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芥川龍之介著「点鬼簿」を読んで
病院の待合の時間に読めてしまった短編「点鬼簿」は、中学生以来の再読だ。陰鬱とした印象しか残っていなかったこの小説は改めて読んでみると母、夭折した姉、父の三人ばかりの思い出である。中学のときは亡くなった方がいっぱいで龍之介の幼少期は死の影に彩られていたように思っていたが、それは私の曲解で早くに亡くなったのは三人だったのだ。
ただ私の青年期には「死」は忌避するもので、何となく怖いものだった。それが、ある年代より「死」が身近に感じられ、次に自分のゆく場所として考えられるようになったが、芥川龍之介のこの作品にも「死」への親しさのようなものを感じるのだ。
それは、気の狂った母への親しさや、夭折した姉の記憶や、好きではなかったと思われる父の死に涙したことを細々と思い出し、悼むことの中で誰が一番幸せな人生だったかと思い巡らせる芥川龍之介には、想像するが、今世でよりもあの世に逝ってしまった墓の中の家族の方が親しく感じるようになっていたのではないだろうか。
そしてこの作品発表の翌年、芥川龍之介は服毒自殺をした。35年の生涯だった。