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後輩のハシモトちゃん

私のいる職場は男性社員が多い。女性社員は比率的に全体の3割程度だと思う。

職場の雰囲気はアットホームで、いい意味で言えば、女性に優しいし

悪い意味でいうと、男尊女卑的な部分も残る古き良き会社と言える。

私はこの会社の業界が好きなので5年も6年も続いているが、

大体新入社員は3年をめどに他の会社へ巣立って行ってしまうのがデフォである。

私の部署は女性社員が私を含め5名、パートさんが1名。

男性社員は4名なので会社全体から見ても女性比率の高い部署と言える。

私が働いているうちに、女性社員が何人か入り、何人か辞めていった。

それぞれの理由や意思があるので、尊重したいところではあるが

教育係の私にはちょっと寂しいものもある。

この度、2年ほど勤めてきたハシモトちゃんが辞めるという話を聞いた。

ハシモトちゃんは25歳くらいで、他の誰より向上心の高い女の子だった。

体格はとても細くて、顔が小さい。

かといって小柄かというと、実は思ったより背は高かったりする。

子供の頃は外国で暮らしていたので、価値観が違うことが多々ある。

子供の頃に、外国人だと疎外されたこともあったそうだが

そういうことも彼女の人格形成に影響を与えているのだろう。

前向きで、悪いところが見つからないくらい満点ガールだった。

今の会社の仕事内容は私のしている仕事よりずっと難しく、

考えて行動しないとできない仕事であるにも関わらず、そつなくこなしている(ように見える)

電話対応もバッチリ。2コールしないうちに取ってしまうので、私なんかはよく空振りしたものである。

偏見がないので、太ったおばさんの私のことをよく褒めてくれた。

私の年齢を聞くと驚いて、すぐ忘れるからまた教えてくださいという。

どういうことかというと、

私がその年齢に見えないので忘れた後でまた年齢を聞いて、いい意味で驚きたい、

のだという。

ちょっと変わっている。

私の部署の後輩たちはとてもファッションが好きだし、おしゃれさんである。

私自身はというと、好きな格好はするが、それは特に高価なものでもない。

むしろ太っているのだから高価な服は入らないし、似合わないのだ。

それでもなんとなく着る服を、ハシモトちゃんはふとしたときに褒めてくれる。

私の時代なら、太ってるだけでアウトだし、特に褒められることもない。

これは今の時代のせいなのか、そんなことも気にしないで、

その格好をしているけいしゃさんが好きと言ってくれる。

私はハシモトちゃんを可愛がっているし好きなので、そのまま純粋に受け取っているが

実は最大限のお世辞なのかもしれない(笑)

そんなハシモトちゃんが、あと一ヶ月ほどで辞めてしまうなんて

考えたくないし、笑顔で送ってあげたいのだけれど、

ちょっと考えるだけで寂しく。

でも引き止める理由はないと思っている。

なぜならハシモトちゃんは自分自身で、もっとハシモトちゃんらしくいられる場所を見つけたのだし

先輩なんだから、背中を押してあげたいと思う。

*****
辞めると聞いてから、ハシモトちゃんが初めて入社してきたときのことを思い出している。

新卒ではなかったので、ある程度の仕事は最初からできたと思う。

私自身褒められて仕事を覚えていきたいタイプなので、よく褒めた。

ちょっと過剰なので、子供扱いされている気になったかもしれない。

その時のことをハシモトちゃんは、「こんなに優しい人初めてだと思いました」と言った。

私自身入社した時に優しく教えて頂け、その先輩方へのお返しは後輩にするべきだと思っていたので

私が本当に優しかったのかは定かではないが、おそらく優しかったのは転じて私の先輩だったのだと思う。

あまり知らない業界であるにもかかわらず、ハシモトちゃんは本当によく頑張ったと思う。

*****
私はこの業界が好きだし、きっとずっとこのまま働き続ける気がする。

それでも愛着のある人が辞めていくのを見ると自分も辞めたくなる。

でも私が辞めるのは、ずっと先になりそうだ。

自分にとって新しい価値観をもたらしてくれた、15歳も年下のハシモトちゃん。

教わる事は必ずしも、年上からではない。

改めてそう思わせてもらった。

ハシモトちゃんがこの先、幸せでありますように。

私はもう少しだけ、あなたに教わることにするよ。

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