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ブラジルの備忘録 23
備忘録23
私はありとあらゆることに疲れてしまった。私はブラジル音楽を勉強しに来たのだが、勉強する以前に仕事をしなければ生きて行けないという非常に苦しい、しかし、恵まれた環境にあり、新しい曲を覚えては歌うという自転車操業のような状況であった。歌わなければ自分の居場所がなくなってしまうのに、夜ごと歌いに行くと大学のポルトガル語の勉強はおろそかになる。家に帰れば同居している女性、キムとまた、嫌でも向き合わなければいけない。彼女が悪いわけではない。韓国の人が日本を悪く思うのは、戦争の痛ましい経験のせいである。確かに日本国民にも韓国の人を不当に扱うような悲惨な過去があった。関東大震災の時、韓国人が井戸に毒を盛ったという噂が流れ、撲殺されたような話も聞く。誰が悪いという批判を展開したところで話しは始まらない。ただ、私は非常に疲れてしまった。彼女が純粋にバスの車掌に恋をしていることは応援したいが、犯罪が横行するブラジルで、あまり親しくもない男性を、夜、家に招くのは狂気の沙汰だ。
私は思い切ってリオに出ることにした。最初からリオに行くのは無理だったから、ポルトガル語学科の同級生がリオ・デ・ジャネイロに旅行に行く時、一度同行し、バスターミナルで旅行者向けの安全そうなホテルを探してもらい、そこに1週間ほど滞在してポルトアレグリに戻って来た。
「焦げ付いたガスコンロをどうにかしないといけない。それと、アパートを家主に返さないと。」
さて、どう説明するかは問題だ。まさか、恋に狂った韓国人女性が、ぼーっと料理をしていて、布に火がついて、焦げてしまったとは言えない。危うくボヤ騒ぎだったのだから。あれはカーニバルが終わったすぐあとくらいだっただろうか。そういえば、カーニバルの前後に、ノルミーニャと再会した。