請負契約と賠償責任
先月の話になりますが、2017年に埼玉県三芳町のアスクル倉庫で発生した火災事故に関して、原因となった古紙回収業者に対して94億円の賠償を命ずる判決が出されました。
発生事象は上記のとおりですが、巨大な倉庫はネット通販の浸透によりどんどん増えており、本邦建築着工統計でも2000年代後半から倉庫の平均床面積は右肩上がりに伸びています。
当該倉庫は鎮火までに12日を要しており、保管貨物も全損、大きな損害となりましたが、産総研のレポートにもある通り、大型倉庫はその構造や保管貨物の多さから消火が難しい事が指摘されています。
さて、冒頭のアスクルで発生した火災事故の原因となった愛知県の古紙回収を行う株式会社宮崎ですが、以下のプレスリリースを発表しています。
「損害賠償金の全部を担保する損害保険に加入しております」と発表されておりますので、賠償限度額無制限の自動車保険対物賠償の適用を念頭に置いたものと思います。自動車保険の対物賠償では、高額事例として2008年に発生した首都高でのタンクローリー横転事故(33億円)などがありますが、今回のケースは大幅に上回る金額ですので、自動車保険制度の安定的な運営のため、こうした事業関連のリスクは無制限引受出来なくなると思います。
ところで、事故を起こした株式会社宮崎はアスクルとの間で請負契約を交わしていた筈で、それに基づき債務不履行として今回の賠償判決が出されたものと思います。同社の請負金額は分かりませんが、間違いなく受注金額を遥かに上回る賠償額ですが、一定の過失があったにせよ、このような金額のリスクを請負業者が負う、かつその金額をカバーできる保険の手配も難しいとなれば、中小企業ではこのような請負業務は出来なくなってしまいます。
冒頭述べた通り、物流の高度化、効率化のため、倉庫は年々巨大化しており、その金額も高額化しています。どんな高額の荷物集積して保管されているか分からず、請負業者としては「損害予見性の有無」での抗弁は可能かもしれませんが、拠点集積による利益を荷主が取るのであれば、一定規模(請負業務賠償責任保険で一般にカバー可能な程度)以上の金額は荷主の物保険でカバーされなければ、巨大倉庫のビジネスは立ち行かないと考える次第です。
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