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「君が戦争を欲しないならば、何をなすべきか」高畑勲著(岩波ブックレット)を読んで

詳細な高畑氏の少年時代に経験した岡山空襲とその戦後を描いている。その筆致は半藤一利氏に似ていて極個人的な経験として描かれている。大所高所から戦争を描く方法ではなく、「高畑少年の戦争」を描いている。

この中で、印象に残ったのが岡山の詩人、永瀬清子さんの詩の抜粋だ。

(以下抜粋)いつの間にか一番近い相手を
よろこばせたいのが日本人です
だから、何で食うかが大切です

頭で食うのはとても危険です
なぜなら、もし世の中が変わったら
じぶんがじぶんに頼って云うことができず
云えば食えず
(以下省略)

ああ、頭で食っていけたら素晴らしいかと思っていたが、そこにはそんな罠が仕掛けられていたとは…
人は食わなければ死ぬ、という基本的で明らかな事実を忘れがちで、始末が悪いことには、忘れている時の精神の飛翔が心地よい。だから、イカロスのように飛翔しようとする。

そうして、高畑氏は日本人が日中戦争及び、太平洋戦争になだれ込んだ事実を日本人の次の気質に見るのである。すなわち、「ずるずる気質」と「空気を読んで横並び気質」である。

「ずるずる気質」は成り行き任せできちんと責任を取らない気質で責任の所在を明確にしないことも含まれる。「空気を読んで横並び気質」は異質な意見を排除して均質な者たちでなあなあでやっていくことである。

高畑氏はこのふたつを危険なものとし、歯止めは憲法九条しかないと結論づける。憲法の理念、理想が日本人には決定的に欠けていて、決定的に必要なものだという。

このブックレットは高畑氏の遺言状でもあり、私たちへの贈り物でもある。

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