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男社会で負けて男をやめた話


まず、私は男社会で完全敗北した男です。
もう2度と社会に戻ることはないでしょう。

『強い男』
になりたかった男でした。

警察官。現場作業員。前科者だらけのブラック企業。
・・・これまで私が勤めてきた会社はどれも、過剰なほど『男らしさ』を求められる男の職場ばかりでした。

男は男らしさを求められるあまり、
苦しんだり、苦しめたりしてしまうことがある。

最近では「男は弱くても良い」という意見をたびたび見かけるようになり、そういう考え方がもっと広まって欲しいと願って、これを書きたいと思う。

これは一人の弱い男が感じた、男社会の末端の話です。



■「私は男だったのか?」

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社会はこういう『刷り込み』で溢れている。

私はスイミングのコーチを2年ほどしていたことがあるのですが、親御さんがよく「男の子でしょ!」と叱る姿を見て違和感を感じたものだ。

親が「男は男らしく」と言うなら。
子供も「男は男らしく」と言うだろう。

私の場合もそう、「女と遊ぶなんてきもい!」と周囲の男の子に責め立てられて、結局女の子と遊ぶこともやめてしまった。

だけどそうしなければ
男から仲間ハズレにされる。

虐められるかもしれない。

「男らしい男」になるしか無かったのだ。
私はきっと男に生まれたのではなく、

男になったんだな。




■「男だから頑張れというアレ」

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家が貧しかったので15歳になると、現場で働き始めた。

現場とはまさに「男の世界」
男だけの男による男の職場。

辛くて涙を流せば「男が泣くな!」
疲れて倒れると「それでも男か!」

頑張る理由のすべてが「男だから~」なのだ。
それで筋が通ってしまうのが男の世界。

・・・それがカッコイイとすら思っていた。

私はどうにか『男』になりたかった。
男の世界で男らしく生きていきたかった。

格闘技を習い。ウェイトトレーニングに励み。
中学時代から日雇い労働で汗を流し日銭を稼ぎ。

警察官になるという夢を掲げ。
『強い男』を目指しました。

自分で金を稼ぎ。自分の体を鍛える。
自立した男。屈強な男。腕っぷしの強い男。

それが正しい生き方だと、
微塵も信じて疑わなかった。

■「男らしくない男が排除される世界」

そして18歳で警察官になった時も
そこは現場仕事と全く同じ「男の世界」だった。

情けないことをすると怒鳴られ殴られる。
「男だろ!」「警察官だろ!」に変わっただけ。
「警察官だろ!」「男だろ!」も意味は全く同じ。

その一言で、ほとんどの問題を片付けようとする。

このように男の世界というのは
『説明が乏しくなることが多い』

職人がよく「見て覚えろ」と言うが、アレはコミュニケーション能力とかマネジメントの知識不足を誤魔化しているだけだと思う。

古くから良いとされてきた(儒教的な)習慣や文化であれば、特に考えず「良し」としてしまうことが多いし、目上の人や古い考え方を「おかしい!」と言えば「言い訳が多い男らしくない男」にされてしまう。

ちなみに仕組みの矛盾や欠点を突くことは、何故かそれに従っている男の男らしさをも傷つけることにもなってしまう。

きっと「仕組みが悪い」と言われて怒りだすのは、
仕事と自分を同化させてる男性が多いせいだと思う。

「仕事が生きがい」・・なるほど男らしい。

そして男らしさを傷つけられた男は・・・

ただ怒る。

「うるせぇ!!言い訳はいいんだよ!!」
「そんなこと当たり前だろ!」「説明するまでもない!」

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この「ただ怒る」はとてもやっかいで、本人もなぜ怒っているのは理解できていない。(刷り込みによるものなので)

無意識のうちに、反射的に怒っているのだ。
だから「男らしくない奴が許せない」とは口にできない。

怒りの理由を求めても「当たり前だろ!」と説明できなかったり、
全く違う何かで揚げ足をとろうとしてくる。

相手を大声で恫喝したり、力を振りかざす。
頭ごなしに黙らされた結果、古い仕組みが変わることはない。

それは現場仕事も警察も同じだった。

つまり私が教えられた「男らしさ」とはこのような内容だった。

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シンプルにハードル高いなぁ・・・・


男の世界で・・・『男らしく』なれない男は、
虐められたり強制的に排除されることもある。

私も男社会で敗北して排除された側の男だからわかるのだが、男らしくなれなかった男が感じる劣等感と喪失感は耐え難い。

『男なのに男になれなかった』

そのような錯覚は自分の根本を否定された気になる。

私も警察を辞めさせられた後、自分を責め続け、
10数年もの間、うつ病で苦しみました。

男性の自殺者は女性の2.2倍にもなるのだが、
その原因の『一端は』ここにもあるはずだ。



■「抜け出せない男の世界」

営業の仕事に就いてからも、
そこは相変わらず『男の世界』だった。

男らしさを求められる環境には法則がある。
「変われない組織」と「変わらなくていい組織」

伝統的な大手企業は「変わらなくていい」
今のままで十分儲かっているからです。

社員はみな高学歴の高待遇。そして社内には『鬼のような社訓』『鉄の掟』がデカデカと掲げられている。優れた人材の集まりにも関わらず、なぜかパワハラや過労死などの反社顔負けのニュースが流れてくる。

これは古い体質が時代を超えても美徳とされ。
『輝かしい伝統』として受け継がれ続けているせいだ。

『今が良い。なら変わらない』

そして私がなぜ「男らしさ」を過剰に求められるような職場ばかに入ってしまったのかというと、その理由は明確で『誰でも入れるような敷居が低い会社ほど、男の世界になりやすい』からです。

ヤンキーの世界を思い浮かべてもらえば、理解が早いと思う。

不安定で弱い企業は人材不足。経営もいっぱいいっぱい。
社長もワンマン。誰の言うことも耳に入らなかった。

『余力が無い。なら変われない』

・・・1度このループに入ると、なかなか抜け出せなかった。

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私たちの間では鉄板ネタになっていた。
「酒が飲めないならドレッシング飲め」ということだ。

これぞまさに男の世界といったノリ。男の世界。
そしてこの『体育会系』には当然にある不文律がある。

『先輩の言うことは絶対』

酔いが回ると。先輩は必ず『女』を欲しがった。
私たちは女性とは無縁。モテない男たちだ。

「おい、あそこの女の子に声かけてこい!」
そうやって先輩が私に無茶ぶりをする。

「オスッ!行ってきます!」

もちんナンパなんて迷惑行為したいわけがない。しかし先輩に逆らうことはできない・・・そしてナンパが失敗して帰ってくると、

「つかえねーな!」
となじられる。

私はよく男の仲間から「つまらない奴」と言われた。
いや、その通りだと思う・・・・間違いない。

私は酒も一切飲めず。面白い話もできず。
下ネタにも乗れず。愛想笑いをしてるだけ。

さらにEDだったせいもあってか、飲み会が終わったら「おまえは帰れ!」と先輩に追い払われ、いつも一人で帰らされた。

他のみんなは酒を飲んだら。次はキャバクラ。
オッパブ。そして風俗へ行く。

これが大人の男が酒を飲んだ後にする『夜の付き合い』というものだが、なぜ男たちはみんなで風俗に行きたがるのか真剣に考えてみた。

男の世界では多数の女性と肉体関係を結ぶことを、
「男らしい」とか「誇り」とする習性もある。

つまり・・ただの性処理ではないのだ。
『女で遊ぶオレはカッコイイ』という思想がある。

性行為をした女性の数を競う男も多い。

私には解し難い話だが・・・・
とにかく私は男らしくはなれなかった。

だから私が『女の世界』へ行くのは、
至極当然の流れだった・・・


■「女の世界に入ってわかったこと」

女の子とまったく縁が無かった私だが・・・
ふとしたキッカケで周りが女性だらけになってしまった。

あれは先輩と同行営業に行った時のことだ・・・・

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私はもともとはテレフォンアポインターだったのだが、営業部署に移ってからこのY先輩と行動を共にするようになった。

私は「オスッ!荷物持ちます!」と言っていつもカバンを持って差し上げた。すると先輩は喜んで私をかわいがってくださった。

しかし私は女性に優しい男ではなかった。バリバリの体育会系だった私は『先輩だから』気を使ったのだ。恐らく誤解だったのだが・・・

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しかし先輩は学歴や経歴は圧倒的に社内NO1だった。
(まぁそもそも大卒がいない会社だからね)

・・・先輩は話してみると非常に聡明な方で、話も理路整然としていた。会社の方針で不明瞭な部分があると、社長にすら直訴して「これはおかしいです!」と、いつもハッキリものを言う女性だった。

そう・・・ああ・・・・あと忘れられないのが・・・・
「お年寄りを騙して、長期契約を結ぶのはオカシイ」
という意見を先輩が言っていた時のことだ・・・

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「詐欺まがいな商売はやめよう」というゴリゴリの正論だった。

・・・・ありゃひどかった。
こうやって女性を下に見るのも「男らしさの通例」だ。

女性の意見が通るのは男の恥。
女性が自分たちより賢いのは恥。

たぶん私がそういう先輩をバカにした態度をとらなかったから、気に入られたのだと思う・・・

Y先輩は営業のついでに私をよくランチに誘ってくださった。最初はあまり気乗りしなかったが・・先輩の誘いは断れない。

その『ランチ』にはいつも
色んな女性が大勢やってきた。

6人の女性と男性1人。そんな感じ。

私は喋らない。もともと無口なのだが、
女性と話すのは特に苦手だった。

さらに先輩たちはチョコチョコと、
英語で喋るから余計にわからない。

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・・・・・・一言もしゃべらなかった。

とりあえずニコニコ笑って座っていただけ。
・・・ランチが終わった後はホッとした。

(これでもう呼ばれないだろう)
そう思っていたのだが・・・

しかしなぜか・・・その次もその次も、
何もしていないのに食事に誘われ続けた。

面白いこと一つも言ってないのに。

しかしまぁ考えてみれば、私はもともと無口。
喋らなくていいならそれが一番だった。

食事に来る女性は毎回入れ替わる。

そんなこんなで半年ほどボーッと参加して、
・・・『男の世界』との違いに気が付いた。

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相手を間違えると男性だったら、
「甘えるな!」と説教され怒られることすらある。

ところが女性の場合は、
真剣に相手の悩みを聞いてあげることが多かった。

男性社会の生きづらさを感じた。
・・・察した私は女性になら愚痴を言えた。

すると・・みんな親身になってアドバイスをくれた。
それが・・・・本当に嬉しかった・・・・

で・・・・・気付いたんだ。

私は人付き合いが苦手だったんじゃなかった。
男社会特有の・・あの・・男の文化が苦手だったんだ。


■「男をやめる時」

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まぁそう難しい話ではなく・・・

「女の子と飯を食いたい」
という
先輩たちの意向を無視して、そのまま解散、帰宅した。

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ばいば~い。


・・・・次の日、やっぱりT先輩から呼び出された。

何をどう言われるんだろう・・・
ドキドキしていってみると・・・

そしてオフィスのみんなの前で、
先輩は大声で私に向かってこう言った。

「こいつ女3人も連れてメシ食ってたんだぜ!!
 なんかメッチャ頑張ってて痛かったわ~」

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(あっそんな感じで怒るんですね)


他の同僚もそれを聞いて茶化してくる。

「おまえどんだけ性欲強いんだよ!」

「女3人も連れてたの?やるじゃん~」

それを聞いてみんなが笑う。
同僚や先輩たちがバカにしたり。
変な褒め方をしたりもする。

彼らはコレの何がおかしいかもわからないのだ。

ただ『男性1人と女性3人がゴハンを食べていた』
・・・・・たったこれだけの話だ。

それを『男目線』で見ると・・・・・・

「男が女を3人を連れて遊んでいた」
「女ったらし」「女好き」「ハーレム」

このような解釈になるらしい。

つまりこの話で言いたいのは・・・
「男らしさ」「男社会」というものは、
このように「女は男が従えるもの」
というような偏見をも生み出してしまう。

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「か弱い女性は男が引っ張らないと何もできない」
そんな風に思ってるのかなぁ・・・・

ああぁ・・・・・しかし男の世界は不思議だ。

幼い頃は「女と遊ぶやつはきもい!」となじられ。

それが大人になるにつれ徐々に変化して、
「女にモテないやつはきもい!」になる。

あれはなんなんだろうね?

・・しかしすべての年代で共通して言えるのは、
女性に好かれた男は叩かれるということだ。

これはつまり「誰が女性にモテるか?」
そこで競い合おうとするからだ。

『男らしさは優劣を競わせてしまう』

私は「焼肉行くからついてくる?」と言われたので、
お供しただけで、むしろ連れられて行った側である。

自分から誘うことなど無い。
みんなただの食事友達だ。
楽しく食事をしたらそれで解散。
それ以上のことはない。

こういう男たちが張るレッテル。
競争。思い込み。マウント。

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男性たちから離れて、女性たちと付き合うほど、
・・・・・どんどん嫌気がさしていた。

ウンザリ。もうウンザリだった。

私は男社会と男友達とも距離を置くようになり、
飲み会にも参加しなくなった。

私は男らしい男ではないから、
どこにいっても必ず男たちに負けるし、
弱い男として扱われ大事にされないからさ・・

男の世界には居場所がないと悟ったんだ。

■ 「男らしさを捨てる時」

・・・それから・・・何年かして・・・
女性の集まりで食事をしていると・・・

こんな妙なことを言われた。

「〇〇くんって女の子みたいだよね~」

「えっ?」

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・・・一瞬・・・・・・
バカにされているように感じた。

・・・・しかし嫌味な感じはない。
周りの女の子もそれに賛同する。

「それ!私も思ってた~」
「そうそう!女の子だよね~」
「見た目は男っぽいのにね?」


なんていうか・・・そう言われて・・・
・・・不思議と楽な気持ちになった。

私が男社会で教えられてきた理屈では
男に向かって「女みたいだ」と言うのは
侮辱だったと教わったハズなのに・・・

・・・・・ふと幼稚園の頃に捨てた、
あの髪留めのことを思い出した。

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「女みたい」と言われて捨てたあの髪留めだ。

あの髪留めは・・・あれから・・・
どこにいったんだろうか?

あぁ・・・・そうだな・・・・
女の子みたい・・か・・それもいいよな・・

少しづつだけど・・・いつからか・・・
そんな風に思えるようになっていた。


・・・私は「男らしくなりたい」と思いながら
それが出来なくてずっと苦しんできた。

男社会で負け続けてきたことも、ずっと後悔してきた。
警察官も・・現場仕事も何もかも・・ダメだった。

・・・・・そして結局、どうだ・・・・

仕事を辞めて男社会そのものから離れた。
今は沖縄の田舎でひっそり暮らしている。

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もう2度と社会には戻らないだろう。

「私は弱かった」それが人生の結論だ。
弱い男。男性社会の敗北者そのものだ。

・・・・しかしこれが、これだけのことが口に出来なかった。
『男らしさを求める男は、弱い男を許さないからだ』

弱さを口にすれば何かしらの理由をとってつけて、ただ怒る。
まさに・・・それこそが男の呪いだも気づくこともない。

「男は男らしく」「強くあれ」という長い間それが正しいと教え込まされてきた男たちが、その自分の弱さを認めるのは困難だ。

・・私はずっと誰かに言ってほしかったんだ、
「男らしくなんて、なくていいんだ」って。
「そのままでいいんだ」って。

もっと早く自分の弱さを認められればよかったと今思う。・・・私と同じように男らしくなれず。強い男になれず。自覚も無いまま見栄や面子のために苦しんでいる男性も多いと思う。

・・・だからこそ言いたかった、
君は君のままでいい。

誰かが思い描いた「男」という理想のために、
君らしさを犠牲にしちゃいけない。

もっと弱い男の弱さが認められる、
そんな社会になって欲しいと願う。


おわり

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