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チワワのこすも
2023年7月24日、16歳と3ヶ月で私の愛犬・こすもが現世から旅立った。
今まで3匹飼ってきた中でも長寿だったこすも。
こすもを飼い始めたきっかけは、その前に飼っていた犬を亡くしたことだったと思う。
私は思いの外ペットロスになってしまっていた。
当時付き合っていた人と別れたばかりだったこともあったと思う。
毎朝起きても悲しくて毎晩眠りに落ちる前も悲しくて、どうにもならなかった。
そんな時に気分転換にペットショップへ立ち寄って、まだこすもではなかった「こすも」と出会う。
こすもはいわゆる可愛い盛りを過ぎたお買い得犬だった。
個別にケースに入れられているのではなく、他の同志たちと一緒にお粗末なサークルに放たれた、
いわば社会性の身についた犬だった。
誤解のないように言っておきたいのだが、可愛い盛りを過ぎたとて、お粗末なサークルに入れたれたとて
必ずしもそれが悪いわけではない。
可愛い盛りはどの生き物にもある。
それに犬としての社会性を備える機会を持てなかった犬は、犬社会では弾かれ、自分自身からも馴染もうとはしない。
こすもを飼う前の2匹は全くそれであった。
初めて出会った、こすもになる前の「こすも」はそれはもう可愛く、犬らしい犬だった。
サークルの中で飼い主を待つという感じではなく、他の犬とかけっこを楽しんでいた。
なんならこのままずっとこうして遊んでいたいというような雰囲気すら感じる。
私自身、今まで飼ってきた犬たちとは真逆なこの子に一目惚れした。
犬が好きな犬ってなんて素敵なんだろうと感じたのだ。
この子をドッグランに連れていけば、きっと楽しそうに走り回るのだろうなと妄想した。
店員さんに抱かせてもらうのだが、全然私に見向きもしない。
早くかけっこに戻りたくてしょうがない。
そんなところに惹かれた。
実家暮らしだった私は、自分で資金を出すとて親の了解を得ないといけなかったので、その時は話を持ち帰ることにした。
親は案の定、反対だった。
前の犬を亡くしたばかりで、亡くなる姿を想像できてしまうなら飼う選択はしたくないと言った。
その気持ちは私も同じだったが、ペットロスにいいのは新しい子を迎えることだということもわかっていた。
色々話し合った結果、その時は泣く泣く諦めることとなった。
「あんなに可愛かったのだ、すぐに売れてしまう。」
その事実に直面したくなくて、しばらくそのペットショップへはいかなかった。
それから3ヶ月ほど経って、何気なく気持ち新たにそのペットショップへ行ってみると
なんと「こすも」はいたのだ!
よく考えれば人には愛想のない犬である。
たくさんの人に抱き上げられただろう、誰が自分と添い遂げるかなんてわけが分からなくなっていたはずだ。
諦めのような気持ちだったのかもしれない。
今思えば、そんな悲しみを抱えて嬉しさなど期待するほど裏切られるような、そんな人間どもに愛想は振り撒くだけ無駄だと思っていたのかもしれない。
そんなこすもを「この子がいい!」という人など稀なのだろう。
今度は親をどうにか説得して、飼うことを承諾していただいたのだった。
あれから3ヶ月も売れ残っていたことに、いたく感動した私はこれを運命とすることとした。
つい10日前の出来事だった、と思っても違和感のないくらい、私にとっては鮮明な記憶である。
名付けた名前は「こすも」
当時、妙にマツダの最高峰迷車ユーノスコスモが自分の中でブームになっていた。
昔は燃費が悪ければ悪いほどかっこいいという謎理論が横行しており、見た目も派手なわけでもなく、
むしろおじさん臭い車ではあったが見れば見るほど渋カッコよくて、
コスモってかっこいい名前じゃないか!と、そんな理由で名付けた。
※余談ですが、ドッグランで突っ走るその姿はユーノスコスモのような直線番長そのものでした。
ただし、こんな痩せっぽちなチワワに命名するのである、かっこいいより可愛い方がいいに決まっている。
と、いうことでひらがなで「こすも」にした。
チワワには体格のタイプが2通りあって、
いわゆるチワワらしいふっくらと丸タイプをドワーフ、足長でシュッとしているタイプをハイオンと言う。
我が家は前に飼っていたチワワはドワーフであり、こすもはハイオンだった。
毛色はブルータン&ホワイトという、ホワイトカラーベースでトライカラーのような配色の黒い部分がアッシュのような色だった。
今流行りのくすみカラーといってもいい。
子供の頃のこすもは本当に痩せっぽちでそのせいか耳が巨大に見えた。
そして尻尾の先っぽはカギ尻尾になっていて、曲がっていた。
可愛いけど、貧相な感じもした。
それは大きくなるにつれて、変わっていく。
欠点をカバーするように、尻尾は誰よりもふさふさと立派に育ち、誰に会っても尻尾をまず褒められた。
子犬の頃に甘噛みすることはどの子でも多々あるだろう。
こすもも例によってよく人の手を噛んだので、噛んだときはこすもの前足を同じように噛んでやった。
そうすると本気で噛むことをやめたので、効果があったのだと思う。
そして人の足をべろべろ舐める癖もあった。
舐めると怒られるのを知ってから、自分の前足を舐めているふりをして一緒に人の足も舐めるようになった。
こちらは怒るに怒れなくなった。
飼う前から憧れていた、ドッグランにも連れていくこともできた。
しかしながら、こすもと同じくらい犬好きな犬はそこまでいなくて、よく他の犬にしつこく絡むので怒られていた記憶が多い。
一度、同じ体格のチワワがこすもに合わせて走ってくれたことがあった。
その飼い主さんがその子を呼んだ名前が、初めて飼った犬の名前だったのでびっくりしたことがあった。
一緒に走っている姿が本当に可愛くて感動した。
散歩中に大型犬に挨拶しにいくこともあった。
背の高い犬に、背伸びして鼻チューをしにいくこすもの姿が可愛かったのと、大型犬の飼い主さんが逆に怖い思いをするという記憶。
チワワというと勇敢で歯向かっていくイメージがあるのか、吠えかかることのないこすもを見て肩透かしをくらう人も多々いたと思う。
とにかくこの子はチワワらしくなかった。
そして、きっと私のことがとても好きだったと思う。
実は私はこすもを飼い始めて数年後に今のオットと半同棲となり、その住処にはこすもは連れて行けず
しばらくオットの家と実家を往復する生活を送るようになった。
そしてさらに数年後には完全に同棲になり、約10年ほどは毎日一緒にいられない生活だったかと思う。
この時期はこすもに寂しい思いをさせてしまったが、母がしっかり世話をしてくれたおかげでそれぞれに生活を分けることができた。
そのうち私はマイホームを建てて、その時にはこすもを呼びたいと思っていたのだが、
その時すでにこすもは13歳となっていた。
年老いてから新しい環境、しかも実家のように毎日家に人がいるような状況じゃないのが気になって、結局実家で面倒を見てもらうことにした。
そのマイホームにも2回くらい連れてきて、シャンプーをしてやり一緒に眠った。
外を散歩すれば元気に歩くし、すれ違う他の犬にも挨拶に行き、その飼い主さんに年齢を聞かれて驚かれる。
それがここ1年ほどで急激に年老いていったのだった。
とはいえ、私の職場と実家が近いこともありたまには帰りに家へ会いにいくこともあった。
亡くなった日、仕事帰りに実家へ行こうかどうしようか考えていたのだが、家でやることもあったのでそのまま帰った。
帰って一息着いたところで、携帯に姉から着信があり、掛け直すと「こすもが動かない」という。
一瞬で血の気が引いた。
明日ももちろん仕事だったが、とにかく今から行くと告げて車で実家へ向かったのだった。
実家に着くと姉が玄関でタバコを吸っていた。
こすもは?と聞くとケージで横になってると。
家に入り、こすものケージを覗くと向こう側を向いて横になっていた。
こすも、と声をかけて触れるが息もない。
なんとなく暖かいが、いつもと違う様子に愕然となり、涙がとめどなく溢れ出る。
タオルで包み、抱き抱えると頭がだらんとした。
もう「こすも」は既にここにいなかった。
ひとしきり泣いて、姉が段ボールを探してくると言ってくれて、その間私はずっとこすもを抱きしめていた。
いつもなら、すぐに下へ降りたくて暴れるのにそれさえできない、この日はずっと抱かせてくれた。
誰もが誰もを失うとき、とにかく「生きているうちに何かできたのではないか」と後悔が押し寄せてくるのだ。
ずっとごめんねと謝っていた。
前途の通り、私はこすもをただ家に連れてきて、数年しか世話をせず、ずっとそばにいてあげられなかった。
こすもが幸せでいたかどうかなんて、知る由もない。
ただただ泣いていた。
そのうち姉が段ボールを持ってきてくれてこすもを納めることができた。
次の日に父がペット火葬しているお寺へ連絡してくれて、すぐには火葬とは行かなかったのだが数日、火葬まで預かってもらうことができた。
私の会社からすぐそばのお寺だったので、仕事を少し早退させて頂いて、火葬の日は一緒に過ごすことにした。
その日見たこすもはこすもに間違いはなかったのだが、「こすも」だった。
そこにもういないんだな、とすぐにわかった。
火葬の後、お骨を拾うと本当に細い骨ばかり。
こんな体でよく頑張って生きてくれたと胸が苦しくなった。
でも、今きっと楽になったよね、とも思った。
ペット霊園のお墓はお寺の地下にあり、こすももしばらくそこで預かっていただくことにした。
骨壷に入ったこすもは、生きている時よりも重くなった。
後日お供え用にと造花のブーケを作ったのだが、作りながら無性に泣けてきた。
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16年前の一目惚れが、こんなに長く続くとは思わなかったけど、「こすも」が売れ残っていてくれて良かったよ。
後悔よりも良かったという気持ちの方か、今は強いかなと思う。
またいつかどれかの命に生まれ変わって、私のところへきてくれたら嬉しいな。
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