務的に自家保有可能であっても、不慮の事故による資本の毀損を防ぎ、将来の収益をもたらす事業投資機会の保全につながります。
企業が付保する典型的な保険として、自社所有の財物をカバーする財物保険と、事業活動から生じる賠償責任をカバーする賠償責任保険があります。もちろんどちらの保険も大切ですが、保険プログラムの高度化にはやはり賠償責任保険を優先させるべきと思います。
一つ目の理由は、財物損害は保有資産以上の損害が発生しないのに対して、第三者に対する賠償責任には金額上限がありません。最近の事例ではアスクルの倉庫火災事故により、段ボール回収業者に51億円という高額な賠償命令の出される事案がありました。
なお、本件は事案詳細は分かりませんが、同回収業者は過失相殺後100億円の賠償責任に負ったと報じられており、アスクルの受領した49億円の保険金を差し引いたとあります。火災保険に求償権放棄特約が付帯されていたのかもしれませんが、仮にそうだとすれば回収業者は段ボール回収請負業務で100億円もの賠償責任を負った事になります(アスクルの保険金受領有無は回収業者の賠償責任とは無関係の為)。
二つ目の理由は、上記の一つ目と関係しますが、請負業務契約などの事業契約においては、双方の責任規定があり、損害賠償に関する保険の規定が盛り込まれる事が多くあります。こうした契約書レビューと賠償責任保険契約は一体不可分であり、こうしたレビューを通じて保険だけでなく、契約上の責任上限設定などの交渉を通じて、上記のような巨額賠償責任をコントロールする可能性があります。
三つ目の理由は、プログラム組成の際に必要な情報や工程が財物保険より少なく済む点です。賠償責任保険の付保には加入する会社の売上高や業種など財務情報が主体となります。一方で、財物保険は付保対象となる財物の価額のみならず、物件の構造情報や消火設備、建築年度など、様々な非財務情報を求められますので、企業規模が大きくなればなるほど、情報収集の負担は増します。
四つ目の理由は、経営あるいはそれに準ずる方のの意思決定が必要である点です。企業の付保する賠償責任保険は自動車保険のような賠償無制限という契約は難しく、てん補限度額を設定する必要があります。幾らの限度額を設定するか?という事を意思決定する上では、どんな事故シナリオが考え得るのか、そうした事態を防ぐ、損害額を減らすためにはどうするべきか、というリスクコントロールの発想が自然と入りますし、損害保険の重要性を経営者が認識する事になります。
繰り返しになりますが、もちろん企業にとって財物保険も重要です。業種業態によっては財物保険の方が重要と考える企業もあると思います。しかしながら、企業活動を行う上では事故発生時の防衛ラインとしての賠償責任保険は極めて重要であると考える次第です。
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