「前例がないからできない」という問題を知恵を絞って乗り越えていこう
「やったことがないことをどんどんチャレンジしていこう」
そういうことを社内で方針として出す会社は多い。いろいろな世の中の変化に応じたチャンレンジを企業はしなければならないし、新事業だったり、既存事業の変革などやらなければならないからチャレンジしていくことを求める会社がほとんどと言える。
ところが実際にチャレンジできていない場合が多いがどういったことが原因なのだろう。社内で起きる様々な原因について少し考えてみたいと思う。
■ 会社を変える機運が高まらないのは・・・。
社内を変えようとか、チャレンジしようと号令が係るわりには変われないのには様々な理由がある。
例えばチャレンジする許可をもらうまでに長い承認プロセスが必要になっていろいろな説明をしたり調査を山のようにやる必要があるので嫌になったり、否定的なことばかりいわれてチャレンジするのがめんどくさくなるようなことが社内で起きたりするものだ。
他にも実際にチャレンジした人が社内でどちらかというと輪を乱すような人のように扱われたり、楽して言われたことだけやるようにしようとする大多数の社員から煙たがれたりする事例も会社で多い。
また本来チャレンジして失敗することは、失敗ということを通じて経験をつめている時点でプラスであるわけだが、会社にいるとそんなことは思ってくれなくて、一度の失敗で出世コースから外れたり閑職につかされたりチャレンジする方が損をするような人をみているとチャレンジしないほうが得ということになる。
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外にも会社の方もチャレンジする人を特別あつかいすると年功序列が崩れてしまうことを恐れてあくまで平等に扱うことを重視する姿勢が強くなってしまう。そうなるとチャレンジする方が当然意味がないことになってしまうので誰もチャレンジしなくなってしまう。
あげていくと切りがないが、経営者や上司側にも問題がある場合が多い。リスクをとりたくない、自分のせいにされたくないということから、チャレンジするなら一人でやってくれと言われたり、チャレンジするまでに調査ばかりさせられることも多い。基本的に大きな問題は先送りにした方がいいし、会社としてチャレンジはしなければいけないが、自分がチャレンジするのではなく”どこかのだれか”がすればいいと思っている節があったりする。
このように、これらの様々な社内的な問題があってなかなか新しいことに向けて動いていけない現状がある。そんな状況を作り出している理由は他にもあってその大きなものに前例主義というものがある。
■ 前例主義をどう乗りこえるか
上記で書かせていただいたように、企業というのはやはりなかなか変われない理由というのが社内的にある。
そんな中でも「前例がないから」という理由で進まないということもあるのではないだろうか。「前例がないこと」を面白がって「新しいからやってみよう」となる会社はとても少ない。
提案した時に「あの時そういうことやったことがある」とか「過去提案したけどダメだった」とか前例がないと難しいということを言われた人も多いかもしれない。
なんとなく前例主義と聞くと、公務員や公共事業など税金で賄っていたり国家単位のプロジェクトなどでは強く言われるイメージかもしれないが、民間企業でも一般的な社内ハードルとしてよく出てくる。
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たまたま仕事として経営企画部で働いているぼくは、幸いにも現場の考えと経営者の考えと両方について深いところで大局的な両者とかかわるのでよく見える立場にある。人間関係から嫌な部分まで様々なことを見ながらもグッとこらえて働いているが、そういった思いを飲み込んで下痢をしたという話も聞かないので今のところ現場から経営者までのことを考えて会社にとって微力ながらベストな選択肢の方向へ進めるように努力しているつもりだ。
経営側からすると、前例主義をとるメリットとしては大きく失敗しないという一点にある。大きく失敗しないということは比較的今までのやり方をローリングで毎年続けていくにはちょうどいいし、管理もしやすい。今までのやりかたを踏襲した方が幹部から経営陣にとって変化はないので、同じマネジメントのやり方でやっていけばいいというメリットがある。
一方で会社として悪い面としては、大きな失敗もないかわりに成功もしないことがいえる。業績が対して変わらなくてもいいのであれば口だけ大きいことをいって社員を鼓舞して命令しておけばよいので大きく成功する必要はないが、変わらなければならないほど基盤である事業が悪化したりこのままでは将来が見通せないという場合にはとても危険な状態となる。
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経営者が逃げ切り型で先送りにしたいという思いをもっている一方で、若手からすると今から改革して変わっていかないと時間がなくなっているというところで考え方のギャップが最大化してしまいとても良い会社の環境とは言えなくなってしまう。
こういった現状に直面しながらなんとか経営企画にいる自分としてはよりよい方向に会社をもっていくような画策をしたり、たきつけたり、引っ張ったりいろいろな仕掛けを作りながら前に進ませようという仕事をしている。
前述の通り、前例主義という強いこびりついた意識をいかに変えていくかというのは大きな課題であり、経営者を変えるなどしない限り難しい場合が多いが、社員であるぼくらのその権利はないのでそういった手段はとれない。
大事なのは前例がないとできないという体質を少しずつ変わるような後押しをするというポイントをちゃんと理解して経営陣を責めるのではなくうまく巻き込んで会社を変えていく雰囲気をつくるかということが重要になる。
では具体的にどういったことをしていけば前例主義を弱めることができるか。実際にぼくが会社で仕掛けとして作ったものをご紹介したい。
■会社の許容力を上げる仕掛けを色々作ってみる
まず、考え方として前例主義の温床になるのは「マネジメントはイレギュラーを嫌う」という現実を受け止める。管理できないことをよしとする人は相当懐が深いか変わっている。普通のサラリーマン的に上がってきた人はだいたいイレギュラーは管理できないので嫌がる結果として、新しいことにチャレンジしたいとは思わないということを、否定的ではなく、そういったものだと理解する。
この背景にあるのは「減点主義」というもう一つの悪しき週間で、前述したとおり失敗=悪という考えが会社にこびりついている。この減点主義についても、そういったものであるということをそのまま一旦受け止める。
このように「イレギュラーを嫌うこと、減点を恐れていること」という2点を問題の根本原因と考えてそれを回避するような施策を打っていくと徐々に変わっていく雰囲気を作れる。
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例:イレギュラーなことをレギュラーな活動にしてしまう。
→時々発生するので「あーだーこーだ」言われるのであって、常に発生していれば常に発生することがレギュラー化すると考えてみる。たとえば年間の定例会議を月次で組んでしまって前例がない新事業や会社の新しい仕組みについて検討する会議をレギュラー化してしまう。最初はいろいろ言ってくる人も多いかもしれないが、そのうちに同じ発言ばかりもしているわけにもいかないので、上手くファシリテーションをしていくと「とりあえるこの5つの中でこの1個からやってみますか、次回トライアルの結果をちょっとレビューしましょう」という形でスモールスタートがしやすい状況をレギュラーで作ってしまうと、定例化することでマネジメントも安心して予定を組めるし最初から参加してもらって「アドバイスをいただけますか?」といった具合に積極的に「あーだこーだ」をもらいにいけばガラッと支援側に回る人も結構多いのでお勧めだ。
例:前例がないことをやるリスクを可視化する
前例がないことだけで色々言われる場合が多いので、その議論になっているリスクを可視化するということも結構使う。
会社全体の予算や事業活動の全体像を共有し、今はなしていることがどれくらいの規模感の話なのかということを客観的に共有してから議論をスタートするようにすれば、なんだか話が大きくなって全社的なリスクのようなコメントを受ける確率が激減する。
また、議論の途中で「最大のリスクはどういったことが想定されるか」ということを提案側から話して、それがいかに起きにくいことなのかということを示して、「実際にはこれくらいのリスクです」ということを説得力をもって説明すれば前例がないことを理由にチャレンジしないというハードルを下げることができる。
初期から情に訴えるというやり方は最悪で、それこと前例がないからNGということを言われて終わってしまう。「いまやらないとだめなんです」とか「なにもチャレンジしないということですか?」とかそういった形でまくしたてると否定的なことを言うひとは一生その案件について否定的なことしかいわないので、万が一失敗した場合に「ほら見たことか」と言うに違いないのであまり得策とはいえない。
理想はその人も巻き込んでしまって、その人には火の粉がかぶらないように安全な立場にその人を置いたうえで、グッとこらえながらアドバイスをもらって「まあいいんじゃない」と言わせる関係をいかに作るかという1点であり、そうするために経営企画や、あらゆる企画提案をする部門は意識しておいて損はない。
例:あらかじめチャレンジできる枠を作ってしまう
予算外の活動というのはイレギュラーの代表格なので受け付けないのが幹部やマネジメントといえる。M&A案件を担当していることから結構な費用が検討にかかったりすることを色々言う人はいるが、経営企画の立場をうまくつかって「社長マター」にしてしまって乗り切るということをぼくはやるが、普通の事業部門にいたらこのやり方は通じない。
なのでどうするかというと、チャレンジ枠というのを作ってしまって予算を取ってしまう。予算の決算権限は新しいことに比較的理解があって会社の課題をよく分かっている人につけてしまって、あとは予算内で現場でうまくやれるような体制を早期に作れればあまりごちゃごちゃ言われなくなる。
こういった枠を作る際には一方的に予算を要求するのではなく、全社の投資資源の配分をしっかり認識したうえで「これくらいはチャレンジにまわさないといけない」というようなことを経営側が意識している株主への対応につながるというメリットを示しながらうまく打ち出せれば一定の規模でうまく自由度をもちながら重要な点は経営に報告しながらやっていけるようになる。
■まとめ
このようにいろいろな施策をうまく使いながら、前例主義というのを乗り越えていかなければならない。先人たちと敵対的にやってもいいことは一つもないので、知恵を絞りながら根気よく色々な仕組みをうまくつくっていくしかない。そしてここぞという最後の押しの一手で情に訴えるという手段を使えば変わっていけるチャンスというのは作っていける可能性があがるとぼくは思っている。
どこの会社にもチャレンジするように声高に吠えている上司がいて、現場がチャレンジしないと嘆いている人は会社にいないだろうか。
外資系で結果が全てでなんでもありという会社であれば別だが、一般的な日本企業では恐怖を与えて尻を叩くというスタイルで良い結果はでない。このスタイルが効くのはあくまで結果を達成したらものすごい報酬をもらえるような場合なのでそういった制度を適用できない多くの日本企業では導入が難しい。
安定をもとめてチャレンジをもともとする環境にいない日本の社員にチャレンジしてもらうには、上司や経営者からチャレンジをするという姿勢をみせることと、しっかりと制度や会社の計画としてチャレンジするということを入れていくことではじめて実現できることだとぼくは思っている。
会社でこういった提案をしているがなかなか保守的な会社なのでそういった考え方すらなかなか取り入れてくれないことが多いが、あきらめず心ある人に布教活動を繰り返して伝染させていっているところだ。
チャレンジして成功も失敗もシェアできるチームを自分の部署で作りながら制度まで落とし込んで楽しく働ける会社にしていけたらなあ。
Keiky.