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ブラジルの備忘録17

備忘録17
1985年、週末になると友人たちはマハラジャに繰り出していた。「ボディコンシャス」の服を着て、お立ち台に乗って。素人の女子大生がレポーターや司会を務めてたりしていたフジテレビ「オールナイトフジ」という番組のお陰で、女子大生、女子短大生というだけで、チヤホヤされていた。あの踊り明かした夜は今どこにあるのだろうか。
バーゲンのシーズンになると、デザイナーズブランドの服を買うため、渋谷の丸井の前に長蛇の列ができて、マヌカンと呼ばれた軽く後ろを刈り上げにしてある、全身黒ずくめの女性店員が、上手に客をさばいていた。バーゲン品であるにもかかわらず、何万という値札が付いていて、今なら2000円の服が、2万円だったような時代だ。家にいたままで、ブランドの服が買えるようになるなんて思いもよらない時代。時代はまさにバブル絶頂期を迎えようとしていた。
 
短大生の私は極めて能天気で天然だった。だから、友人にノートのコピーを渡すくらいで、恋愛感情を疑われるなんて、予想外であった。それに短大時代、英語の先生をしていた某氏が大好きで、憧れていた。ちょっと頭のてっぺんが禿げていて、フランスの漫画の「タンタン」に似ていた。先生は一学年上の先輩と付き合っているという噂があった。先生とはあまり接点がなかったので、遠くから見るのが精一杯だったし、英語はせいぜい週1回の授業であったので、会話する機会などまるでなかった。とても優しいお友達が、先生が遠くに見えると、
「あ、オマちゃんの先生だ、こっちに来るよ」と教えてくれる。教えてくれるのは有難いのだが、先生を目で追うのに夢中で、段差に気付かず、近づいて来た先生の目の前で転んでしまった事があった。学食で意中の人は誰かという討論会になった時、みんなは付き合っている彼氏がどんなに素敵かを話していた。
「おまちゃんは?」
「私、某先生みたいな人がいいんだ、優しそうで。なんか好きなんだ。付き合うとかじゃなくて、素敵だなあ」
と言った瞬間友達が、
「おまちゃん、後ろに先生」
と言って振り返ると、先生が少し薄くなった頭を赤くしていて、後ろ向きで、無言でその場を立ち去って行かれた。
私は恋愛というのが未だによくわからない。こう言う鈍感なところは今も昔も変わらない。私はジャンゴの弾くジプシージャズというのが好きなんだと気がつくまでに何十年とかかってしまった。好きになると好きなものは変わらない。とにかく要領が悪いのである。

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